俺はそれなりに人に親切に生きてきたつもりだった。
だのに俺はこの惨めなおっさんを心の底から殺してしまいたいと思っている。
嗚呼、あの時、あの沼であいつらがおっさんに石を投げた時、知らんぷりして畑の世話に戻っていたら!
おっさんは口に泥だのヘドロだの詰まらせて、あの深い沼にブクブク沈んでいっただろうに。俺が今脳天を掻きむしりたくなるほど苛まれているこの悩みは、全部まとめて綺麗に沼の奥底に眠っていただろうに。俺は自分がこんなにも嫌な人間だったと気づくこともなく、平穏に日々を過ごしていただろうに。
死んで欲しかった。切実に。
だが、俺は最後の最後でおっさんを殺すことを踏みとどまっていた。
自己保身ももちろんあったが、こんなにも無害かつ無能でなんの悪事も働けないみじめでみっともない男を殺すのは俺の僅かばかりの道徳心に反しているように感じられた。