だが、俺の周りにいたやつらはそうじゃなかったらしい。
そいつらは自分たちが持っていた丸くて白い皿みたいなものに3つ穴が空いただけのお面を沼の真ん中に投げた。
そんで、そのお面を指さしておっさんに取ってこいって命令する。取ってきたら一緒に遊んでやるからってな。
おっさんはもう喜んで、デロデロにヨダレ垂らして夢中になって沼に入ってく。
俺はすぐにやめるよう言った。親切心からではなく、単純におっさんがお面を拾ってきて一緒に遊ぶハメになるのが嫌だったからだ。
だが、おっさんは止まることなく泳いでいく。
沼は深く、おっさんは中心に近づくに連れてだんだんと頭が沈んでいった。
沼の中の泥だのヘドロだのがおっさんの口の中に入って汚かった。おっさんはギィィギィィって鳴きながらお面を目指す。
俺はおっさんを眺めながら、何故か心臓がバクバクと鼓動を打つのを感じた。
何かとんでもないことになる予感があった。
おっさんはなんとかめちゃくちゃに腕を動かしながら泳いで、お面まで辿り着く。
その時だ。一緒に見ていたやつらが一斉におっさんに石を投げ始めた。笑い声と共に石が宙を飛び交い、歓声があがる。
石はおっさんに当たり、おっさんは沼に沈んでく。
おれは必死になってやめさせようとしていた。
こんなことがばあちゃんに知られたら死ぬほど怒られるだろうっていうのもあったけど、やっぱり1番の理由はおっさんが可哀想になっちまったからだった。
俺はおっさんを心から嫌悪していたが、それはなにもおっさんに非があるからではなかった。
俺はおっさんに嫌がらせをされた訳でも、親を殺された訳でも、故郷を焼かれた訳でもない。俺がおっさんを嫌いなのは、おっさんの存在そのものであり、彼自体にはなんの罪もなく、まったくもって無害で悪いことなぞ1つもしていないのだ。
おっさんは俺にとって許せないほど気持ち悪いだけだった。
俺はそんなごく個人的かつ自己中心的な考えで1人の人間を見殺しにしようとしている。
その事実が恐ろしかった。
結局俺はすっかり怯えきってウッウッと哀れっぽく涙を流すおっさんを抱えて沼から助け出してしまう。
そこからおっさんは俺にベッタリと懐き、片時も離れることが無くなった。