わたしと男の子は柔らかな風に押されるようにして二人で並んで、ゆっくりゆっくり
光のある方に歩いて行きました。遠くて、すごく、すごく小さい光でした。

 その光の前まで来ると今度は辺り一面、光の中なんです。その場所まで連れて行くと、
男の子にわたしの体から出てもらい、代わりにわたしの魂が自分の体に戻ったのです」

男の子が出ていって気づいたこと

 「最後に洒水といって水をかけますが、水をかけられる感覚はわかるんですか?」

 「ええ、読経が始まると水をかけられるのですが、その水がすごい熱いんです。
最初は『アツ! 』と声を上げるほどで、熱湯をかけられたんだと思っていました。

 死者の魂がわたしの体を出て真っ暗な世界から明るい世界に行くのと、読経が終わる
タイミングがいつも同じで、『ああ、疲れた』と思ってわたしの体に戻ると、住職さん
から名前を呼ばれて目を覚まします。

 この儀式が終わるまで、わたしの体は、完全にはわたしのものではないのです」

 目が醒めたときのことは覚えていないが、あとで聞くと、周りにいた人はみんな泣い
ていたという。

 彼女は、憑依する霊と彼女の関係を、加害者と被害者という関係で語っているが、
5歳の男の子の登場で、そういう単純なものではないことに気づいたのだろう。

 「本当の意味で現実がわかった」という。霊のいる世界も、現実を反映して複雑で
あることを理解したということだろうか。ただ、どんなに複雑であっても、彼女の体験
は、現実の世界では誰にも打ち明けられないことだった。

 (中編に続く! )