男の子は幼い声でした。亡くなったことも含め、今この瞬間でさえ、自分の身に何が
起こったのか理解していないのでしょう。

 すると住職さんは、『僕ね、死んだんだよ』と言ったのです。5歳の男の子は『死ぬっ
てなぁに? 』って尋ねました。

 『死ぬってわからない……、ここはどこ? 』

 『お寺だよ、わかる? 』

 『わかんない』

 住職さんとの間でそんな会話が続いていました。

 これまで個性の強い人たちばかりで、自分の体を取り戻すには死んでもらわなければ
困ると割り切っていたのに、自分の死も理解していない子に鞭打って、『わたしの体から
出て行け、この悪魔め! 』と言えるのだろうか。

 津波で死んだこの子をもう一度殺すのか。親も知らないこの子の最期をわたしだけが
知っていて、親がそれを知ったらどう思うだろうと、わたしの感情は大きく揺れ動きました」

 彼女は、これまで「津波で一度死んだ人を二重に殺している」と感じていたが、5歳の
男の子の体験でそのことをはっきり自覚したそうだ。

 しかしわたしは「二重に殺している」と言われても、なんとなくわかったような気が
するだけで、どう理解していいかがわからなかった。というより、彼女の言葉は、私の
理解を超えていた。