「死者が体に入った時点で、臨死体験に近い状態」
 またもや高村さんが沈黙する。

 「わたしが見ているものと、住職さんが見ているものは別というか、男の子がわたし
の体に入った時点で、わたしはほぼ臨死体験に近い状態になるんですね。

 あの世とこの世があるとしたら、その間にぼんやりとした狭間があって、男の子と
わたしはその狭間にいるんです。わたしに見えるのは、目の前の真っ暗なところに立
っている男の子。

 わたし(の魂)がいる世界から、現実の世界は見えないようで、奥さんが伸ばした手を
男の子がお母さんの手だと思って掴むといったところは見えるのですが、住職さんたち
の体は見えません。

 男の子はわたしの体を通して住職さんを見ていますが、住職さんが見ているのはわたし
の体で『実際の男の子』は見えません。ただ2人がやりとりしている会話は聞こえます。

 住職さんの姿は全く見えないけど、声だけがどこからともなく聞こえるという感じです。
住職さんと喋っているのは、男の子が入ったわたしの体ですが、そのやりとりをわたしが
第三者として眺めているんです。

 周りにはたくさんの死者がいて、次は自分の番だと争っていて、それをわたしが抑えて
いるのですが、抑えきれないと声が大きくなって街中の雑踏にいるような感覚で、二人の
会話が聞こえないこともありました」

「津波で一度死んだ人を二重に殺している」
 「どこにいるか、わかんない」

 金田住職の問いかけに、男の子がうつむきながらそう言うのが聞こえてきたという。

 「子供が泣いているんだから、誰かこの子に手を差し伸べてよと思っていると、
だんだん住職さんの声が近くなってきて、はっきり聞こえるになりました。