津波で亡くなった男の子の霊

「5歳の男の子はなんで憑依したんですか」と、私は尋ねた。彼女は視線を外して沈黙
を続ける。こういう時は思考を整理しているのだろう。

 「津波で亡くなった男の子でした。幼稚園バスに乗っていてそのまま津波に飲まれた
ようでした。バスの中の映像、幼稚園の先生の叫び声、他の子供たちの声、水がバスの
中に入ってきて、横転する――。

 その子を通して私が見たのはそういう内容でしたが、男の子はよく分かっていない
様子でした。恐怖心はあるけれど、何が起きているのかわからないようでした。

 だから、自分がどこにいるのかもわからないようで、迷子になって心細くてモジモジ
している……、そう、迷子になった子供です。すると住職さんが『ぼく、どこにいるか
わかる? 』と訊いたんです」

 「金田住職の声は聞こえるのですか?」

 「ええ、わたしはその男の子といて、住職さんは声が聞こえるほど近くでした」

 「近くということは、遠いときもあるのですか? 現実の世界とは違うと思いますが、
高村さんと男の子と金田住職はどういう状態になっているのですか?」