ただ、私自身は、憑依した霊に対してなぜ「罪悪感」を感じるのかと訝りながら、
彼女がいる世界をとらえるには相当の時間がかかりそうな気がした。

「除霊」は死者を殺すこと?

 そこで私は、「なぜ罪悪感なのですか?」とストレートに尋ねた。

 「死者に入られるというのは、わたしの魂がわたしの体から外に出て、かわりに
亡くなった人がわたしの体を乗っ取るようなものです。自分の体を取り戻すためには、
入った人に死んでもらうしかありません。

 住職さんの言葉で言えば『成仏する』ということなのですが、わたしが見ている
世界では、『もう一度その人たちが死んでいく』のですから、わたしの中では殺した
という感覚が残るんです」

 彼女の口から「死んでもらう」とか「殺した」とか聞くとゾクッとするが、心の
片隅で「自分は精神病と紙一重じゃないか」と思っている彼女にすれば、そういう
強い気持ちでいないと、正常な精神を保てなかったのかもしれない。

 「ここ7、8年、わたしが30人近くを殺したんだという罪悪感で苦しんできました。
その一方で、それは悪いことではないし、彼らは死んでるんだから、わたしの体を
取られるわけにはいかないと居直ってました。

 そんなときに5歳の男の子が現れたのです。ああ、こんな小さな子供まで死なせないと
自分の体を取り戻せないのかと思ったとき、現実を知ったというか、わたしの感情は
グジャグジャになってしまいました」