彼女が金田住職に「除霊」を受けたのは8年も前だが、これまでその体験を、
金田住職を通して語ることはあっても、彼女自らが語ることはなかった。

死者がつないだ奇妙な縁

 それがなぜ私と会うことになったかといえば、ある意味で、拙著『看取り先生
の遺言』(文春文庫)で紹介した岡部健医師のおかげともいえた。

 金田住職から彼女の連絡先を伺って電話を入れたときだった。いきなり彼女から
「わたしは岡部先生と住んでいたことがある」と言われたときは、私の頭の中は
「えぇー?」とパニック状態になった。いつ? どこで岡部さんと? それとも愛人? 
 あとで金田住職に電話を入れてみると、8年ほど前に何人かと一緒に彼女と話をして
いたとき、「いつもわたしのまわりに飄々とした人がいる」という話をしたので、その
場にいた全員が「岡部先生だ!」と反応したそうである。

 そのとき彼女は名前までは知らなかったのだが、金田住職の部屋で岡部医師の
写真を見たとき初めて、飄々とした男性が「岡部」という名前であることを知った
そうである。

 霊の存在を信じている人は、彼女は岡部医師の霊(魂)がそばにいるのを感じてい
たと理解したのだろうが、そこまで信じていない私には、彼女の言葉をどう理解し
ていいかまったくわからなかった。

 いずれにしろ、私が彼女と会うことになったのは、たまたま岡部医師の本を書い
たのが私だったということのようである。