「あ、もしかしてさっきの事故のやつか。血は出てなかったけどな」と
思いましたが、Sさんには恨まれる心あたりはまったくなかったので、心の中で、
「俺は何の関係もねえだろ、車のやつと介抱した野次馬を恨めよ。俺、関係ナシ」
こう何度も唱えました。体はやっと指が動き始め、右手の肘も曲げることができた
そうです。Sさんは「これはもしや、昔の組時代の俺を恨んでるやつかもしれない」
そうも考えたので「ありゃしかたねえことだった。お互い様で恨むのは筋違い」
そのうち、体が動く感じがしたので、
「俺を舐めるな、クソ野郎!!」と絶叫してベッドの上に跳ね起きました。
そのとたん、クローゼットの扉がバターンと閉まりました。
Sさんはベッドの下から金属バットを引っ張りだすと、
持ったままクローゼットを開けて中を確かめ、

そのときは何もおかしな物は見つからなかったので、クローゼットの前で、
「舐めるんじゃねえ、コノヤロウ!」と叫びながら、
何度も何度もバットを振り回したそうです。そのうちに、
他の部屋から苦情がいったのか、従業員が来まして、Sさんは着替えて
ホテルのロビーに行き、そこで朝まで過ごしたということでした。で、8時ころに
チェックアウトしたんですが、そのときクローゼットをしっかり調べると、
一番下の引き出しに、ホコリにくるまった小さな頭蓋骨、たぶんネズミの仔のもの、
があったそうです。結局、クローゼットが夜中に開閉した原因はわからずじまいでした。
こういう話を聞かされまして、Sさんは、「ずっとヤバイ橋を渡って、
 海外も何度も行って、不可思議なことはこれだけ。やっぱホテルの客か従業員が、
 何かたくらんでた可能性が一番高いよな」と言ってました。

終わり