わたしは信用金庫に勤めておりまして、昨年の秋に転勤してきたんです。
家族で引っ越してきたものですから、郊外の一軒家を借りることになりまして。
築20年ほどでしたか、やや古びてはいましたが、
部屋数が多くて2人の子どもにも、それぞれ自分の部屋を用意してやれたんです。
周囲には緑が多くて、最初のうちは、
いいところに越してきたなって思ってたんです。
ええそれが、隣人に問題があったんですよ。うちの右隣は道路でしたが、
左隣がその山田さんというお宅で、夫婦2人だけで住んでいたんです。
旦那のほうはなんでも、ある機械メーカーの研究所に勤めていた
ということでしたが、だいぶ前に退職して年金暮らしをしてました。
そうですね、山田さんのほうが70代で、奥さんは60代後半だったはずです。

でねえ、それがじつに意地が悪いというか、陰険なところのある人たちで・・・
引っ越した最初にまず、あいさつに行ったんですよ。まあ、ああいう片田舎では
近所づき合いが大事だと思って、引越しソバを持ってね。
そしたら山田さんが出てきたんですが、開口一番、
「うちとお宅の境にある柿の木を伐ってくれ」って言われたんです。
垣根を枝が越して伸びてるし、秋になると枯れ葉が落ちてきてたまらんからって。
もちろんその木はわが家が植えたんじゃなく、
以前からあったものなんですが、そんなことを引っ越し早々のあいさつのときに
言わなくたってよさそうなもんじゃないですか。そのときは、
「そうですかわかりました」って言って、ソバを置いて帰ってきました。
それからすぐ、植木屋を呼んで柿の木は伐らせたんです。