■「やればできる」がもたらした社会の分断
アメリカは格差社会だが平等な機会があり、勤勉で才能があれば誰でも出世できる、というのがアメリカンドリームの信念だ。
オバマ大統領は在任中、「やればできる」と140回以上繰り返したという。

だが現実には、貧しい家庭に生まれたアメリカ人は大人になっても貧しいままであることが多く、
名門大学に進学し高い報酬を得られる職につくのは裕福な家庭の子弟だ。
社会の流動性は中国よりも低く、アメリカ社会はまるで新たな世襲貴族制の様相を呈している。

エリートたちは、生まれた環境という運の要素が成功に強く影響していることに無自覚で、自らの努力と能力で成功したと信じ込んでいる。
さらには、経済的に困窮する人たちは大学の学位を得る努力や能力が不足しており自業自得だ、と無自覚に見下す。
こうして社会に「勝者と敗者」、「賢い人と愚かな人」という分断が生じてしまった。
トランプ大統領登場の背景には、見下された労働者の屈辱や怒りがあったとサンデル教授は分析する。