* それを認識した瞬間俺は「うおっ」と短く叫び後退りした。
* どうすればいい?誰?大きい声で叫んで隣の人に迷惑だったかな?警察を呼ぶ?なんて考えが一瞬で頭の中をぐるぐる駆け巡った。
* この時はまだ、人間の仕業だと思っていたので、驚きはしたものの、現実的な手段で対応しようと思っていた。
* 俺が出した結論は、今すぐ表に出て、直接問い詰めに行くことだった。
* パンツとTシャツで寝ていたが、お構いなしにその格好で、万が一を考えてキッチンにあった包丁を握って背中に隠しながら外に出た。
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* 玄関から駐輪場までは目と鼻の先なので、出てすぐに辿り着いた。だけど誰もいない。
* この辺は一本道なので、走っても到底逃げきれないし、近くの家は塀があったり、この短時間ではどうにも隠れようのない場所だ。
* あたりを見渡しても姿は見えず、駐輪場の物陰なども覗いてみるがどこにもいない。
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* おかしいなぁと思いながらふと、逆に出窓の隙間から自分の部屋を覗く。
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* さっきの顔があった。
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* 土気色の顔。窪んだ目。
* 部屋の中からこちらを見ている。
* 一人は出窓から、もう一人は奥の布団に突っ立っていた。
*
* あり得ない。駐輪場から玄関まで、俺とすれ違わずに部屋に行くことなんて不可能だ。