わたしが子どもの頃のお話をします。

五月に入ったばかりの日暮れ時のことでした。
村の田んぼ中の一本道を「おほほほほぉ〜」
と絶叫をあげて走ってくるものがいます。
下の瀬の茂平です。肩に鍬をしょったままものすごい勢いです。
よく聞くと茂平はこんなことをがなり立てています。
「隣の仁吉さあ の倅はじつはオラの子じゃああァ 
あんまり仁吉の嫁がかわゆいて、オラ夜這いをかけたんじゃあああ〜〜〜」

それをたまたま丘の畑で見ていた上郷のヲスエ婆さんが、
上からコロリコロリと前転をして下りてくると、
「嫁を殺したのはオラじゃあ〜 立ち居振るまいの一つ一つが憎くての〜
毎日少しずつ飯に農薬を入れとったのよォ〜」
絶叫しながら茂平の後について走ります。