秋になって、例年ならどっさりマイタケなんかを採ってくるはずが、
その年は1回もなかった これは残念だったな 俺も弟もキノコ汁が
好きだったんで でな、じいさんは畑には毎日出てたが、ある日、
遅くに戻ってくると、「やつらが山を下りてきやがった 畑まで来るとは、
 わしを相当憎んでおるんだろうなあ」こんなふうに言ったんだよ 
「やつらって?」 「中国から来たやつらだ わけあってうちの山に
 住まわせておったが、この間、話がこじれてやつらの王様を
 殺してしまったから」・・・うちのじいさんは、ちょっとの間だけど
戦争に行ってるんだよ そのときの話はしてくれなかったが、
後で親父に聞いたところ中国戦線だったらしい けど、召集されてすぐ
終戦になって、じいさんは戦闘らしい戦闘もせずに帰って来たって
まあ、運が良かったってことだろうが、中国人を日本に連れてくる

余裕はなかったろう だから、この話も意味不明だった そもそも、
うちの山は人が住んで暮らせるようなとこじゃない
でな、じいさんは続けて、「今日はわざと日が暮れてから帰ってきたが、
 家のありかをやつらに知られるとまずい」そんなことも言ってな、
翌日、家の庭に罠を何個も設置したんだ これはさすがに、
ハサミ罠は危険なんで、親父が反対したな 下手をすれば骨が折れる
けど、じいさんは言うことをきかず、誰も庭に出るなって言ってな
田舎だから、庭って言ってもけっこう広いし、いちおう低い垣根はあるが、
その外の林との境もあいまいなんだよ それから、じいさんは毎朝早くに起きて、
庭の罠を見回るのが日課になった けどよ、あんな罠にかかるような
動物が家の近くまできたことはなかった