うん、家で山に行くのはじいさんだけだった。親父は農協の職員で、
そんな時間はなかったし 母親は山なんかに興味はない
あと、俺と弟だが、じいさんが山に連れてってくれたことはないんだ
「危険がある」って言ってな けどよ、山ったって、高さ数百m
今考えれば、そんな危ないことはねえと思うんだが、それはきっと、
山にあいつらがいたせいなんだろうなあ え? あいつらって何かって、
今からそれを話していくんだよ。あれは・・・夏だったのは覚えてる
俺は夏休みだったからな。その夕方、夕飯前に山からじいさんが
帰ってきたんだが、何か様子が変だったんだよ 
どんと庭先にカゴを置いて、それから外の水場に行って、
いつも持ってる山刀の刃をごしごし洗い出してな

たまたまそれ俺が見てたんで、じいさんに「そんなことしたら刃が
 錆びるんじゃねえか」って言ったんだ そしたらじいさんは、
「なーに、後で油をさしとくから心配ねえ!」って言った 
でな、そのとき、なんかじいさんの目が血走ってる気がしたんだ
いや、いつもは俺らには優しいじいさんだったんだが
それで、「山で何かあったのか?」重ねて聞くと、じいさんはぽつんと、
「ちょっとしくじった 誤ってやつらの王様を殺しちまった」って言ったんだよ
わけわからんだろ、山に王様がいるか? けど、「どういうこと?」と
言っても、それ以上じいさんは答えてくれなかったんだ
それから、じいさんはぱったり山に行くのをやめたんだ