小さい砂ガニは
波打ち際から
少し離れた穴に潜み
海を見つめ そして
海を待っている様子であった
水と空気と浜辺は
海の闇に支配されていた
突然わたしは
あるがままの生き物の姿を
初めて見たと言う
不思議な感動に囚われた
つまり それまでに感じなかった
事ではあるが生存の本質を
理解したのであった
その瞬間 時の流れが停止した
わたしは この世界の物ではなく
別の宇宙から来た
傍観者のようだった
海と共にある 孤独な小さなカニ
その姿は繊細で壊れやすい生命を
この無機質で厳しい現実の中に
懸命に確保していこうとする
信じられない活力の象徴だった

レイチェル カーソン