円光で有名な島袋光年の漫画『トリコ』に登場する悪役の三虎(みどら)の話。

現実ではあり得ないような奇想天外な食材が存在するファンタジー風の世界が舞台。
何百年も昔、世界が滅びかねないような大戦争が長い間続いて、世界中で飢饉が起きたという時代があった。
三虎は、そんな狂った時代に生まれ落ちた。
彼が覚えている最初の記憶は、「殺されそうになった」ということと、「ひたすら腹が空いていた」ということ。
生まれてすぐに、大人達の手で「餌」として肉食の家畜の小屋へと放り込まれたのだ。
他の赤子達が無慈悲にも家畜に食われていく中、三虎だけは「天性の捕食者」としての才能を発揮し、家畜に食われないどころか、逆にメスの家畜から授乳されて生き長らえた。
その得意な出生と、食へ対する貪欲さから、三虎は忌み子として人々から怖れられて迫害された。
物心付いた頃には、本能の赴くままに他者から食糧を強奪して野生児のように生きるようになっていた。
しかし、戦争は激化の一途を辿り、世界は破壊され、食糧もどんどん尽きていく。
三虎は枯れ木を食べ、砂を食べるにまで追い込まれたところで、限界が来て行き倒れた。

そこへ、後に英雄として歴史に名を残す「アカシア」という冒険家の男と、そのパートナーである「フローゼ」という女性と、アカシアの二人の弟子が通りがかる。
フローゼは聖母のように心優しい女性であり、三虎を拾って介抱し、手料理を食べさせてあげた。
生まれて初めて他者から向けられた「敵意」以外のもの、温もり、優しさ、そして「施し」に、三虎はただただ泣きじゃくることしか出来なかった。
そのまま三虎はアカシアの三番目の弟子として引き取られ、旅に同行することになる。
母親のように優しいフローゼ、父親のように偉大なアカシア、兄のように頼もしい二人の兄弟子。
彼等と供にすごした日々は、三虎にとって「宝石」のように輝かしいものだった。