「あれは何?」と友人が聞くと、
「なーにたいしたものではない。人の魂などではなく、
 ちょっとした悪い気が凝ったものだよ」と教えられた
大和尚は続けて、「別にあれらが見えなくても、
寺の仕事に支障があるわけでもないし、立派に勤めることができる。
ただ、こういう力が途絶えてしまうのは残念だから」
というような意味のことを言ったらしい
友人にはその当時は何のことかわからなかったが、
友人の母親はその地域のお寺とは違う民間信仰を司る家の娘だった人で、
ずいぶん無理をいってお寺に嫁に入ってもらったという
それで、俺ら一般人からみれば不思議な力が、
友人にも受け継がれたということのようだ

友人にそういう力がこれまで役立ったことがあるかと聞いたら、
葬式のときに引導をわたした後に、
まだ霊魂がこの世にとどまっている気配というのが何となくわかるんだそうだ
それで、その後の儀式の力の入れ方を調節する
たいがいは仏教でいわれる四十九日までとどまっていることは少なくて、
三十日前後で気配は消える。いわゆる成仏するということか
ただ恨みを飲んで亡くなった人などは強い念が残っている
狭い町なので亡くなる前後の事情はだいたいわかっているから、
自殺者などは特に念入りに儀式を行うことにしているという