「死ねしね様」のなにが悪いって、ネーミングセンスが最悪に悪い。

で、事なかれ主義な教育現場、オラが村の小学校では、「死ねしね様」禁止令がでた。
とにかく、「死ねしね様」に関する話題は絶対に口外禁止というやつだ。
オラが村の大人達もテレビを見て常識はあるから、外から来た人をむやみに怖がらせるのも悪いし、
変な宗教扱いされるのも嫌だから、「死ねしね様」のことは話題に出さないようにしたんだよ。

で、おかしくなった。
具体的には、新しくできた住宅街、ニュータウンのほうで自殺とかの事件が起きた。
もっと具体的に言うと、「死ねしね様」のことを知らない人の頭がおかしくなり始めた。

耳元で正体不明のなにかに、「死ね」と言われ続けるんだから、たまったもんじゃない。
逆に言えば、無害なことを知っているからオラが村の人間は安心して居られたわけだ。
人生色々、人生が下り坂のときに、「死ね」と囁かれれば、そりゃ死ぬよな。って、当時の俺は思ってたんだけど、違った。

「死ねしね様」は、昭和の時代には「ちねちね」と呼ばれてた。
何が切欠で名前が変わったのかと言えば、「死ね死ね団」だ。
「死ね死ね団」はミラーマンに出てくる悪の組織の名前なんだが、
「ちねちね」と「しねしね」は音が似ていることから、そう呼ぶようになったらしい。

ミラーマンは1971年の作品だから、ちょうど半世紀前のヒーローだ。
当時、ミラーマンごっこをしてた世代は、もう60になる。
70近い、俺の爺ちゃんは、「死ね死ね様」に「ちね」と囁かれて育ったらしい。
でも、ミラーマンの放送を境にして囁き声が、「死ね」に変わったそうだ。

放送当時は「ちね」と「死ね」が混じっていたんだけど、
「死ねしね様」というパワーワードが強力すぎて10年もすると「ちねちね」が消えて、「死ねしね様」だけが残った。

昔は、耳元で「ちね」と囁かれていた。
今は、耳元で「死ね」と囁かれている。
まさか、「死ねしね様」がミラーマンにハマったわけでもないだろうし、おかしい。
おかしいと思っているあいだにも、ニュータウンの人たちは、おかしくなっていったんだ。