事故は二日目におきた。

二日目の早朝。空はまだ薄暗い時間。
予定より早く目覚めてしまったのだが、体は意外なほど軽くなっていた。
「昨日の疲れは何だったのか?」と自分でも不思議に思えたほどだった。
「今日も同じように疲れるようなら、次の宿泊予定地で帰ろう。」
そう心に決めて山小屋を後にした。

二日目はテント泊の予定だった。
少し頑張れば次の山小屋まで行けるはずだが、無理をしては危険だと思ったため。
テント泊での登山も数少ないが経験はある。最長の旅程とはいっても荷物は特に多いわけではない。
お昼前までは昨日の疲れなど感じず、順調に進んでいた。

しかし食事をした直後から体調に異変を感じ始めた。
スマホは通じないエリアだったので、電波の入るところまでとにかく移動しようと、休み休み移動していた。

連休の合間という時期のせいもあったろう。
それまでの道中、山小屋で会った人を除けば顔を見た人は数名と、極端に少なかった。
泊まった山小屋から俺と同じルートを行く人は一人もいなかった。
そしてこの日は誰ともすれ違うことなく、追い抜かれることもなかった。