翌朝ヘリで病院まで運んでもらったが、診断結果は過労。
その日は様子見で入院したが、翌朝には回復し、夕方までには帰路についた。

彼かもしれない人物の遭難を知ったのは帰宅して数日たってのこと。
俺の行った山の近くで行方不明者が出たというニュースサイトの記事を見てだった。
彼は自分自身のことはあまり話してくれず、また「もともと通っていたルート」についても聞いた記憶はなかった。
一緒に歩いていたとき、少々話をしたが俺の話など上の空という感じで「他人にはあまり興味がないのだろう」といった印象があり、
「そんな一人で生きられるようなタイプならあのまま下山できただろう」という思い込みがあり「彼でない同じ苗字の人だろう」と決めつけていた。
そして何より「なぜ何も言わずにいなくなくなるとは、たとえ助けてくれたとしても無責任な人だ」との少しの怒りもあったので、彼のその後のことはあまり気に留めていなかった。

だから警察から電話が来たとき、途端に彼の遭難が現実味を帯び、思わず「知りません」と言ってしまったのだった。
警察からの情報では、苗字だけでなく、俺の記憶にある彼の装備とも一致していた。
疑問点があるとすれば、彼が登山者カードを出していたエリアから、俺のいたエリアまで「道に迷ったくらいで来るか?」というところだけ。