「いっせいの、でとって、手にはさんで同時に開くんだ」
それで手近ののを一つ外して、濡れてよれたのを開いて松山のと比べました。
自分のは中吉、松山のは凶でした。負けたのがわかったんでしょう。
「今のは練習な。もう一度やろう」
二度目は自分が末吉、松山はまた凶でした。
松山は「ふん」と鼻を鳴らし、くじをもみくちゃにして足元に捨て、
「最後もう一回やろう。最後に勝ったのがホントの勝ちだ」
松山は木の下をうろうろして、時間をかけてくじを選ぶふりをしながら、
透かして字を見ているようでした。

よさそうなのを見つけたらしく、自信満々に戻ってきて開いて確認していました。
ズルですがしかたありません。それから同じように掌に入れて開いたとき、
松山の掌から長い褐色のものがこぼれ出ました。ゲジゲジだと思いました。20cmはありました。
こんな冬中にゲジゲジが外に出ているはずはないし、そもそも子どもの掌には入らないでしょう。
それが松山の足元に落ちて雪の上で身もだえし、また松山の足を這い上がってきました。
「うわっ、何だこれ。うわ」と言いながら松山は払い落し、足で踏みつけました。
ゲジは雪に埋もれてすぐ見えなくなり、本当にいたのかどうかもあやふやな気になりました。
松山の手にあったはずのくじも見あたりません。
松山は「何なんだよ」とつぶやき、興味をなくしたように「もう下りようぜ」と言いました。