そのくせ悪知恵は働くんです。狡猾と言えばいいんでしょうか。
松山の親は、金がないわけじゃないんだけど子どもに無関心で、
学校で悪さをして先生方が親を呼びだそうとしても、絶対に出てこないんです。
そのかわり松山にも、何か買ってやったりとか、どっかに連れてったりとかしないんです。
自分はじいちゃんばあちゃんと同居で、可愛がられていろんなものを買ってもらってたんで、
ゲームとかラジコンとか、そういうのを松山にねらわれて巻き上げられてしまうんです。
物をとられても親には言いませんでした。
そんなことをしたら手ひどく叩かれる上に、物は戻ってこないんだから。
さあねえ、家族もうすうすは知ってたんじゃないですか、松山に取られてることを。

ただね、最初から暴力で巻き上げるわけじゃないんです。
そのあたりは松山にもこだわりがあったんでしょうか。
何か最初に恩を売って「お前のためにこれやってやったから、ゲームソフト貸してくれや」
とか、いろんなパターンがありました。あと賭けなんかも。
2月のことでした。松山といっしょに帰ってたんです、カバン持たせられて。
松山はランドセルを最初から持ってなくて、大人が使うようなカバンで登校してました。
雪道を歩いていると、松山が「神社にいって賭けをしようぜ」と言い出しました。
学校からの帰り道に小山に登る細い道があって、村の氏神神社に続いているんです。