お金は永明さんからのチップでごまかせたものの、小雅がいつポシェットの事を思い出してしまうのか。
早ければ明日、イオンへ行く前に気づくかも知れない。どう言い訳すれば小雅を泣かせずに済むかしら?
できるだけ自然な言い訳を。嘘だとバレても、小雅の心が痛まないような優しい嘘を。どうすればいい?

ドサッ、パタン。

考えながら、ウトウトしていたみたい。私は、玄関から聞こえた物音で目を覚ました。
え?玄関から物音?こんな早朝に?新聞屋さん、お隣さんのドアと間違えちゃったのかしら。
小雅を起こしてしまわないように、そっと布団を出て玄関へ近寄ってみた。

「あっ!」

思わず声を上げてしまった。狭い玄関のたたき、小雅の小さな靴のそばに、ポシェットが落ちていた。
ドアの郵便受けから、落とし入れられたようだった。

「まさか、カラスが返しに来た?」

ポシェットを拾い上げると、小石でも詰まっているかのような感触があった。

「ああ、やっぱり返しに来てくれたんだわ…」

ポシェットに入っていたものは、小雅のハンカチと、私が作ってあげたビーズのアクセサリー。
大将から頂いた、小雅の大切なお給料。
そしてカラスの宝物であったろう、いくつかの飾りボタンやビー玉、片方だけのイヤリングが入っていた。