柔道の世界選手権が開幕し、男子60キロ級で高藤直寿(25=パーク24)が2年連続3度目の優勝を飾った。初戦から決勝まで横綱相撲の連続で、
世界の強豪を圧倒。この階級の第一人者たることをアピールしたが、この裏には2020年東京五輪での金メダル獲得に向けた「新境地」があった。
また、同じ60キロ級に出場した永山竜樹(22=東海大)は銅メダル、女子48キロ級では2連覇を狙った渡名喜風南(となき・ふうな=23、パーク24)が
銀メダルだった。
まさに王者の貫禄だった。初戦から安定した柔道で勝ち上がり、準決勝では世界ランキング1位の永山と日本人対決。試合中に左ヒザを痛めてしまい、
相手の背負い投げで一回転する危ない場面もあった。それでも若武者の勢いを巧みにかわしながら延長に持ち込み、得意の小内刈りでポイントを
奪って競り勝った。決勝ではロベルト・ムシビドバゼ(ロシア)に狙い澄ました小内刈り一閃。技ありとなって、そのまま優勢勝ちした。
3度目の世界一に高藤は「大人の柔道をできるようになった。(前回覇者がつける)赤ゼッケンを絶対に離したくないと思っていたので良かった」と
胸を張った。学生時代から高藤を指導してきた男子日本代表の井上康生監督(40)も「高藤はヒザを痛めた中でも一瞬をものにするすごさ、勝負強さが
素晴らしかった」と目を細める圧巻の強さだった。
昨年の世界選手権、グランドスラム東京大会を制し、今年の世界選手権代表に早々と内定。国内の選考レースを免除された高藤はさまざまな挑戦
を行ってきた。3月には66キロ級で国際大会優勝。4月には体重無差別で柔道日本一を争う全日本選手権に初出場した。さらに7月には2週間家族
のもとを離れ、単身合宿で調整した。
その結果、柔道家として新たな境地にたどり着いた。大会前に高藤が繰り返す「圧倒的に勝つ」という言葉。その「圧倒」の概念が大きく変わった。
これまでは多彩な技を駆使し、見た目も意識する攻撃的な柔道が光っていたが、その意識はもはやない。
「派手に勝とうというよりかは、相手に何もできないと思わせる勝ち方が一番インパクトを与えると思う。そういう気持ちを相手に植えつけるのが本当の
圧倒」(高藤)
圧倒とは相手を「完封」すること。どっしりと構え、相手の技も受け止めながら、さらにその上を行く横綱相撲だ。「若い時はイケイケでガンガン
攻めてっていうのが圧倒したと思っていた」。年齢を重ね、キャリアを積むうちにこだわりを捨て、柔道家としての幅を広げた。それが高藤の言う
「大人の柔道」だ。
階級が上の選手と戦ってきたことで、パワーアップに成功。好奇心のまま柔術の練習に参加し、貪欲に技も吸収した。安定感に加え「他の人とは違う」
揺るぎない自信が備わった。リオ五輪男子代表で今回の世界選手権代表になったのは、高藤と100キロ超級の原沢久喜(26)だけ。生存競争が
厳しい世界でも生き残る原動力となった。
2年後の東京五輪では開会式の翌日に競技が行われる。柔道のトップバッターとして日本勢金メダル第1号を目指す。「盛り上がったまま一番
いいところだと思う。五輪の借りは五輪で返す」と銅メダルだったリオ五輪の雪辱を誓う。

【柔道世界選手権】3度目「金」高藤「圧倒」の概念変わった新境地“横綱柔道”
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