閃光(せんこう)きらめく一瞬の足技に、場内があっけにとられた。事実上の決勝だった永山との準決勝の延長戦。組み手争いの刹那、高藤が不意に永山の懐に
入り込む。ビデオ検証までされた攻防は、左足が確かに相手のくるぶしを捉えていた。滑り込むようにしながらなぎ倒し「小内刈り」で技ありの判定。はた目には
整理がつかぬほど、唐突な幕切れだった。
だが、「偶然ではなく必然」と井上康生監督はみる。1分かかるかどうかの圧勝続きで勝ち上がってきた高藤だが、準決勝開始まもなく寝技の攻防で左膝を痛めた。
足をしきりに振りながら、永山の十八番である背負い投げの脅威にさらされる。「しのいでしのいで。技に慣れてくるゴールデンスコア(の延長戦)にいけばいける」と高藤。
背負いに狙いを定めた返し技を何度もちらつかせ、警戒した隙を狙った小内刈りは「計算通り」。冷静、緻密にデザインされたものだった。
奇襲やオリジナル技に精を出す、天衣無縫のスタイルが最近は目に見えて変わってきた。銅メダルに終わった2016年リオデジャネイロ五輪、続く3歳年下の永山に
2度の苦杯……。特に永山の一本筋の通ったパワーに天才肌の柔道を封じられてから変わった。「この柔道では(東京五輪まで)4年持たない」と、フィジカルを強化。
多芸多才な長所はそのままに、組んで良し、寝て良しの「王道」を磨いてきた。
昨年12月のグランドスラム東京で永山に借りを返し、体重無差別に挑んだ全日本選手権を除けば1年間負けなし。「組み合っても負ける気が全くしない」。
大勝負と位置づけた永山戦を乗り越えた時点で、連覇は決まったも同然だった。
「爆発力や一発はリオまでの方があったかもしれない。でも総合的に勝てる力は今が上」。そう言い切れる「大人の柔道家」が東京五輪へのチェックポイントを
また一つ通過した。

手負いの高藤、足技一閃で「計算通り」の金メダル
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35607430R20C18A9US0000/

女子48キロ級の渡名喜風南(となき・ふうな、23)=パーク24=は決勝で敗れて2連覇を逃し、銀メダルに終わった。
泣き崩れた。立ち上がれない。女子48キロ級の渡名喜は決勝でウクライナの17歳に敗れ、2連覇を逃した。
「悔しい限りです。やってきたことが少ししか出せなかった」
身長差24センチ。1メートル48の渡名喜にとって、モデル体形のビロディドは見上げるほど。過去2戦2敗の好敵手に、一瞬の隙を突かれた。2分7秒。
伸びてきた長い足に対処できず大内刈りを食らって一本負け。苦しみながらもしぶとく勝ち上がったが、最後は力尽きた。
かつて引退が頭をよぎったことがある。渡名喜は2014年に帝京大医療技術学部へ入学すると、高校時代のように勝てず自信を喪失。柔道整復師や理学療養士を
目指そうとも思ったという。
救ったのは、家族から送られた「死ぬこと以外はかすり傷」という言葉だった。気持ちが楽になり自信を取り戻した。今では座右の銘にする。
「自分をコントロールしながら練習に取り組んでいきたい」。かつて田村亮子(現姓谷)が輝きを放った最軽量級。渡名喜は東京五輪に向け、16年リオデジャネイロ五輪
銅メダルの近藤亜美(23)=三井住友海上=らとの代表争いに挑む。バクーで感じた“かすり傷”を糧にする。

渡名喜『銀』17歳に一本負け…身長差24センチ「悔しい限り」/柔道
https://www.sanspo.com/sports/news/20180921/jud18092105010004-n1.html