この場合、銀行としては債権回収のためまず預金と借入金との相殺をします。
 相殺をするためには、相手方の債務の弁済期が到来していることが必要となりますので
(自己の債務の期限の利益は自由に放棄できる(民法136条2項))(同法505条1項。相殺適状)、当社の借入金が
弁済期未到来であれば、本来は銀行は相殺することはできません。
 しかし、上記の銀取約定の規定により、仮差押命令の発令により借入金の期限の利益は当然喪失して相殺適状となりますので、
銀行は相殺が可能となります(最高裁昭和45年6月24日判決)。
 さらに、差押の事案ですが、銀行は差押後においても預金と借入金を相殺することができるとされています(同上最高裁判決)。
 銀取約定でも、「第●条(相殺、払戻充当) 第●項 期限の到来、期限の利益の喪失、買戻債務の発生、求償債務の発生その他の事由によって、
債務者が債権者に対する債務を履行しなければならない場合には、債権者は、その債務と債務者の預金その他債権者に対する債権とを、
その債権の期限のいかんにかかわらず、いつでも相殺することができるものとします。」などと規定され、当事者間の相殺予約の合意としています。
 以上の結果、当社が取引先への支払を遅延しているうちに、取引先から預金に対し仮差押命令申立をされ、裁判所から発令がされると、
その銀行からの借入金全額は当然に期限の利益を喪失し、預金と相殺され、相殺後の残借入金債務について一括返還義務を負い、
延滞に陥るということになります。 こうなると当社の事業継続は非常に困難な状況に陥ります。
 取引先への代金支払を遅延しないようにすることが最も重要ですが、資金繰り上やむを得ず遅延する場合でも、
取引先にはきちんと支払いの見通しを説明するなど誠意をもって対応し、仮差押などをされるようなことがないよう注意すべきです。