焼けるような暑さも幾分和らいできた9月下旬
件の神社の仕事からひと月経ったおれは以前どおりの自分らしい生活を取り戻していた

パチ屋通い、酒浸り、2ちゃん漬け等々
おれをおれたらしめる環境に舞い戻った今のおれはまさに水を得た魚
朝一で打ちに行き負ける→やけ酒→現実逃避の自分語り
と、アウトローの王道を征くような雄雄しい生活を送っている

ほむらはというと金のライオン蛇口がお気に召したようで四六時中、湯殿に入り浸る日々
ライオンの吐く湯を浴びているのだが、身長のせいで滝行にしか見えないのが玉に瑕だ

一方の神主には何かあれば遠慮なく電話をくれるように言っており
その後1ヶ月経っても掛かってこないことから、目標は約束どおり丑の刻参りをヤメ
現今の神社は平穏を保っているとみていいだろう


パチンコの秋、飲んだくれの秋、自分語りの秋、滝行の秋
そんな秋の夜長の午前0時過ぎ
おれはほむらを湯殿に残したまま、1人で駅前の牛丼屋にやって来た

「汁だく、肉だく、ネギだく、飯だく、料金は並盛のままで」
いつものを注文したおれはカウンター席に腰を下ろした
バーでこそないが探偵といえばカウンターと相場は決まっている
そして古今東西、カウンター越しの店員が実は情報屋というのがこの業界の定説である


「特盛だブ〜」


カウンターで自分の世界に浸ってると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた
9時の方向、距離およそ2m
決して対象を直視してはならない
遠野志貴よろしく直死の魔眼が発動するからではなく、単に関わりたくないからだ

この状況に抗う術はただひとつ、顔を右に背けて急いでたいらげること