東京都東久留米市にある国家公務員住宅では、初夏の除草作業の際、自主避難者が住んでいるところだけが除草されなかった。避難者の女性が理由を尋ねると、作業員は「ここはやらなくていいと(同住宅を管轄する)関東財務局側から言われた」と答えたという。

 もともと取り壊し予定で、五年前から公務員は住んでおらず、住んでいるのは自主避難者の四世帯だけ。女性は「誰もいないところは草刈りして、私たちのところは草ボーボー。
夫は『これは嫌がらせだ』と怒った。放置することで、出て行ってほしいんだなと強く感じる」と話す。

 東京都江東区の国家公務員宿舎東雲(しののめ)住宅に息子(34)と入居している寺島えな子さん(57)は「役人二、三人が玄関先に来て『今ここで有償入居の契約を』と迫られたという人もいる」と不安がる。
自身も息子も「福島県から逃げてきたとうわさされることがトラウマ(心的外傷)で働けない」ため、現在は無収入で、月額約八万円の有償入居はできない。「いつか山形のケースのように訴えられるかも。どうなるんだろうと不安だ」と話す。

 その不安が現実化しそうな動きもある。福島県は今月十日、無償提供の打ち切り後も家賃を払わず住み続けている県内の自主避難者五世帯に、立ち退きと未払い家賃の支払いを求め、提訴する方針を固めたという。
同県が実際に居住している避難者を提訴すれば初めてのケースとなる。

 避難者と支援者らでつくる市民団体「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは「離婚した母子避難や、生業を失った高齢者…。打ち切り後、多くの人が有償で住まざるを得なくなり、深刻な貧困状態に陥った人からの相談が多くなった」と話す。

 瀬戸さんによれば、困窮した人に福島県が、避難先で生活保護を受けるように勧めるケースも多いが、避難先の自治体は「生活保護を受けるぐらいなら福島に帰っては」と避難者に言うこともあるという。

 「複雑な事情を抱えて知らない土地で暮らす避難者は孤立しており、支援を受けられないでいる。国や福島県は追い出しの裁判をするのではなく、真摯(しんし)に避難者と向き合ってほしい。あれだけの原発事故の被害者なのだから」
 (大村歩)
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