-ーーーーーー
訴状には、機構は四月以降、武田さんらと同様の境遇にある避難者約五百人以上と有償での賃貸契約を結んでおり、「公平・公正性の観点から、被告らの継続入居を容認できない」とある。

 武田さんは「一般論なら、機構側の言うとおりだ」と認めつつ、「俺たちは何も悪いことはしてねえ。避難しなきゃならない原因をつくった国や東電が、家賃を支払うのが当たり前なんだ」と声を震わせる。
節子さんは「他の人たちは払っただろっていうけど、払わされたんですよ。無理やり」と言う。

 ただ、立ち退き訴訟という事態は重い。
「訴訟なんて人生初だもの、みんな」と武田さん。八世帯のうち五世帯が高校生以下の子どものいる子育て世帯で、生活はギリギリだ。父親が毎日、車で一時間以上かけて福島県まで働きに行き、母親がパートに追われるという世帯もある。

 「子どもがいれば放射能が怖いから福島には戻れない。子どものことを考えれば、転校はさせたくない。動けねえんだ。そういう家は」

 そもそも住宅の無償提供は、どうして打ち切られたのか。

 福島県の担当者は「除染の進捗(しんちょく)状況、食品の安全性の確保などで生活環境が整い、災害救助法で応急的に対応するような局面ではなくなったため、もともと避難指示の出ていない自主避難者は同法の適用から除外した」という。

 自主避難者向けの無償提供住宅は、昨年十月の段階で一万五百二十四世帯あった。同県は激変緩和措置として、所得が一定以下の世帯に月額最大三万円の家賃補助をしているが、対象は約二千世帯にとどまる。

 担当者は「いまの福島県は戻ってくる気になれば戻れる状況。個別の事情で福島に帰りたくない人がいるのも分かるが、そこは個々の判断だ」と話す。

 「自主避難者はもういない」「なるべく帰還せよ」というのが国や福島県の立場だ。事実、復興庁の避難者統計は自主避難者を人数にカウントしなくなった。避難者でなければ一般人だから、とばかりに「追い出し」の圧力は容赦なく高まっている。
(つづく)**