Ruina 廃都の物語 八十一世
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地図の空白を埋めながらプレイする、ゲームブック的なRPG
枯草章吉氏作「Ruina廃都の物語」のスレッドです。
作者HPダンボールの神様
ttp://blackhat.a.la9.jp/ftotfr/
作者インタビュー
ttp://yamazaru.s21.xrea.com/reviewers/interview/003karekusa.html
前スレ
Ruina 廃都の物語 八十九世
http://mao.5ch.net/test/read.cgi/gameama/1519627933/
Ruina 廃都の物語避難所2代目
https://rosie.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1540499698/l50
それ以前の過去スレはwiki参照ttp://www24.atwiki.jp/ruinakokuryaku/
規制時等の避難所ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/18264/1235576020/
キャラ萌え話は節度を持って程々に。萌え妄想、シモネタは地下スレで(いずれも18禁)
Ruina廃都の物語エロパロ(エロパロ板内を検索してください)
腐ネタは専用スレで(「Ruina廃都の物語801」でGoogle検索)
【関連】
大河物語 ttp://blackhat.a.la9.jp/taiga/
大河物語wiki ttp://www29.atwiki.jp/taigamonogatari/
卓ゲ板スレ
TRPG大河物語その3
http://kanae.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1247313745/
したらば大河物語 ttp://jbbs.livedoor.jp/game/55432/
次スレは>>970が立ててください。
質問する前に……
・必須イベントには必ずヒントがある
人の話を聞く、仲間に話し掛ける、冒険のメモを読み返してみる
・ボスが強い
イベント経験値が主な成長源。行き詰ったと感じたときは、他に進められる場所を探そう。
本などからボスの弱点に関する情報が得られることも
・どこに行ったらいいのかわからない
まだ調べていない所や後回しにしたイベントがあれば全部周ってみよう
・(!)マークを見逃すな
重要なイベントがあることを示しています、無視しないで調べてみよう
・前スレも読み返してみよう
・小人の塔、巨人の塔へ行けない
古代都市の色々な場所で寝てみる
・周回プレイ(引継要素)あり
1周目で全要素を極めるのは無理
・あのシーンの曲のタイトルor配布元は?
wikiの楽曲一覧を参照
・音が鳴らない場合
PCの音量を確認。ゲーム、PCの再起動。ゲーム、RTPの再インストール
WindowsMediaPlayer11にはボリュームが勝手に下がるバグあり。バージョンアップ推奨
付属のマニュアルやwikiで一通り探してみると答えが見つかるかもしれない。
まずは自力で調べられる範囲で調べてみよう 【アングマルの白骨】 ※秋ごろな気持ちで読んで下さい
骨は寡黙である。
喉も舌もないのだから、普通はそうだ。しかしお喋りな骨もこの世にはある。
『クロウよ、我は疲れた。もう少しゆっくり歩け』「俺に運ばれているだけのくせに、ぜいたく言わないでくれ」
クロウの荷物に混じって運ばれている頭蓋骨は、実に饒舌な御仁だった。
その名はアングマル。140年も昔のエイボーン流の剣士である。 竜骨流、と書いてエイボーン流と読む。剣術の一流派の名だ。
別に有名なわけではないが、歴史ばかりやたらと長い。「我らの始祖は竜なのだ」
かつて師匠は言った。まだクロウが後ろぐらい仕事に手を染めていた時分である。
「我らの剣は竜を模す」
どこがだ、と思う。師匠の教えてくれた剣は、地味で、堅実で、竜らしさのかけらもない。冷徹に機を読み、ただ一刀で人を殺す。
クロウはそれを暗殺剣として使った。
けれど人を斬るごとに悪いものが身のうちに溜まるのを感じ、仕事の失敗をきっかけに足を洗った。
今ではとある都で小さな剣術道場をかまえ、近所の子供の相手をして暮らしている。
たまに散歩する。頭髪のせいか衣服のせいか、どうも地味に黒っぽい。目つきは鋭いが、ときおり呆ける。
貧乏なので近所の手伝いをして小金を稼いでいる。つまり便利屋である。
そんな彼の旅について書く。
どうにも妙なことになってしまった。「床下で声がする」とある職人の妻から相談を受け、床板をひっぺがして掘り返してみた。
こんな雑用仕事でも金になるならと引き受けたのだが。
けれど見つかったものと言えば。
『おお。ようやく日の目が見られた』
と喋る頭蓋骨だった。
『我が名はアングマル。22代目のエイボーン流剣術伝承者だ』
と名乗られてしまった。
その髑髏は土で茶色く汚れている。近くからは下顎も見つかる。
職人の妻から「どこかに捨ててきてくれ」とお駄賃と一緒に押しつけられてしまったが、クロウとしてもどうすれば良いのかわからない。教会にでも頼んで、適当に供養してもらうべきだろうか。
しかし名乗りからすれば、クロウの関係者である。
「貴方は俺の師匠筋なのか」
『そうなるな』
クロウの裡で剣士の血が騒いだ。
――強くなろう。
かつての決意をひさびさに思い出す。
「ぜひ、古流のエイボーン流剣術を教えてもらいたい」
『首だけの我には、なあ』
「……それもそうか」
『我が天界から舞い戻ったのは、エイボーン流の正統が無事伝えられているか確かめるため。
我が流派の裔だというお前の技、試してみたいものだな』
「俺も貴方と剣を交えてみたい」
『良いのか? 戦いとなれば手加減はできぬぞ』
「ああ」
『ならば骨を探せ』
「骨?」
『我が肉を支えていた骨はこの街の周辺に散らばっているはず。それを探し集めよ。
骨さえそろえば、ふたたび剣を握ることもできる』
……こんないきさつから、クロウは140年も昔の人骨を探すことになったのだった。 ちゃぷちゃぷと湖でアングマルの髑髏を洗ってやる。泥を落とせばつるりと白い。
「……さてと。骨を探せと言われても。どこにあるんだ?」
都のすぐ近くに湖がある。そのほとりで休んでいる。
『我は森の中のいくさ場で倒れ、野ざらしの骨になった。そののち親切な僧の手で拾われ、埋葬された。
しかし今ではあちこちに散乱してしまっている』
「面倒だな」
『案ずるな。天界より降り来たった我には、知らぬものはない』
「天界、か」
クロウの声は疑わしげだった。腰を上げて髑髏を布に包み、荷物の中に放り込む。
『こら、丁寧に扱え』
「まずはどこを探せばいい?」
『最初は墓場だ』
教会のそばの墓地に行く。奥には納骨堂が並んで建っている。
『行き倒れのための納骨堂の中に4つほどある』
「頼めば探させてもらえそうだな」
『それに、あちこちの墓石の下に8つほど埋まっている。土を掘らなくてはならないな』
「……なんだと?」
『墓場の管理などいいかげんなものだ。墓泥棒に掘り返されることもある。
戦争や疫病でいっぺんに死者が出れば、掘ったり埋めたりで大混乱だ。我の骨もばらばらに混じってしまったようだ。
それと、ラルシーニ侯爵家の納骨堂にも2つ』
「……そんなところ、探す許可が出るはずないだろう」
『墓荒らし、しかないな』
結局クロウは、夜中の墓場にシャベルを持って忍び込むはめになった。 【墓荒らしのセレナーデ】
歌:アングマル
作詞:不明
作曲:あなたのハート
墓掘りは おいらの お仕事
土掘って ヘイヘイヘイ!
カンオケ あばいて レッツらゴー!
墓場は みんなの ワンダーランド……
今日の もうけは ボロかった
ゲットだ おいらの 副葬品!
ガイコツ かぶって レッツダンシンッ!
墓場は みんなの ワンダーランド…… 「歌うな!」
『古い戯れ歌だ。おもむきがある』
「ないない」
その日の戦果は、骨が14本。
その後もあちこち骨を探して歩き回る。
人家の裏庭を掘り。
畑に忍び込んで掘り起こし、芋泥棒に間違われ。
道路の石畳をひっくり返し。
インチキ医者の手で怪しい粉薬にされそうなところを救出し。
子供がお守りとして持っていたこともあった。
「……どうして、こんな変なところにあるのだ」
クロウは少し馬鹿馬鹿しく感じ始めていた。やはりこんな髑髏、適当に祓ってもらうべきか。
『野犬が盗んであちこちに埋めたりもする。100年も200年もあれば、色々なことがある』
「庭先に骨が埋まっていると知って、あの爺さんは驚いていたな」
『あの程度で驚くとはあまりに未熟だ。たとえばクロウよ、お前の足元のその白い石つぶ。いや、違う、その右。そう、その石だ。それは300年も昔に死んだある農夫の骨だ』
「嘘をつけ」 『嘘ではない。
その男はこの土地を切り開き、農地を作ったが、足をくじいたのをこじらせて働けなくなった。
農地は子供たちにゆずったが、男はこの土地が好きでな。
毎日のように杖をついて散歩していたのだが、うっかり崖から落ちてしまい、這い上がれずに死んだ』
「…………」
『その程度の過去の記録は、そこいら中にある。
たとえばあの木切れは、かつて堂々とした大木だった。その下では恋人たちがひとときを過ごしたものだ。
その一組一組の物語をあれは覚えている。
あそこの石は、帝国の時代に城の城壁に積まれていた石だ。異国との戦いで崩され、川に落ちた。
一度この世にあったものは、消え去ることはない。必ずのちに痕跡を残す。たとえ燃やしたとしても、煙と灰になり、世界中に散らばる』 「そういうものか」
『そういうものだ。散らばった過去のかけらは、いずれは別の名で呼ばれるようになるのだ』
「ふうむ……」
適当に聞き流しながら、クロウは河原に布を広げ、集めた骨を並べてみる。人体ひとつを作るにはまだ少し足りない。
「……右足に左腕、脊柱の数も少し欠けている。肋骨も5本しかないな」
『肋骨が欠けていてもなんとかなる。どうしても必要なのは、鎖骨だ』
「鎖骨?」
『腕の動きを支える重要な骨だ』
鎖骨は、胸腔のてっぺんから肩と腕につながり、そこから後ろにまわって肩甲骨とも結ばれている。しかし肩甲骨は背中の上に「乗っている」だけであり、関節で胴体とつながっているわけではない。
つまり腕と体の骨をつないでいるのは鎖骨だけである。大事な骨なのだ。
「まあ、そのくらいは知っている。確かにこれがないのは困るな」
クロウは自分の喉の下あたりを触った。そこから肩にかけて細い鎖骨がのびている。
「しかし街中は探し終わってしまった。残りは?」
『だから次は街の外だ。我の死んだ森の付近に埋まっている』
こうして、奇妙な二人連れは旅立つ。 乗り合い馬車で北に一日。そこから徒歩で北東にゆく。
『良い旅だ』
「あんたはいいだろうが」
クロウはぼやく。
街道近くは農村もあったのでまだ良かった。しかし二日ほど山のふもとにそって歩くと、どうにも歩きにくい湿地帯に出てしまった。
丈の高い植物が視界をさえぎり、山から吹き下ろす風は涼しすぎる。しかも、うっかりすると沼に足を突っ込んでしまう。
寄ってくる虫を払い、膝まで泥にまみれながら歩く。
時折あらわれる白樺の林が休憩所になった。
「ひどい土地だ」
『風光明媚ではないか』
「そんなのは暇な奴の言うことだ」
白樺の木にもたれかかり、幾度めかの食事をする。
固焼きパンに腸詰めのかけらを挟み、口に放り込む。乾いたそれを水で喉に流し込む。
空になった水筒のために、沼の水を入れて煮沸する。水筒はやかんも兼用していた。
しばらく周囲を見る。枯れた草は白いふわふわした穂をつけている。そのふわふわが地平線までも視界を埋めている。
渡りの白鳥が沼で遊んでいる。ぶーんとクロウの頭に止まったのは、寒さで死にかけの虫だった。クロウはそれを手に取り、地面に放す。
『そろそろ行こう』
「ああ。夜までに距離をかせいでおこう」
やがて地面も固くなり、だいぶ歩きやすくなった。森が深くなり、日も暮れる。
と、古い神殿があった。神殿と言うよりは祠の大きさだが。
「ここで宿を借りるか」
勝手にもぐり込み、御神体らしい石に挨拶してから、壁ぎわで丸くなる。 ――眠りの中、気配に気づいたのは幸運だった。壁を蹴って転がり、毛布を突き刺す剣先を避ける。
闇の中にろうそくの小さな明かり。照らされているのは三人。武器が光る。
盗賊のねぐらに入り込んでしまっていたらしい。
床を蹴って体勢を立て直す。しかし部屋の奥に追いつめられる形になっていた。にぶい恐怖。
三人が襲ってくるのと同時に、クロウは御神体の石を蹴り転がした。男たちは慌てて避ける。
ここで始めて、クロウは剣を抜く。ろうそくを持つひとりの腕を突く。踏み込んで柄尻で殴ると同時に、落ちたろうそくの火を踏み消す。
本当の暗闇になる。
普通なら、一対三の戦いなど不利だ。誰でも判る。 しかし闇の中なら話は別だ。敵は同士討ちを恐れなければいけない。こちらは手当たり次第に斬りつけるだけでいい。
叫びが上がる。
男たちが逃げ、クロウは手探りで明かりをつける。床には男がひとり転がっている。血があふれている。死んでいた。
『殺したか』
「ああ」
クロウは血を払い、剣を収める。と、鉄の匂いに気が滅入る。
あとから恐怖も追ってきた。剣の技を磨きに磨けば、こんな心の揺れも消えるだろうか。そう思って、幾年も自分を鍛えてきたのだが。
『心の乱れも押さえられぬのに剣を持つから、そのような心持ちになるのだ』
「……あんたは人の心を読むのか」
『我にはわかる』
荷物の中の髑髏をにらむ。
「俺は、戦いの中で心を乱しなどしない。心は冷たく澄み、体は炎のように荒れ狂う。エイボーン流の基本だろう」
『戦いに勝つために策を巡らせるのは、単なる奸智だ。心の静けさとは関係ない』
「何が言いたい」
『我が戻ってきたのは正解だったな。今の竜骨の剣士は〈竜の心〉を知らない』
「……竜の?」
『竜の心は破壊の狂気に荒れ狂いながらも、その中心は一点にあって揺るぎない。世界の深奥に魂の根を下ろしているからだ。
その〈竜の心〉を得られなければ、お前は決して我には勝てぬ』
「……そういうことは、剣を握ってから言え」
不快さに唇を歪めつつ、クロウは倒れた男を見下ろした。
一言も言葉を交わさずに殺したな。
その夜は、夜明けまで歩いた。 記憶がある。
屋根裏に潜んでいた。片手にはパンが一切れ。盗んだものだ。
クロウは小さく息をひそめている。
「あの餓鬼、上にいるぞっ」
誰かが屋根裏に上がろうとしていた。
と、男が顔を出す。
馬鹿そうな顔だ、と幼いクロウは思った。
だから手のナイフで、男の目玉を突く。
「――ぎゃあっ」
狭い屋根裏を這いずり、裏から飛び降り、足をくじき、それでも歩いて、逃げた。どうして助かったのかは覚えていない。
あとから思い出し、悪いことをしたな、と感じた。 ――盗賊がいるということは、人里もあるということだった。開拓民の村を見つけ、もてなしを受ける。
「……そういえば、ここの東、川沿いの森は、古戦場だったと聞いたことがあります」
村の老人が教えてくれた。
「なるほど、たぶんそこだな。
ところで、こんな辺鄙な森で不便ではないか?」
「いいえ。いま言った川を下れば、湖に。近くには都がありますから」
「……は?」
クロウは戸外に出て、荷物から髑髏を引きずり出す。
「――湖から船でさかのぼれば良かったのか!? この一週間はなんだったんだ!」
『わめくな。苦労を積むのも修行。これも人生』
「何が人生だっ」
こいつは何を考えているのか。 水辺の砂地を裸足で歩く。疲れた足を湖で洗ったのだ。足跡をあとに残しながら、クロウは景色を見渡した。
広い。彼方に見えるのは漁の船だろうか。風が冷たい。
「粗い砂だな。ちくちくする」
『海の砂とは違い、ここの砂はまだ若い。上流の山から運ばれた砂が、磨かれぬまま集まっている』
「ふうん」
『我が戦ったあの土地の岩が、削られ、砂になった。我が友たちの骨も混じっている。……この土地の砂の持つ記憶は、あまりに多い』
クロウにはただの砂だ。
「……それで、湖のどこを探すんだ?」
『水中へ』
「おい。もう寒いぞ」
『我慢しろ。浅い場所にある』
ぶつぶつ。ぼやきながらも下着ひとつで潜り、指し示された場所の湖底を探す。
(澄んだ湖だ)
泳ぐ。日は高く、波に揺れて水中を照らす。
砂の粒子が大きい。だからすぐに沈み、水が濁らない。
遠くに魚影が見える。湖底の砂に波紋が広がる。
静かだった。 湖から上がる。あらかじめ燃やしておいた焚き火に駆け寄り、がちがち震えながら体をあたためる。
「……おい。毛布を持ってこい」
『無茶を言うな』
「くそ」
唇を紫にしながら身体を拭く。
『それで、見つけたのだな?』
「ん。あの中身はいったい何だ?」
『見ればいい』
服を着込んでから水辺に戻り、錆びた鉄櫃を引っ張り上げる。
「開けるぞ」
『ああ』
中身は、一振りの剣と円盾だった。剣は拵えこそ朽ちかかっているが、刀身はきれいなものだった。かつて師匠が使っていた剣に似ている。盾もいかなる素材なのか、形を保っている。
「……なるほど。剣士にとっては自分の骨も同然か」
『そうだ。
――さあ、約束を果たそう。我と刃を交えよ』 砂の上に布を広げ、集めた骨を並べる。
胴 ――24個の脊柱、12対の肋骨、骨盤。
足 ――脛骨、腓骨、大腿骨。足首から先の小さな骨。
腕 ――橈骨、尺骨、上腕骨。鎖骨と肩甲骨。手首から先のたくさんの骨。
そして、頭蓋骨。
剣と盾とをわきに置く。
骨が揺れ、動き、その間を白く霧がつなぎ。
そして剣士アングマルは、蒼い湖を背後に立ち上がった。
老いた顔には灰色の髭をたくわえ、白くくたびれた長衣をまとう。剣士と言うよりも古代の王のようだ。
『――我が名はアングマル・エンディオン。竜骨の剣士なり。祭司の家に生まれども、聖職を捨て剣を身に帯びたり。
神々よ照覧あれ。この一時かりそめの肉を受け、ふたたび剣を握ることの喜びを!
いざ尋常に、勝負!』 古風な名乗りを受けて、クロウもまた二本の剣を抜いた。
「俺は名乗らんぞ」
『礼儀を知らんな』
「そんなものだ」
二本の剣をかまえてクロウは老剣士に相対する。右手には赤い短剣“かいな”。左手には剛剣“ベスノフェイサー”。
アングマルは右手に剣、左手には盾。
『前に言ったな』
「……?」
『〈竜の心〉を知らなければ、我には勝てぬ』
「口では戦いに勝てないぞ、ご老体」
『……骨は砂になって残っても、形なきものは後に残せぬか』
「黙れ」
『我は、未熟者がエイボーン流を名乗ることに耐えられぬ。もし我に負けたなら、お前を殺すことにしよう』
彼は邪悪な種類の笑みを浮かべた。
「…………」
(本気だ)
クロウは動揺する。しかし自分を押さえ、無言で視線を返す。
剣の構え。すり足での間合い。そして目で力量を計る。
(……なるほど、言うだけのことはある)
右手の剣は後ろに回し、左手の盾を前に突き出している。堅固だ。 ひゅん。クロウは動いた。突き、斬撃、そのまま回転しつつの一撃。
すべてを盾で受け止めて、アングマルは笑い、一歩踏み出して体のばねをきかせる。
老剣士の刺突がクロウの頬をかすめる。飛び退き、ふたたび間合いを取る。
(強敵だ。――だが、筋力はさほどではない。それを技術と経験で補っている)
それならそれでやりようはある。
クロウはほんの少し動いた。やや上体をそらし、重心を後ろへ。剣の角度をほんの少し横に前に。
逃げ腰を装う。
(彼ならこれを読める。そして攻めに転じる。だが、俺はその先を読んでいる)
そこを迎え撃つ。
しかし――。
アングマルの視線と左足に力がこもる。来る。その一瞬、雷光の刺突がクロウを襲う。
予想していた動きだった。
紙一重でかわし、右足を支点に勢いよく回る。背中から斬るような形で、アングマルの脇腹に一撃を与える。
(勝った!)
そう思った。しかし左手に伝わったのは、霞でも斬ったかのような手応え。老剣士は変わらぬ動きで飛びすさる。
彼の脇腹の傷は、またたく間に消える。老剣士は剣をひゅんと振って構えなおす。小手調べ、であったらしい。
(……そういう事か)
卑怯とは言えまい。彼が死霊のたぐいであることはすでに知っていたのだから。
しかし、クロウは冷たい怒りを感じる。
(……ならば、その骨を叩き折るまで)
両の剣を、体の前で十字に交差させる。老剣士は目を細め、それを見る。
こんな構えはただのはったりだ。相手の視線を剣に向けさせ、その間に攻めの体勢を整える。脚に気を込め、全身の筋肉をほどよくゆるめる。
踏み込む。 相手足元を狙っての、軽い斬撃。
否、それも罠。隙を装う。そのまま剣を回転させてバランスを取ると同時に、相手の反撃にあわせ、
跳躍。
胸元に受ける一撃を空中に逃げ、敵の刃を足場に、
さらに跳ぶ。
空中を球技球のように回転し、遠心力を込めた一撃を――
――衝撃が来た。
無防備な空中で殴られる。盾での一撃だった。最初から狙っていたのだ、跳ぶ瞬間を。
景色が反転したままぐらりと揺れる。揺れる中、アングマルの目を見る。冷たい。
屈辱だ。
恐怖はあとから来た。
怒りと恐怖と卑しい悦びが、いつも戦いの中では荒れ狂っている。クロウにとっての戦いはそうしたものだった。視線の中の殺意、一撃に含まれる怒り、剣筋で伝える侮辱。一瞬の攻防は心をすり減らす。
技を磨くことで押さえてきたそれらが、クロウを押し流す。
落下する視界の中、老剣士が剣を振りかぶるのが見える。地面に落ちた瞬間のクロウを狙っている。あれを受けたら、死ぬだろうか?
ここまで来れば恐怖も怒りも何もない。諦念ばかりがある。しかし、クロウの中から何かが立ち上がり、選択肢を示した。
さて、ここで諦めるべきだろうか。 自分の生死を彼と天にゆだねるべきだろうか?
砂地に叩きつけられるまでの一瞬、ゆっくりと考える。
さて。
何かの感覚があった。心が湖底に深く沈み、足をつけた。
――クロウは選んだ。
その瞬間、失われていた平衡感覚が戻り、地面の位置をとらえる。ぶざまな四つん這いで着地し、振り下ろされる刃に正面から立ち向かう。
小回りの利かない“ベスノフェイサー”を捨て、左手の手甲だけで受け流そうとする。流れた刃はクロウの腕を走り深く切り裂く。
しかし彼はそれにはかまわず、両足を酷使して跳ね起き、
右手の短剣を前に、上にと送り込む。
「――がああああああああぁっ!!」
敵の胸をつらぬく。
下がろうとする彼の右腕にしがみつく。盾で殴られるが、弱い。耐える。
足腰の効かないこの体勢で、敵の骨を叩き折る手段と言えば。
相手の右腕をしっかと抱え、
短剣の柄を振り下ろす。狙うのは。――右肩の、鎖骨!
骨が、砕けた。 老剣士は刃を落とす。しかし同時に強烈な頭突きを放つ。
額を打たれたクロウは、耐え、敵の足を力まかせに蹴り払う。老剣士は倒れる。
もがいて立ち上がろうとする彼に、拾われた“ベスノフェイサー”の切っ先が突きつけられた。
「……見事な“読み”だった」
『……ああ』
彼は苦笑しつつ、どさりと再び横になった。
クロウもその場に座り込む。
「……疲れたなあ……。けれど、古流の剣筋が見られて満足だ」
ほうっと息を吐く。
と、思い出した。
「……〈竜の心〉を知らなければ、勝てないのではなかったか?」
答えはなかった。
ばらばらになった白骨が、蒼い水辺に転がっていた。
※あとがき
似非ファンタジー剣豪ものです、ええ。なんてインチキくさいアクションシーン。
別のところで書いたやつを修正&加筆。
けっこう気に入ってます。75点くらい。やはり登場人物は少ない方が良いようで。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています