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’77年10月に「編み物教室へ行く」と言い残して、行方不明になった拉致被害者・松本京子さん(当時29歳)。「彼女の生存情報も、政府はつかんでいながら隠蔽(いんぺい)しているフシがある」と、
この記者は言うのである。
松本京子さんの実兄・孟(はじめ)さんが打ち明ける。
「京子が政府に拉致認定された’06年だったと記憶していますが、公安当局の方が私を訪ねてきまして、『彼女の筆跡がわかるものはないか』と聞いてきたのです。
編み物教室で採寸したときに使った紙や、友人らに年賀状を出す際に使った住所録が残っていたので、その方に渡しました」
孟さんが「進展があったのですか?」と聞くも担当者は何も答えず、バッグに書類をしまうと立ち去り、「それきり、何の音沙汰もなかった」という。
だが、しかし――孟さんが渡した書類は筆跡鑑定に回されていた。
「北朝鮮と取引のある業者から、松本京子さんが書いたとされる注文書や領収書が提供されたようです。もし筆跡が一致すれば、彼女の生存が裏付けられ、どこで働いていたかも判明する。
結果は85%の一致だったそうです」(公安関係者)

松本京子さんの地元である米子弁に近いイントネーションで「キョウコ」と名乗る通訳が、北朝鮮の企業で働いているという証言を本誌は複数の貿易業者や脱北者から得ており、
公安当局も同様の情報を把握していた。筆跡鑑定に使った書類はこれら貿易業者から得たものと見られる。
本誌は’14年、取材の過程で偶然、公安関係者から筆跡鑑定の結果を得たが、今年2月に「拉致問題を考える国民の集い」で会った際に本誌が伝えるまで、孟さんはこの事実を知らなかった。

「85%だったんですか……。一昨年、講演会でお会いした地村保志さんから『京子さんは生きていますよ。平壌ではなく、地方で働いています。元気ですよ』と告げられました。
官邸や外務省もこの話を把握しているのでしょうか? 拉致利用なんて、あってはいけないこと。拉致被害者の家族には何でも話してほしい。
拉致問題の解決が最重要課題だと言うなら、安倍総理は動くのが遅すぎます」

 拉致被害者家族たちの高齢化が進み、残された時間はけっして長くない。国が拉致被害者を見捨てるようなことは、絶対にあってはならないのだ。