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カフェへ二人で移動していると、亜佐美とどの様な距離を持って歩いていいかドキドキした。近づいてみたり離れたり。
まるで不審者のようだ。周囲から見るとカップルに見えているに違いない。
だが、この美女と俺なんかが釣り合っている訳などないと劣等感に苛まれた。
俺はイケメンなんかじゃないし、ファッションもかなりダサい。亜佐美はスタイルも良くただ歩いているだけでスマートで
格好がいい。すれ違う者は男女問わずがその美しさに感嘆 しているようで、情けなく自分を蔑んだ。
そこで魔法の言葉が浮かんだ「俺は長老なんだ!!」
急に力が漲った。亜佐美をリードしだした。こんなこと初めてで、冷静に考えてみるとこの近所のカフェはどこもガラス張りであり、
もし、会衆の誰かに発見されたらとんでもない事になると気が付く。
後に話すつもりだが、同じ会衆のどうしようもない妻子持ちの長谷川長老がよく姉妹との密会に使うのはカラオケボックス
だと酔った時に言っていた事を思い出し、「ねえ、悪いんだけどカラオケボックスじゃだめかな?俺にも立場があってさ。」と切り出すと。
「なるほど、構わないわ。兄弟と話せればどこでもいいよ。カラオケボックスは落ち着いて話せそうだし。さすが隼人兄弟。」
と俺を立ててくれる亜佐美がなんだか愛おしくなった。カラオケボックスは一時間待ちで、待合室にはカップルが沢山いる。
亜佐美はそんな事にはお構いなしといった感じで、お互い差し障りのないたわいのない事を話した。
俺は透き通るような亜佐美の首筋と血管、そしてその美貌に完全に見とれそうだったが、「兄」と「長老」という威厳を保たねばならず
必死に理性を働かしていた。店員が順番だと部屋を案内しそうになると、亜佐美は俺の耳元で
「なんだか私達カップルみたいだね」と淫靡に囁いた。