「あ、親父の話?あれはもう思い出したくないんだよ」だが、無理やり追い払う気配はなかった。その場を立ち去らない私を横目に、
彼は、父の死後について、渋々と話を始めた。「絶対に書くな」と彼は言ったが、私は書くことにした。
その理由は、須田や遺族を咎めるためではなく、むしろ本来は当事者なのに、第三者であるかのような対応をした病院の内実を示したいと思ったからだ。
「だからさ、あれが起きてから、俺はもう家族とは疎遠だよ。一切、口もきいてねえし、会ってもいねえよ。
すぐそこに住んではいるんだけどね。俺は、あの時、仕事が忙しかったんだけど、急に病院に呼び出されてね。
そりゃ、何が起きたのかまったく分かんなかったよ。俺は、お袋たちやきょうだいから、なんも聞かされていなかったから」
秀夫は、両腕を組み、威圧感を漂わせる口ぶりで、私にそう言った。父が死に至った過程を、
息子は一切知らされていなかった。そうした父の死に対する疑念は、4年後、事件化されたことで家族への不信に変わり、家族関係に亀裂を走らせた。