ビリヤード川柳
ハイテクに
かえたら逆に
球入らん
ある球屋
4時間フリーで
500円 知恵の輪の
果てなきあそび存へて
くぐりしものを
日月といふ
漂うと
この島くにの
哀しみに
切羽つまりて
ナインでラッチ 天と地の
言葉にまみれ
グリップの
軽きを巻きて
中空を射る 日々これを
微量の毒に
侵さるる
人界なれど
一色の玉 テーブルに
玉置かれしことの
おどろきよ
夜の灯に
長く立ちつくりたり 深秋を
透り香れる
キュー先の
幸せという名も
こぼれやすくて 木ラックに
手をさしのべて
ためらいの
すべてふりきり
置かれしは玉 かろうじて
たもてる厚みを
支えきつ
先玉の若葉の
透きとおるいろ 今日あれば
今日をつつしみ
過ごし刻
玉寂寂に
二夜を過ぎぬ 前景に
玉逐ふ人の
逐いつめ
狙い打つとき
孤独は失せぬ 細き穴
曲がり曲がりて
光差せる
真夜中なれば
己が見ゆる ラシャの上
不意の擦れの
寄りて来て
われは鳥獣のごとく
身震ふ 秋天より
降り来る声を
聴かむとす
玉に透れる
ひとときはあり そこまでの
旅路にあれば
やわらかき
玉の転びに
吾が影あゆむ 伸びきらぬ
玉のゆくえを
追いし日よ
風も言葉も
折にとどまる 白き玉
崩るる刻の
寸前に
相反する意味を
追う者など居ず おもむろに
秋は昏れ
先玉の
さだかならねど
うごくとも見ゆ いちはやく
試合会場あとにして
飛ぶ形象の
おぼろなる線 群青の
空の去りたる
東雲に
見まちがえしは
ラシャの翅先 玉走り残す音聞き羅紗の上
見るものではない玉が聞けるか