探検
「葬送のフリーレン」で二次創作
2024/05/24(金) 10:41:26.13ID:RHEKLvRk
立ててみた
2024/05/24(金) 10:43:39.94ID:RHEKLvRk
ちなみに自分の推しはリーニエです
2024/05/24(金) 17:28:07.06ID:RHEKLvRk
それではスレ立てた自分が今夜からコテつけて、シュタルクならぬ「ワイ」がリーニエに一目ぼれする設定の小説を投稿しようと思います
タイトルは「奥様は美少女まぞく」、本日22時〜24時ごろに開始予定
元ネタは「葬送のフリーレン」アウラ編。アニメ第7〜10話、コミックス2巻第14話〜3巻第23話あたりの範囲
なおR18レベルの濃厚描写は無いが一部、性的表現も含みます
タイトルは「奥様は美少女まぞく」、本日22時〜24時ごろに開始予定
元ネタは「葬送のフリーレン」アウラ編。アニメ第7〜10話、コミックス2巻第14話〜3巻第23話あたりの範囲
なおR18レベルの濃厚描写は無いが一部、性的表現も含みます
2024/05/24(金) 17:28:36.33ID:RHEKLvRk
なお拙作では、あくまでもリーニエがヒロイン
フリーレンの逮捕とか刺客ドラートの返り討ちとかフリーレンの脱獄とかグラナト伯爵がリュグナーに捕まったりなどの前段は、全部カット
その辺りを脳内補完できる「葬送のフリーレン」履修済みの読者・視聴者のみが対象となる、二次創作です
すなわちフェルンとシュタルク改めワイが、グラナト伯爵の屋敷に忍びこむ場面からスタートします。よろしく
フリーレンの逮捕とか刺客ドラートの返り討ちとかフリーレンの脱獄とかグラナト伯爵がリュグナーに捕まったりなどの前段は、全部カット
その辺りを脳内補完できる「葬送のフリーレン」履修済みの読者・視聴者のみが対象となる、二次創作です
すなわちフェルンとシュタルク改めワイが、グラナト伯爵の屋敷に忍びこむ場面からスタートします。よろしく
↑コテは、これにしました。
できれば毎日投稿して、切りのいいパートごとにせいぜい連載8回以内くらいで済ませたいが、予定は未定…
ネット環境やオフラインの都合が悪ければ、小間切れの五月雨で投稿となる可能性もあります。よろしくです
できれば毎日投稿して、切りのいいパートごとにせいぜい連載8回以内くらいで済ませたいが、予定は未定…
ネット環境やオフラインの都合が悪ければ、小間切れの五月雨で投稿となる可能性もあります。よろしくです
「奥様は美少女まぞく」
1
ドアを開ける音がした
ワイがふりむくと敵手・魔族のリュグナーが部下の女子を率い、町の領主グラナト伯爵を拘束・監禁している部屋に戻ってきていた
そのときのワイは、相棒のフェルンと言う乳のでかさだけが取り柄のめんどくさい魔法使い女の指図により、伯爵救出作戦の最中だった
当初は魔族抹殺のため伯爵の屋敷に忍びこんだワイとフェルンやが、夜更けとはいえ重要な講和会談の最中にしては、屋敷内が妙に静かすぎる
すでに伯爵は魔族の姦計で、囚われていたんや
1
ドアを開ける音がした
ワイがふりむくと敵手・魔族のリュグナーが部下の女子を率い、町の領主グラナト伯爵を拘束・監禁している部屋に戻ってきていた
そのときのワイは、相棒のフェルンと言う乳のでかさだけが取り柄のめんどくさい魔法使い女の指図により、伯爵救出作戦の最中だった
当初は魔族抹殺のため伯爵の屋敷に忍びこんだワイとフェルンやが、夜更けとはいえ重要な講和会談の最中にしては、屋敷内が妙に静かすぎる
すでに伯爵は魔族の姦計で、囚われていたんや
2
おそらく和睦交渉決裂の結果であろう。フリーレンの言う通り、魔族の目的は伯爵を欺くことだったんや。想定以上に性急な動きやが…
ともあれ、こちらの計画も急遽変更。伯爵救出&脱出が最優先となった次第
まずはワイが「単身」で、室内に潜入。椅子に縛られて監禁状態だった伯爵に接触。救出を図るも、ワイでは魔族相手に役不足とみた伯爵は、ワイだけ逃げろとにべもなかった
それをなんとか説得して、脱出に利用できる通行手形の紋章を受け取るまでは良かったが―――早くも魔族どもに、嗅ぎつかれたというワケや
リュグナー配下の少女は伯爵のそばに居るワイを見ても眉ひとつ動かさず、ゴミを見るように冷淡に、しかしめちゃめちゃ愛らしい声で報告した
「リュグナー様。ネズミ…」
おそらく和睦交渉決裂の結果であろう。フリーレンの言う通り、魔族の目的は伯爵を欺くことだったんや。想定以上に性急な動きやが…
ともあれ、こちらの計画も急遽変更。伯爵救出&脱出が最優先となった次第
まずはワイが「単身」で、室内に潜入。椅子に縛られて監禁状態だった伯爵に接触。救出を図るも、ワイでは魔族相手に役不足とみた伯爵は、ワイだけ逃げろとにべもなかった
それをなんとか説得して、脱出に利用できる通行手形の紋章を受け取るまでは良かったが―――早くも魔族どもに、嗅ぎつかれたというワケや
リュグナー配下の少女は伯爵のそばに居るワイを見ても眉ひとつ動かさず、ゴミを見るように冷淡に、しかしめちゃめちゃ愛らしい声で報告した
「リュグナー様。ネズミ…」
3
誰がネズミやねん! ここ、お前らの屋敷ちゃうで。家主を拘禁して不法占拠している魔族め、何を言うてけつかるねん?
と、危険を忘れて突っ込もうとしたのもつかの間。ワイはその声が、場違いすぎるほど可憐であることを男の本能ですばやく察知。声の主を見つめていた
それが一途な愛に生きるエロス戦士のワイと、ゴスロリふんわりピンク髪ツインテールの美少女魔族リーニエちゃんの、初対面だった
(もちろんこの時点では彼女の名を知らなかったが便宜上、以下の文の説明箇所ではリーニエちゃん呼びするのでよろしゅうに)
誰がネズミやねん! ここ、お前らの屋敷ちゃうで。家主を拘禁して不法占拠している魔族め、何を言うてけつかるねん?
と、危険を忘れて突っ込もうとしたのもつかの間。ワイはその声が、場違いすぎるほど可憐であることを男の本能ですばやく察知。声の主を見つめていた
それが一途な愛に生きるエロス戦士のワイと、ゴスロリふんわりピンク髪ツインテールの美少女魔族リーニエちゃんの、初対面だった
(もちろんこの時点では彼女の名を知らなかったが便宜上、以下の文の説明箇所ではリーニエちゃん呼びするのでよろしゅうに)
4
侵入者を見ても無表情、生気に欠けたハイライトの無い瞳、小ぶりながら頭に生えた二本の角…間違いなく、彼女は魔族だった
だが…なんという愛くるしさだろう。ああ、おなじゴミを見る目でも、気性難なクソまじめ女のフェルンとは一味も百味もちがう
あんなキュートなお目目で軽蔑視線を送られても、凹むはずもない。むしろご褒美。ワイの性癖を、心地よく刺激してくれるぅッ!
侵入者を見ても無表情、生気に欠けたハイライトの無い瞳、小ぶりながら頭に生えた二本の角…間違いなく、彼女は魔族だった
だが…なんという愛くるしさだろう。ああ、おなじゴミを見る目でも、気性難なクソまじめ女のフェルンとは一味も百味もちがう
あんなキュートなお目目で軽蔑視線を送られても、凹むはずもない。むしろご褒美。ワイの性癖を、心地よく刺激してくれるぅッ!
5
そう。月の薄明かりに照らし出された彼女の美貌に、不覚にもワイは時も場合も忘れて、ときめいていたのや
(こ、この娘は…? 連れの薄情なクソばばあエルフがポカして衛兵に連行された時に居合わせていた、使節団員の魔族っ娘か!)
(あの時は遠目やったし、騒動中のこととて注目する余裕もなかったが…ゴスロリファッションが、よう似合っとる。なんという可憐な美少女や)
これはまさしく一目ぼれ、運命の出会い。(*´Д`)ハァハァ。もう、何が何でもモノにせなあかん(使命感)
そう。月の薄明かりに照らし出された彼女の美貌に、不覚にもワイは時も場合も忘れて、ときめいていたのや
(こ、この娘は…? 連れの薄情なクソばばあエルフがポカして衛兵に連行された時に居合わせていた、使節団員の魔族っ娘か!)
(あの時は遠目やったし、騒動中のこととて注目する余裕もなかったが…ゴスロリファッションが、よう似合っとる。なんという可憐な美少女や)
これはまさしく一目ぼれ、運命の出会い。(*´Д`)ハァハァ。もう、何が何でもモノにせなあかん(使命感)
6
ワイは君に、ネズミとよばれて本望やっ。ワイを君のペットマウスにしてくれ、君のその、程よくふくらむ柔らかそうな胸の谷間にワイを挟んで、愛でてくれえぇ!
あ、もちろんワイのジュニアは「ちっさ」と、言われたこともあるものの。マウスやないで。元気な時には育ち盛りの、バラブキヌゲネズミくらいあるはずや
ワイのどす黒い性癖にどストライクで刺さるリーニエちゃん。最強の戦士・愛染ならぬアイゼン師匠の一番弟子ワイの目に留まったのが、思えば彼女の運の尽きだった
ワイは君に、ネズミとよばれて本望やっ。ワイを君のペットマウスにしてくれ、君のその、程よくふくらむ柔らかそうな胸の谷間にワイを挟んで、愛でてくれえぇ!
あ、もちろんワイのジュニアは「ちっさ」と、言われたこともあるものの。マウスやないで。元気な時には育ち盛りの、バラブキヌゲネズミくらいあるはずや
ワイのどす黒い性癖にどストライクで刺さるリーニエちゃん。最強の戦士・愛染ならぬアイゼン師匠の一番弟子ワイの目に留まったのが、思えば彼女の運の尽きだった
7
いっぽう羨ましくも可愛いリーニエちゃんの横にいやがる、キザな貴族みたいな見た目のキザな上司格魔族リュグナーが、グラナト伯に尋ねる
「お知り合いで?」
首を振るグラナト伯。「いいや。昼間の冒険者の一人だ。連れの魔法使いが脱獄したとも知らず直談判にきたのだろう」
どうやら伯爵、ワイを逃がす算段らしい。果たしてリュグナー、つまらなそうに応じる
「帰っていいぞ小僧。見逃してやる」
いっぽう羨ましくも可愛いリーニエちゃんの横にいやがる、キザな貴族みたいな見た目のキザな上司格魔族リュグナーが、グラナト伯に尋ねる
「お知り合いで?」
首を振るグラナト伯。「いいや。昼間の冒険者の一人だ。連れの魔法使いが脱獄したとも知らず直談判にきたのだろう」
どうやら伯爵、ワイを逃がす算段らしい。果たしてリュグナー、つまらなそうに応じる
「帰っていいぞ小僧。見逃してやる」
8
本来のワイなら、大喜びで「ほな、さいなら」となっただろう。とはいえ今回は、フェルンとの打ち合わせもある
それに何より、今のワイには極秘のでっかい目標が爆誕している
今回の状況を徹底的に私利私欲のために利用して、このかわい子ちゃん魔族をうまく手に入れなアカン!
となれば、ワイの選択肢はただひとつ。ほんらい危ないことは嫌いだが、ひとまず作戦続行や!
恋のためなら、斧をも鳴らす―――
本来のワイなら、大喜びで「ほな、さいなら」となっただろう。とはいえ今回は、フェルンとの打ち合わせもある
それに何より、今のワイには極秘のでっかい目標が爆誕している
今回の状況を徹底的に私利私欲のために利用して、このかわい子ちゃん魔族をうまく手に入れなアカン!
となれば、ワイの選択肢はただひとつ。ほんらい危ないことは嫌いだが、ひとまず作戦続行や!
恋のためなら、斧をも鳴らす―――
9
グラナト伯を背にかばい、ワイは戦斧をかまえる
「どうした? そこを退け。邪魔をするなら殺すぞ」と、リュグナー
「やってみろよ」と言いざま、跳躍してリュグナーの背後をとる。振り向くリュグナーに向けて振り上げたワイの斧が、一閃する
間違いなく手ごたえがあり、わが恋路の邪魔者の右肩から鮮血がほとばしる
グラナト伯を背にかばい、ワイは戦斧をかまえる
「どうした? そこを退け。邪魔をするなら殺すぞ」と、リュグナー
「やってみろよ」と言いざま、跳躍してリュグナーの背後をとる。振り向くリュグナーに向けて振り上げたワイの斧が、一閃する
間違いなく手ごたえがあり、わが恋路の邪魔者の右肩から鮮血がほとばしる
10
だが、気づいてみればワイはキザ魔族の血が硬化して変異した巨大な手に捕まり、仰向けで床面に張り付けられていた
とっさに腕をかざして心臓を庇っていなければ、クマのそれより大きな赤黒い爪に胸を貫通されて即死だっただろう。代わりにワイの両腕は、血まみれになったが
「急所を避けたか。反応も中々だ。とはいえ人も魔族も若い奴は短慮だな、無謀で無策だ」
リュグナーはワイの行動を冷評しつつも、声に驚きの響きが漏れていた。「だが、単身で私に挑んだその武勇は評価しよう」
「単身…?」
思わずワイはほくそ笑む。まずは計画通りや!
だが、気づいてみればワイはキザ魔族の血が硬化して変異した巨大な手に捕まり、仰向けで床面に張り付けられていた
とっさに腕をかざして心臓を庇っていなければ、クマのそれより大きな赤黒い爪に胸を貫通されて即死だっただろう。代わりにワイの両腕は、血まみれになったが
「急所を避けたか。反応も中々だ。とはいえ人も魔族も若い奴は短慮だな、無謀で無策だ」
リュグナーはワイの行動を冷評しつつも、声に驚きの響きが漏れていた。「だが、単身で私に挑んだその武勇は評価しよう」
「単身…?」
思わずワイはほくそ笑む。まずは計画通りや!
11
「フェルン。言われた通り隙を作ったぜ」
「なんだと?」
リュグナーが怪訝な顔をしたことで、ワイは勝利を確信した
そう、これがワイらの作戦。ワイがリュグナーたちの気を引いている間に、魔力を消しつつ屋外の最適ポジションを確保したフェルンが一般攻撃魔法で、リュグナーを撃つ段取りや
「フェルン。言われた通り隙を作ったぜ」
「なんだと?」
リュグナーが怪訝な顔をしたことで、ワイは勝利を確信した
そう、これがワイらの作戦。ワイがリュグナーたちの気を引いている間に、魔力を消しつつ屋外の最適ポジションを確保したフェルンが一般攻撃魔法で、リュグナーを撃つ段取りや
12
ところがそのとき。愛しのリーニエちゃんが気怠げなポーカーフェイスを崩し、先ほどまでのアンニュイなヴォイスとは打って変わった張り詰め声で叫んだのだ
「リュグナー様!! 魔法使いの反応が…」
刹那、光の塊がガラス戸を突き破り、さらにリュグナーの左腕と左腹部を吹き飛ばしていた
フェルン、グッジョブ。彼女の真剣魔法勝負はこれが初見になるが、期待以上の威力やで。さすが、おっぱいが大きいだけのことはある
ところがそのとき。愛しのリーニエちゃんが気怠げなポーカーフェイスを崩し、先ほどまでのアンニュイなヴォイスとは打って変わった張り詰め声で叫んだのだ
「リュグナー様!! 魔法使いの反応が…」
刹那、光の塊がガラス戸を突き破り、さらにリュグナーの左腕と左腹部を吹き飛ばしていた
フェルン、グッジョブ。彼女の真剣魔法勝負はこれが初見になるが、期待以上の威力やで。さすが、おっぱいが大きいだけのことはある
13
だがリュグナーの野郎ときたら壁にもたれてはいるものの気を失うでもなく、表情に苦痛の色すら見せない。どうやら致命傷はおわせ損ねたようだ
前言撤回、やっぱ口うるさい嫌み女は使えんわ
見ればリュグナー、徐々にだが欠損部分を再生させつつある。おいおいフェルンなにやっとんや、はよトドメ刺さんかい!
だがリュグナーの野郎ときたら壁にもたれてはいるものの気を失うでもなく、表情に苦痛の色すら見せない。どうやら致命傷はおわせ損ねたようだ
前言撤回、やっぱ口うるさい嫌み女は使えんわ
見ればリュグナー、徐々にだが欠損部分を再生させつつある。おいおいフェルンなにやっとんや、はよトドメ刺さんかい!
14
然るにそこで我が愛しのリーニエちゃんが、ガラス戸の破れから屋内に入ってきたフェルンの前に立ちはだかる
「リュグナー様、ここは私が」
くそっ、いくら上司とはいえリュグナーは役得すぎやで
「様」付けで呼んでもらえて、あげく手前がポカしたくせに可愛いリーニエちゃんに守ってもらえるなんて! うらやまけしからん
いや待て。そんなことよりこのままでは、ワイの目から見ても魔法使いとしては強力なフェルンの攻撃で、ワイの未来の嫁が怪我をしてしまうッ?!
然るにそこで我が愛しのリーニエちゃんが、ガラス戸の破れから屋内に入ってきたフェルンの前に立ちはだかる
「リュグナー様、ここは私が」
くそっ、いくら上司とはいえリュグナーは役得すぎやで
「様」付けで呼んでもらえて、あげく手前がポカしたくせに可愛いリーニエちゃんに守ってもらえるなんて! うらやまけしからん
いや待て。そんなことよりこのままでは、ワイの目から見ても魔法使いとしては強力なフェルンの攻撃で、ワイの未来の嫁が怪我をしてしまうッ?!
15
幸い、リュグナーがリーニエちゃんに「やめろ」と阻止する。結果的にフェルンの殺気も、リーニエちゃんからそれた様子だ
どうもリュグナーのやつ、フェルンが使った攻撃魔法に興味を抱いたらしい。緊張下での質疑応答が始まったのだ
だが先手で有利な戦況を得たフェルンが、長々つきあうはずもない。あんのじょう早々に会話を打ち切り、杖を構える
幸い、リュグナーがリーニエちゃんに「やめろ」と阻止する。結果的にフェルンの殺気も、リーニエちゃんからそれた様子だ
どうもリュグナーのやつ、フェルンが使った攻撃魔法に興味を抱いたらしい。緊張下での質疑応答が始まったのだ
だが先手で有利な戦況を得たフェルンが、長々つきあうはずもない。あんのじょう早々に会話を打ち切り、杖を構える
16
「…? 時間稼ぎのつもりですね。早く止めを…」
そうやで有能フェルン、敵に回復の猶予を与えるのは愚の骨頂
何よりリュグナーとか言うその魔族は、ワイのリーニエちゃんゲット作戦における(現時点で)最大の障壁なんや。さっさと、やっておしまい
と、思いきや。またしてもリーニエちゃんが、健気にも無能キザ上司をかばうべくフェルンの前に、立ちふさがったのだ
「させない」
「…? 時間稼ぎのつもりですね。早く止めを…」
そうやで有能フェルン、敵に回復の猶予を与えるのは愚の骨頂
何よりリュグナーとか言うその魔族は、ワイのリーニエちゃんゲット作戦における(現時点で)最大の障壁なんや。さっさと、やっておしまい
と、思いきや。またしてもリーニエちゃんが、健気にも無能キザ上司をかばうべくフェルンの前に、立ちふさがったのだ
「させない」
17
見ればリーニエちゃんの可愛らしい右のお手々から、バチバチと爆ぜる音を響かせて光球が出現する
放電現象だろうか? リーニエちゃんのピンクなツインテールが、風もないのにふわりと浮かんだ
だが、杖をかまえたフェルンの前に立ちはだかるなど、なんたる無謀! この勝負、あきらかにフェルンが優勢や
このままでは生ける宝石リーニエちゃんが、がらくたよりも無価値なキザ上司の身代わりで、無駄にせっかちな怒りんぼ女の魔手にかけられてしまう!
見ればリーニエちゃんの可愛らしい右のお手々から、バチバチと爆ぜる音を響かせて光球が出現する
放電現象だろうか? リーニエちゃんのピンクなツインテールが、風もないのにふわりと浮かんだ
だが、杖をかまえたフェルンの前に立ちはだかるなど、なんたる無謀! この勝負、あきらかにフェルンが優勢や
このままでは生ける宝石リーニエちゃんが、がらくたよりも無価値なキザ上司の身代わりで、無駄にせっかちな怒りんぼ女の魔手にかけられてしまう!
18
リーニエちゃんのピンチを思うと矢も楯もたまらず、ワイは衰弱してぐったりしているグラナト伯に駆け寄り、彼を担いで割れたガラス戸の縁に向かっていた
できればフェルンがリュグナーに止めを刺している隙にリーニエちゃんを縛り上げ、そのままパーティ解消がてら愛の逃避行に移るのがワイにとってのベスト展開だったがさすがに物事、そう上手くは進まない
今は、フェルンのリーニエちゃんへの粗暴な攻撃を中止させるのが、先決や!
リーニエちゃんのピンチを思うと矢も楯もたまらず、ワイは衰弱してぐったりしているグラナト伯に駆け寄り、彼を担いで割れたガラス戸の縁に向かっていた
できればフェルンがリュグナーに止めを刺している隙にリーニエちゃんを縛り上げ、そのままパーティ解消がてら愛の逃避行に移るのがワイにとってのベスト展開だったがさすがに物事、そう上手くは進まない
今は、フェルンのリーニエちゃんへの粗暴な攻撃を中止させるのが、先決や!
19
「フェルン、伯爵の怪我が酷い。やり合う時間はねぇぜ。退くぞ」
我ながら、うまい口実が手に入った。果たしてフェルン、めずらしく素直に「はい」と頷く
かくしてひとまずワイは、後ろ髪を引かれる思いで伯爵の屋敷から脱したのである
一つだけ心配だったのはリーニエちゃんが無理を押して単身追撃(=フェルンの返り討ちに遭う)することだったが、彼女は彼女で深手の上司を置いてきぼりには出来なかったのだろう、杞憂に終わった
「フェルン、伯爵の怪我が酷い。やり合う時間はねぇぜ。退くぞ」
我ながら、うまい口実が手に入った。果たしてフェルン、めずらしく素直に「はい」と頷く
かくしてひとまずワイは、後ろ髪を引かれる思いで伯爵の屋敷から脱したのである
一つだけ心配だったのはリーニエちゃんが無理を押して単身追撃(=フェルンの返り討ちに遭う)することだったが、彼女は彼女で深手の上司を置いてきぼりには出来なかったのだろう、杞憂に終わった
20
そんなわけでひとまずワイとフェルン、そしてグラナト伯は、町の教会に逃げ込んだ…
さっそく医療魔法を使える神父に、リュグナーの拷問で負傷していた伯爵および、ワイの治療を依頼する
教会そのものも微弱とはいえ、対魔族の結界に守られている。ひとまず伯爵は無事だろう
そんなわけでひとまずワイとフェルン、そしてグラナト伯は、町の教会に逃げ込んだ…
さっそく医療魔法を使える神父に、リュグナーの拷問で負傷していた伯爵および、ワイの治療を依頼する
教会そのものも微弱とはいえ、対魔族の結界に守られている。ひとまず伯爵は無事だろう
2024/05/24(金) 23:04:38.30ID:RHEKLvRk
本日はここまでです。明日もハプニングが無ければ22〜24時くらいに投稿します
21
さいわいグラナト伯は賢明な人物で、今回の救助に礼を言ってくれたのはもちろん、(今は脱獄中だが)彼が拘束したワイらの連れフリーレンの無罪放免も確約した
脱獄したとはいえフリーレンが、牢番殺しの下手人でないことをとっくに察していたのである。後知恵だがフリーレン、逃げる必要はなかったわけや
(そういえばリュグナーのやつ、ワイに向かって「人も魔族も若い奴は短慮」とか毒づいていたな…)
さいわいグラナト伯は賢明な人物で、今回の救助に礼を言ってくれたのはもちろん、(今は脱獄中だが)彼が拘束したワイらの連れフリーレンの無罪放免も確約した
脱獄したとはいえフリーレンが、牢番殺しの下手人でないことをとっくに察していたのである。後知恵だがフリーレン、逃げる必要はなかったわけや
(そういえばリュグナーのやつ、ワイに向かって「人も魔族も若い奴は短慮」とか毒づいていたな…)
22
推測するに…フリーレンに返り討ちされた牢番殺しの真犯人・ドラートとかいう若手魔族は、上司リュグナーの許可も得ず暴走していたのだろう
ともあれ和平の使節リュグナーが、しょせんは伯爵領の防護結界を内側から解除させるためのペテンだったことが露見した今。リュグナーを殺そうとしたフリーレンの罪が撤回されるのも、当然ではある
推測するに…フリーレンに返り討ちされた牢番殺しの真犯人・ドラートとかいう若手魔族は、上司リュグナーの許可も得ず暴走していたのだろう
ともあれ和平の使節リュグナーが、しょせんは伯爵領の防護結界を内側から解除させるためのペテンだったことが露見した今。リュグナーを殺そうとしたフリーレンの罪が撤回されるのも、当然ではある
23
しかもグラナト伯、彼が拘束したエルフ魔法使いの名が「フリーレン」だと知るなり、少なからず恐縮・後悔の色を見せたのである
なんでも、彼の祖父の代における魔王軍襲来を撃退してくれた、恩人エルフなのだそうだ。リーニエちゃんのことは措くとして、これはワイらに有利な展開や
加えて祖父の代に伯爵領を襲ったのも、今回の相手と同じ「七崩賢・断頭台のアウラ」なのだそうな。この事実に、ワイはふと気が付いた
しかもグラナト伯、彼が拘束したエルフ魔法使いの名が「フリーレン」だと知るなり、少なからず恐縮・後悔の色を見せたのである
なんでも、彼の祖父の代における魔王軍襲来を撃退してくれた、恩人エルフなのだそうだ。リーニエちゃんのことは措くとして、これはワイらに有利な展開や
加えて祖父の代に伯爵領を襲ったのも、今回の相手と同じ「七崩賢・断頭台のアウラ」なのだそうな。この事実に、ワイはふと気が付いた
24
(そう言えば収監直後に面会したとき、フリーレンも言うとったな。アウラは『私たちとの戦いで配下のほとんどを失って消息不明のはずだ…』と。
つまりフリーレンがアウラを撃退した戦場って、まさしくここ。この町だったというわけや)
…って、なんだよ。いくら世代交代していたとはいえ。最初からフリーレンは、伯爵領の英雄だったんやんけ!
(そう言えば収監直後に面会したとき、フリーレンも言うとったな。アウラは『私たちとの戦いで配下のほとんどを失って消息不明のはずだ…』と。
つまりフリーレンがアウラを撃退した戦場って、まさしくここ。この町だったというわけや)
…って、なんだよ。いくら世代交代していたとはいえ。最初からフリーレンは、伯爵領の英雄だったんやんけ!
25
たしかにアウラが復活してから数えてすら、かれこれ28年…
ましてフリーレンのパーティがアウラを撃退した時に至っては、伯爵によれば80年前のことだそうやからなるほど、フリーレンを面通しできる古老が居るかどうかすら、かなり怪しい
とはいえ彼女がダメもとで自分の素性をグラナト伯に自己申告していたら、状況とか展開とかがよりいい方向に変わっていたかもと思うと、モヤモヤする
エルフにこそ及ぶべくもないが人間かて百歳まで生きて記憶も鮮明な人間はまれに良くいるし、たとえおらんでも残された記録で照合できたかもしれん
たしかにアウラが復活してから数えてすら、かれこれ28年…
ましてフリーレンのパーティがアウラを撃退した時に至っては、伯爵によれば80年前のことだそうやからなるほど、フリーレンを面通しできる古老が居るかどうかすら、かなり怪しい
とはいえ彼女がダメもとで自分の素性をグラナト伯に自己申告していたら、状況とか展開とかがよりいい方向に変わっていたかもと思うと、モヤモヤする
エルフにこそ及ぶべくもないが人間かて百歳まで生きて記憶も鮮明な人間はまれに良くいるし、たとえおらんでも残された記録で照合できたかもしれん
26
逢った時から思っとったがなんかこう、フリーレンってコミュ障っちゅうか良い意味だけでなく悪い意味でも、飄々としすぎているんや。エルフってみんな、あんなもんなんか?
アウラ配下の和睦使節との鉢合わせという、最悪のタイミングだったにせよ。つくづく立ち回りが下手すぎるわ。やはりフリーレンとのパーティは、早めに抜けるのが吉かもな
逢った時から思っとったがなんかこう、フリーレンってコミュ障っちゅうか良い意味だけでなく悪い意味でも、飄々としすぎているんや。エルフってみんな、あんなもんなんか?
アウラ配下の和睦使節との鉢合わせという、最悪のタイミングだったにせよ。つくづく立ち回りが下手すぎるわ。やはりフリーレンとのパーティは、早めに抜けるのが吉かもな
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それはともかく。再確認になるが偽りの使節リュグナーとすでにくたばったドラート、そして今やワイのターゲットにロックオンされている美少女(リーニエちゃん)の三人は、アウラの手下である
つまり…あの可愛い魔族っ娘を手中に収めるにあたっては、リュグナーはもちろんアウラという、さらに人外な障壁が立ちはだかってけつかるわけや
まったく、面倒くさいこっちゃで…いや待て、この状況でフリーレンは今、どこで何やっとるんや?
いっぽう、ワイの苦悩など知る由もない伯爵からのさらなる情報提供は、じつに興味深いものだった
それはともかく。再確認になるが偽りの使節リュグナーとすでにくたばったドラート、そして今やワイのターゲットにロックオンされている美少女(リーニエちゃん)の三人は、アウラの手下である
つまり…あの可愛い魔族っ娘を手中に収めるにあたっては、リュグナーはもちろんアウラという、さらに人外な障壁が立ちはだかってけつかるわけや
まったく、面倒くさいこっちゃで…いや待て、この状況でフリーレンは今、どこで何やっとるんや?
いっぽう、ワイの苦悩など知る由もない伯爵からのさらなる情報提供は、じつに興味深いものだった
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すなわち…
七崩賢のアウラは、「服従の天秤」という魔法を十八番にしているということだ。それこそが「儂らが長年アウラに勝てなかった要因だ」
病室の寝台に腰掛けながら、グラナト伯はそうのたまうのだった
「奴が使うのは相手を服従させ、意のままに操る魔法」
「七崩賢の魔法は人知も人の理も越える。アウラは天秤に自身と対象の魂を乗せ、魔力の大きさを秤にかける」
「魔力がより大きかった方が相手を屈服させ操り人形にできる。その体が朽ちて無くなるまで永遠にだ」
すなわち…
七崩賢のアウラは、「服従の天秤」という魔法を十八番にしているということだ。それこそが「儂らが長年アウラに勝てなかった要因だ」
病室の寝台に腰掛けながら、グラナト伯はそうのたまうのだった
「奴が使うのは相手を服従させ、意のままに操る魔法」
「七崩賢の魔法は人知も人の理も越える。アウラは天秤に自身と対象の魂を乗せ、魔力の大きさを秤にかける」
「魔力がより大きかった方が相手を屈服させ操り人形にできる。その体が朽ちて無くなるまで永遠にだ」
29
「相手を服従させ、意のままに操る魔法」…そんなもんもあるんか
そんときワイに、電流走る。こいつは覚えておいて、損は無さそうや―――!
早速ワイは腕を振り回し、受けた傷の回復具合を確認する。神父の治療魔法の腕は確かだったと見え、早くも実戦に支障はない
「じゃあ伯爵はここで待ってろ」と、ワイ
「クソガキ、お前 何をするつもりだ」と、伯爵。ここ一番、ワイははったりをかます
「こんなところで隠れていたら魔族が帰ってくれるのか?」
「相手を服従させ、意のままに操る魔法」…そんなもんもあるんか
そんときワイに、電流走る。こいつは覚えておいて、損は無さそうや―――!
早速ワイは腕を振り回し、受けた傷の回復具合を確認する。神父の治療魔法の腕は確かだったと見え、早くも実戦に支障はない
「じゃあ伯爵はここで待ってろ」と、ワイ
「クソガキ、お前 何をするつもりだ」と、伯爵。ここ一番、ワイははったりをかます
「こんなところで隠れていたら魔族が帰ってくれるのか?」
30
フェルンが妙に心配そうな顔をする
「ワイ様、本気ですか?」
(ああ本気やで、まだ具体的な策は固まっとらんが『魔族の美少女を、ワイの女にする』極秘作戦の決行や)
だが、まじめっ娘のフェルンは臆病者で通っているワイの(エロ方向での)やる気を、ただのイレギュラーな戦意と解釈したようや。無謀を諫める口調となる
「あのときは不意打ちが偶然成功しただけです。現に止めを刺せるほどの隙はありませんでした」
「もしあのまま戦っていたら殺されていたのは私たちの方です」
フェルンが妙に心配そうな顔をする
「ワイ様、本気ですか?」
(ああ本気やで、まだ具体的な策は固まっとらんが『魔族の美少女を、ワイの女にする』極秘作戦の決行や)
だが、まじめっ娘のフェルンは臆病者で通っているワイの(エロ方向での)やる気を、ただのイレギュラーな戦意と解釈したようや。無謀を諫める口調となる
「あのときは不意打ちが偶然成功しただけです。現に止めを刺せるほどの隙はありませんでした」
「もしあのまま戦っていたら殺されていたのは私たちの方です」
31
ふーむ。ワイの目にはフェルンの実力は、側近の美少女はおろかリュグナー自身をも圧倒していたように見えたのだが。本人の自己評価は、そんなもんか
さっきワイの撤退宣言に意外と素直に従ったのも、あのまま戦う自信が無かったっちゅうことやな…
だが岡目八目。ワイはすでに、魔法使いフェルンの実力をもうちょっと高く買う気になっている。フェルンは間違いなく、リュグナーと互角以上や
こっちはそれも勘定に入れて、動く気になっているんや。なによりあの魔族の美少女を、無傷で生け捕りにすること…
これはワイにとって、愛のエロス戦士としての人生を賭けた大勝負なんや!
ふーむ。ワイの目にはフェルンの実力は、側近の美少女はおろかリュグナー自身をも圧倒していたように見えたのだが。本人の自己評価は、そんなもんか
さっきワイの撤退宣言に意外と素直に従ったのも、あのまま戦う自信が無かったっちゅうことやな…
だが岡目八目。ワイはすでに、魔法使いフェルンの実力をもうちょっと高く買う気になっている。フェルンは間違いなく、リュグナーと互角以上や
こっちはそれも勘定に入れて、動く気になっているんや。なによりあの魔族の美少女を、無傷で生け捕りにすること…
これはワイにとって、愛のエロス戦士としての人生を賭けた大勝負なんや!
32
普段ならフェルンの弱気にのっかって、おとなしく閉じこもっていたであろうワイ…
だがこの時のワイは絶世の美少女が、ただの敵魔族としてフリーレンの手にかかり、雑に退治されるのが怖かったのだ
ワイの推理に狂いが無ければ「魔族ぜったい殺すマン」のフリーレンが、安全圏で我関せずを通すはずはない―――
使節の体で町に入ってきたリュグナーを目にするなり見敵必殺モードになった彼女の、魔族に向けていた非情なまなざしが、それを確信させるんや
すでにフリーレンは、アウラ配下のドラートを始末している。乗り掛かった舟であり、80年ぶりの因縁の再対決はとっくにゴングが鳴っとる
普段ならフェルンの弱気にのっかって、おとなしく閉じこもっていたであろうワイ…
だがこの時のワイは絶世の美少女が、ただの敵魔族としてフリーレンの手にかかり、雑に退治されるのが怖かったのだ
ワイの推理に狂いが無ければ「魔族ぜったい殺すマン」のフリーレンが、安全圏で我関せずを通すはずはない―――
使節の体で町に入ってきたリュグナーを目にするなり見敵必殺モードになった彼女の、魔族に向けていた非情なまなざしが、それを確信させるんや
すでにフリーレンは、アウラ配下のドラートを始末している。乗り掛かった舟であり、80年ぶりの因縁の再対決はとっくにゴングが鳴っとる
33
つまり…いまごろ町の外ではリュグナーの吉報を待っているであろうアウラと、昔アウラを討ち取り損ねたフリーレンの決着をつける死闘が、始まっているはず
そしてその勝負は十中八九、あのクソばばあエルフの勝利やろう。フリーレンにとってアウラはすでに一度勝っている相手やが、アウラにとってフリーレン再来は想定外や
アウラは作戦を組み立て直す余裕も無く、己の手の内を知悉している敵と戦うことになる。歴戦の魔法使いフリーレン圧勝の方程式は、すでに仕上がっとる…
奇妙なことやがリーニエちゃんを敵ではなく、絶対欲しい破格のかわいこちゃんと認知した直後からワイの中の怯懦が消え、戦士の勘が正常に作動し始めていた
つまり…いまごろ町の外ではリュグナーの吉報を待っているであろうアウラと、昔アウラを討ち取り損ねたフリーレンの決着をつける死闘が、始まっているはず
そしてその勝負は十中八九、あのクソばばあエルフの勝利やろう。フリーレンにとってアウラはすでに一度勝っている相手やが、アウラにとってフリーレン再来は想定外や
アウラは作戦を組み立て直す余裕も無く、己の手の内を知悉している敵と戦うことになる。歴戦の魔法使いフリーレン圧勝の方程式は、すでに仕上がっとる…
奇妙なことやがリーニエちゃんを敵ではなく、絶対欲しい破格のかわいこちゃんと認知した直後からワイの中の怯懦が消え、戦士の勘が正常に作動し始めていた
34
それゆえだろう。脱獄したフリーレンが偶然出会ったワイらに放った言葉が、いまでは実感をもって脳裏によみがえる
―――それに私は二人が魔族達より弱いなんて微塵も思っていないよ―――
現に目の当たりにした、フェルンの放った攻撃魔法。今やワイは確信している。ワイはともかく愛弟子フェルンへの、絶大な信頼あってのあの発言だったんや!
おそらく今回の戦いはフリーレンがアウラに、フェルンがリュグナーに余裕で勝つ流れやろう
ワイはその間、うまく逃げ回り隠れているとして…そこまで考えて、実はワイの胸の奥に新たな危惧が生まれていたんや
(アカン、これはわりと拙い流れや…ワイの未来の嫁に、死亡フラグが数え役満で立ちまくっとる!)
それゆえだろう。脱獄したフリーレンが偶然出会ったワイらに放った言葉が、いまでは実感をもって脳裏によみがえる
―――それに私は二人が魔族達より弱いなんて微塵も思っていないよ―――
現に目の当たりにした、フェルンの放った攻撃魔法。今やワイは確信している。ワイはともかく愛弟子フェルンへの、絶大な信頼あってのあの発言だったんや!
おそらく今回の戦いはフリーレンがアウラに、フェルンがリュグナーに余裕で勝つ流れやろう
ワイはその間、うまく逃げ回り隠れているとして…そこまで考えて、実はワイの胸の奥に新たな危惧が生まれていたんや
(アカン、これはわりと拙い流れや…ワイの未来の嫁に、死亡フラグが数え役満で立ちまくっとる!)
35
将官格アウラと士官格リュグナーが倒されて孤立無援のまま涙目で立ちすくむ、可哀想な下士官・兵卒格のリーニエちゃん…
涙無くして連想できない痛々しい未来像が、はっきり脳裏に浮かんだんや
彼女を追いつめた魔族アレルギーのクソばばあエルフと、その弟子の面倒くさい食いしんぼ女が、同時に叫ぶ
「「ゾルトラーク!」」
「あ…」
辛うじて儚げに声を絞り出すリーニエちゃんの半身が、無残にも吹き飛ばされる。綺麗なピンクのツインテールが半身ごと切断され、思わず月に向けて伸ばしたきれいな手も瞬時にチリとなる…
…そのヴィジョンが見えた時。それが自分の想像だと承知の上でワイは心中、叫んでいたんや
将官格アウラと士官格リュグナーが倒されて孤立無援のまま涙目で立ちすくむ、可哀想な下士官・兵卒格のリーニエちゃん…
涙無くして連想できない痛々しい未来像が、はっきり脳裏に浮かんだんや
彼女を追いつめた魔族アレルギーのクソばばあエルフと、その弟子の面倒くさい食いしんぼ女が、同時に叫ぶ
「「ゾルトラーク!」」
「あ…」
辛うじて儚げに声を絞り出すリーニエちゃんの半身が、無残にも吹き飛ばされる。綺麗なピンクのツインテールが半身ごと切断され、思わず月に向けて伸ばしたきれいな手も瞬時にチリとなる…
…そのヴィジョンが見えた時。それが自分の想像だと承知の上でワイは心中、叫んでいたんや
36
(やめてくれぇ! そんな綺麗な魔族の娘を凶器で殺す奴は、人の皮被ったケダモノやでぇえ!
魔族だろうが人間だろうがエルフだろうが、可愛い女の子は守られ愛されてなんぼや!
それをリュグナーの手下と言うだけでグラナト伯やフリーレンが殺すというのなら、愛のため美のために、誰かが彼女を守るべきなんやっ!)
その焦りゆえだろう。ワイは極秘の覚悟を迂闊にも、声に出していたのだ
「これは誰かがやらなきゃいけないことだろ?」
(やめてくれぇ! そんな綺麗な魔族の娘を凶器で殺す奴は、人の皮被ったケダモノやでぇえ!
魔族だろうが人間だろうがエルフだろうが、可愛い女の子は守られ愛されてなんぼや!
それをリュグナーの手下と言うだけでグラナト伯やフリーレンが殺すというのなら、愛のため美のために、誰かが彼女を守るべきなんやっ!)
その焦りゆえだろう。ワイは極秘の覚悟を迂闊にも、声に出していたのだ
「これは誰かがやらなきゃいけないことだろ?」
37
「…そうですね」と、すかさずフェルン
「では、一緒に頑張りましょう」
ふう、危なかった。うっかり本心を漏らしていたとはいえ。どうとでも取れる言い方だったので、フェルンも怪しむ風でなく普通の意味に受け取ったわ
ゆえに本来なら断る理由のない、フェルンの申し出やが。ここは我が身の危険も顧みずに拒否一択や…
「いや、フェルンは衛兵の詰め所に行け。町の人を避難させるんだ」
「…そうですね」と、すかさずフェルン
「では、一緒に頑張りましょう」
ふう、危なかった。うっかり本心を漏らしていたとはいえ。どうとでも取れる言い方だったので、フェルンも怪しむ風でなく普通の意味に受け取ったわ
ゆえに本来なら断る理由のない、フェルンの申し出やが。ここは我が身の危険も顧みずに拒否一択や…
「いや、フェルンは衛兵の詰め所に行け。町の人を避難させるんだ」
38
まだはっきりした計画が、出来ているわけではないものの。リーニエちゃんへの下心があるいじょう、敢えてフェルンやフリーレンとの共闘は避けねばならん
あくまで別行動(=ワイの独自行動)を主張したのは、それが本音やった
リュグナーに狙われとるっぽいフェルンとはわざと距離をとり、できれば彼女がリュグナーと対決する状況になるよう仕向ける…
つまり。ワイの恋路の邪魔者(味方側)に邪魔者(敵側)をぶつけて、まずは敵側を始末する寸法や
邪魔者どもが相手をつぶすのに専念しとる隙に、ワイのほうはフリーレンに加勢歎願におもむく…
…と見せかけて、こっそりリーニエちゃんの居場所を把握し、背後を取る。彼女の身柄を確保して、戦線離脱。そのままフリーレンのパーティを抜けて、愛の逃避行に移る
もちろん、流動的な戦場でこっちの狙いどおり運ぶかどうか分からんが、ワイの基本戦略はそれや
まだはっきりした計画が、出来ているわけではないものの。リーニエちゃんへの下心があるいじょう、敢えてフェルンやフリーレンとの共闘は避けねばならん
あくまで別行動(=ワイの独自行動)を主張したのは、それが本音やった
リュグナーに狙われとるっぽいフェルンとはわざと距離をとり、できれば彼女がリュグナーと対決する状況になるよう仕向ける…
つまり。ワイの恋路の邪魔者(味方側)に邪魔者(敵側)をぶつけて、まずは敵側を始末する寸法や
邪魔者どもが相手をつぶすのに専念しとる隙に、ワイのほうはフリーレンに加勢歎願におもむく…
…と見せかけて、こっそりリーニエちゃんの居場所を把握し、背後を取る。彼女の身柄を確保して、戦線離脱。そのままフリーレンのパーティを抜けて、愛の逃避行に移る
もちろん、流動的な戦場でこっちの狙いどおり運ぶかどうか分からんが、ワイの基本戦略はそれや
39
果たして怪訝そうなフェルン。「ではワイ様は?」
「ああ」
ワイは決意をみなぎらせた強い視線をフェルンに投げかけつつ、宣言した
「俺は全力で土下座して、フリーレンを連れ戻してくる」
「…え?」
拍子抜けしたフェルンの表情。だが彼女のワイに対する失望の反応には、慣れている。言い換えれば、容易に信じてくれるやろう
「なんだよ!! もう倒してもらうしかねえだろ!!」
まぁ嘘なんやけどね。ワイの予想が正しければ、彼女は彼女でアウラを成敗すべく修羅場の真っ最中のはず。ノコノコ赴けば巻き込まれての死亡フラグ、てんこもりやで
果たして怪訝そうなフェルン。「ではワイ様は?」
「ああ」
ワイは決意をみなぎらせた強い視線をフェルンに投げかけつつ、宣言した
「俺は全力で土下座して、フリーレンを連れ戻してくる」
「…え?」
拍子抜けしたフェルンの表情。だが彼女のワイに対する失望の反応には、慣れている。言い換えれば、容易に信じてくれるやろう
「なんだよ!! もう倒してもらうしかねえだろ!!」
まぁ嘘なんやけどね。ワイの予想が正しければ、彼女は彼女でアウラを成敗すべく修羅場の真っ最中のはず。ノコノコ赴けば巻き込まれての死亡フラグ、てんこもりやで
40
「確かにそのほうが現実的ですね」
不本意そうにではあったが、フェルンもうなずく。嘘も方便、これで分離行動を自然体で取れる。この先どう動くかは、動きながら考えるしかないが…
そんなこんなでグラナト伯を教会に残し、フェルンと連れだって町の外郭城壁まで移動したワイ
別行動へと移るにあたり、伯爵から預かっておいたグラナト家の紋章付きネックレスを、彼女に手渡す
「確かにそのほうが現実的ですね」
不本意そうにではあったが、フェルンもうなずく。嘘も方便、これで分離行動を自然体で取れる。この先どう動くかは、動きながら考えるしかないが…
そんなこんなでグラナト伯を教会に残し、フェルンと連れだって町の外郭城壁まで移動したワイ
別行動へと移るにあたり、伯爵から預かっておいたグラナト家の紋章付きネックレスを、彼女に手渡す
41
「こいつを見せれば衛兵は言うことを聞いてくれるってよ」
「わかりました」
「俺はすぐ町を出る」
だがその時。フェルンが妙に不審げな顔で、まじまじとワイを見つめてくるのである
(ヤバい。珍しくアクティブなワイを見て、背信を疑ったのか…?)
一瞬ビビったワイだったが、彼女が見つめているのは包帯を巻いたワイの両腕だった。どうやら別の案件らしい
「こいつを見せれば衛兵は言うことを聞いてくれるってよ」
「わかりました」
「俺はすぐ町を出る」
だがその時。フェルンが妙に不審げな顔で、まじまじとワイを見つめてくるのである
(ヤバい。珍しくアクティブなワイを見て、背信を疑ったのか…?)
一瞬ビビったワイだったが、彼女が見つめているのは包帯を巻いたワイの両腕だった。どうやら別の案件らしい
2024/05/25(土) 23:10:34.76ID:YHhfqTn9
本日はここまでです。明日もハプニングが無ければ22〜24時くらいに投稿します
42
「どうした?」
「腕、酷い状態ですね。そんな姿で城門を通れるんですか?」
確かにワイの腕は、リュグナーの攻撃を受けて負傷したものの。すでに神父の医療魔法で止血ばかりか機能も回復しとる
汚れた包帯を交換していないだけや
やれやれ、心配症な女やで。「大丈夫だろ。このくらい戦士なら普通だぜ。何か変なの?」
「両手血まみれで町中歩いてる戦士なんて見たことないですよ」と、フェルン
「どうした?」
「腕、酷い状態ですね。そんな姿で城門を通れるんですか?」
確かにワイの腕は、リュグナーの攻撃を受けて負傷したものの。すでに神父の医療魔法で止血ばかりか機能も回復しとる
汚れた包帯を交換していないだけや
やれやれ、心配症な女やで。「大丈夫だろ。このくらい戦士なら普通だぜ。何か変なの?」
「両手血まみれで町中歩いてる戦士なんて見たことないですよ」と、フェルン
43
ああ、もう。詮の無いことを。いまさら包帯を交換する余裕はない、勢いで乗り切るしか無いんや…
それに。見ればフェルンの外套の左裾だって、血で汚れているやないか
着ている本人には死角なうえ生地が黒いせいもあり、自分では気づいてないみたいやが
「第一、人のこと言えねえだろ。フェルンだって―――」
血痕のついた外套の裾を、つまみあげてフェルンに示しつつワイはふと、疑念を抱いた
フェルン自身は負傷していないし、返り血を浴びるような近接戦闘もしなかったはずやが…
「ん? これ誰の血だ? 俺の血じゃないよな」
ああ、もう。詮の無いことを。いまさら包帯を交換する余裕はない、勢いで乗り切るしか無いんや…
それに。見ればフェルンの外套の左裾だって、血で汚れているやないか
着ている本人には死角なうえ生地が黒いせいもあり、自分では気づいてないみたいやが
「第一、人のこと言えねえだろ。フェルンだって―――」
血痕のついた外套の裾を、つまみあげてフェルンに示しつつワイはふと、疑念を抱いた
フェルン自身は負傷していないし、返り血を浴びるような近接戦闘もしなかったはずやが…
「ん? これ誰の血だ? 俺の血じゃないよな」
44
とたんにフェルンが顔色を変え、外套を脱ぎ捨てて城壁の外へ放り投げる
「おい!」
驚くワイに答えようともせず、フェルンは無言でワイに向き合い、じろじろと眺める
「どうしたんだ?」
おもむろに、ワイのジャケットの襟を裏返すフェルン。おんや? いつの間にか血で汚れとる…
「ワイ様。この血から魔力が…」
そういい終える暇もあらばこそ。ワイの背後から何か赤黒い塊が凄いスピードでワイを素通りし、フェルンの左肩下を貫いたのだ
とたんにフェルンが顔色を変え、外套を脱ぎ捨てて城壁の外へ放り投げる
「おい!」
驚くワイに答えようともせず、フェルンは無言でワイに向き合い、じろじろと眺める
「どうしたんだ?」
おもむろに、ワイのジャケットの襟を裏返すフェルン。おんや? いつの間にか血で汚れとる…
「ワイ様。この血から魔力が…」
そういい終える暇もあらばこそ。ワイの背後から何か赤黒い塊が凄いスピードでワイを素通りし、フェルンの左肩下を貫いたのだ
45
見ればそれは、先刻ワイに手傷を負わせたリュグナーの、血を操る魔法。赤黒い爪が伸びてフェルンを城壁に張り付けにしていた
「…ぐっ!」
「フェルン!!」
急いで背負っていた斧を手にするワイの目の前に、飛ぶがごとく凄い跳躍をしながらでっかい得物を携えた人影が襲いかかる
咄嗟に自分の斧の柄で、受け止めるワイ
―――斧!?
戦斧で襲撃してきた相手は、ものすごい手練れ。衝撃で背中の城壁が吹き飛ばされるまま、ワイは敵とともに城壁外の地表に着地していた
見ればそれは、先刻ワイに手傷を負わせたリュグナーの、血を操る魔法。赤黒い爪が伸びてフェルンを城壁に張り付けにしていた
「…ぐっ!」
「フェルン!!」
急いで背負っていた斧を手にするワイの目の前に、飛ぶがごとく凄い跳躍をしながらでっかい得物を携えた人影が襲いかかる
咄嗟に自分の斧の柄で、受け止めるワイ
―――斧!?
戦斧で襲撃してきた相手は、ものすごい手練れ。衝撃で背中の城壁が吹き飛ばされるまま、ワイは敵とともに城壁外の地表に着地していた
46
目の前で、ワイとおそろいの巨大な戦斧をかまえる襲撃者―――それは見る者すべてを魅了する、さきほどの美少女(リーニエちゃん)やった
ゴスロリ衣装のかわいこちゃんが、凛々しく引き締まった表情でキリリとファイティング・ポーズをキメとるんや。なんたる素晴らしい眼福!
「信じられねぇぜ。俺は夢でも見てんのか(*´Д`)?」
うっとりしつつ、ワイは思わず(*´Д`)ハァハァしてしまう。夢なら覚めんな!
追い求めていたかわい子ちゃんが、まさか自分からワイに会いに来てくれるとは! まさに飛んで火に入る獲物ちゃん、感激やー
目の前で、ワイとおそろいの巨大な戦斧をかまえる襲撃者―――それは見る者すべてを魅了する、さきほどの美少女(リーニエちゃん)やった
ゴスロリ衣装のかわいこちゃんが、凛々しく引き締まった表情でキリリとファイティング・ポーズをキメとるんや。なんたる素晴らしい眼福!
「信じられねぇぜ。俺は夢でも見てんのか(*´Д`)?」
うっとりしつつ、ワイは思わず(*´Д`)ハァハァしてしまう。夢なら覚めんな!
追い求めていたかわい子ちゃんが、まさか自分からワイに会いに来てくれるとは! まさに飛んで火に入る獲物ちゃん、感激やー
47
おっといけない。しょっぱなから鼻の下を伸ばしてニヤついていたら、彼女に「気持ち悪い変態…」と、あらぬ疑いをかけられてしまう
急いで戦場の前衛戦士にふさわしく真剣モードの表情を作り、両手で斧を構えるワイであった
それに可愛い姿にばかり夢中になって二の次になっていたが、一つだけ気になっていたことがあったので、声に出すのはそっちの方にした
「そいつは師匠の技だ」
おっといけない。しょっぱなから鼻の下を伸ばしてニヤついていたら、彼女に「気持ち悪い変態…」と、あらぬ疑いをかけられてしまう
急いで戦場の前衛戦士にふさわしく真剣モードの表情を作り、両手で斧を構えるワイであった
それに可愛い姿にばかり夢中になって二の次になっていたが、一つだけ気になっていたことがあったので、声に出すのはそっちの方にした
「そいつは師匠の技だ」
48
事情は分からんが、とりあえず師匠と同じ動きを披露するリーニエちゃん。せや、下心はひとまず置いて、様子見が先決やな
いくら可憐でも現時点で敵は敵、魔族は魔族や
いったいどんなからくりの攻撃を仕掛けてくるか、まずは見極めねばならん
事情は分からんが、とりあえず師匠と同じ動きを披露するリーニエちゃん。せや、下心はひとまず置いて、様子見が先決やな
いくら可憐でも現時点で敵は敵、魔族は魔族や
いったいどんなからくりの攻撃を仕掛けてくるか、まずは見極めねばならん
49
最初はお互いに距離をとり、回り込むように円を描きつつ相手の出方を探り合うワイとリーニエちゃん…
刹那、彼女から仕掛けてくる。あのたおやかな細身からはあり得ない怪力で重量武器を軽々と振り上げつつ、韋駄天のような豪速の猛突進!
あっという間にワイは、弾き飛ばされていた。地面に大きな溝を作りつつ、大樹の幹に叩きつけられる
衝突の衝撃に耐えられなかった木の幹が、ワイの頭上の箇所で激しく音を立てて折れ、倒れた
さすが魔族や。常人にはありえぬ膂力…ワイは密かに舌を巻く。ともあれ、ひとまず得た情報を整理するため気を失ったふりをする
最初はお互いに距離をとり、回り込むように円を描きつつ相手の出方を探り合うワイとリーニエちゃん…
刹那、彼女から仕掛けてくる。あのたおやかな細身からはあり得ない怪力で重量武器を軽々と振り上げつつ、韋駄天のような豪速の猛突進!
あっという間にワイは、弾き飛ばされていた。地面に大きな溝を作りつつ、大樹の幹に叩きつけられる
衝突の衝撃に耐えられなかった木の幹が、ワイの頭上の箇所で激しく音を立てて折れ、倒れた
さすが魔族や。常人にはありえぬ膂力…ワイは密かに舌を巻く。ともあれ、ひとまず得た情報を整理するため気を失ったふりをする
50
果たしてリーニエちゃん、完勝を確信したのか第二撃は放たず、ワイを遠目で眺めるだけや。まあ確かに、普通の人間なら即死もんやしな
同じ背格好の少女なら三十人力にはなろう圧倒的なパワーと、狩猟豹もかくやのスピード。加えて重量武具のもたらす衝撃力…
その乗数効果がもたらす破壊力は、修行を経た戦士ならぬ一般人がまともに食らえば原形をとどめえぬことは疑いない
一山いくらの雑兵相手なら敵が何十人いようが余裕で駆逐できるし、してきたのであろう。戦闘中、所作の全てに自信がみなぎっていた
果たしてリーニエちゃん、完勝を確信したのか第二撃は放たず、ワイを遠目で眺めるだけや。まあ確かに、普通の人間なら即死もんやしな
同じ背格好の少女なら三十人力にはなろう圧倒的なパワーと、狩猟豹もかくやのスピード。加えて重量武具のもたらす衝撃力…
その乗数効果がもたらす破壊力は、修行を経た戦士ならぬ一般人がまともに食らえば原形をとどめえぬことは疑いない
一山いくらの雑兵相手なら敵が何十人いようが余裕で駆逐できるし、してきたのであろう。戦闘中、所作の全てに自信がみなぎっていた
51
(だがそれでは、魔物や魔族討伐の訓練をした戦士には通じんぞ…
怪力とはいえワイの師匠の技に比べればこの程度、まったく問題にならんレベルや)
ワイは自分でも驚くほど素早く、初撃で彼女の力量とその限界を読み切っていた
普段のワイなら、ビビリが災いして気が付くのにもっと時間がかかったろう。全ては(この娘を手に入れたい)という、恋の力のなせる業や
スピードと技術ではワイもかなわず捕捉に手こずるのは間違いないが、一つ一つの斬撃が弱い。鍛えぬいたワイの肉体に、致命傷は与えられない
(彼女、いずれ攻め手を欠いて疲弊するやろ。こっちも彼女の綺麗な体には傷一つ、つけることなく生け捕りにしたい。長期戦でいくぜ)
(だがそれでは、魔物や魔族討伐の訓練をした戦士には通じんぞ…
怪力とはいえワイの師匠の技に比べればこの程度、まったく問題にならんレベルや)
ワイは自分でも驚くほど素早く、初撃で彼女の力量とその限界を読み切っていた
普段のワイなら、ビビリが災いして気が付くのにもっと時間がかかったろう。全ては(この娘を手に入れたい)という、恋の力のなせる業や
スピードと技術ではワイもかなわず捕捉に手こずるのは間違いないが、一つ一つの斬撃が弱い。鍛えぬいたワイの肉体に、致命傷は与えられない
(彼女、いずれ攻め手を欠いて疲弊するやろ。こっちも彼女の綺麗な体には傷一つ、つけることなく生け捕りにしたい。長期戦でいくぜ)
52
「ドォォォン」
城壁の上で、轟音が響く。やれやれフェルンめ、やっと反撃に転じたか
怪我は負っているものの深手ではない。彼女ならリュグナーに、手堅く勝てるはずや
いっぽう我が愛しの対戦相手も当然、上方の異変に気づいて城壁を見上げている
「向こうも始まったか」
「しかし残念だな」と何気にドヤっとした口調で、尻もちついて幹にもたれとるワイに目を向けて言う。「こっちはもう終わりだ」
どうやらワイが動かんもんで、すっかり油断しきっとるようや
さらに「観戦でもするかな」と、独り言を続けるリーニエちゃん。「リュグナー様 邪魔すると怒るんだよね」
「ドォォォン」
城壁の上で、轟音が響く。やれやれフェルンめ、やっと反撃に転じたか
怪我は負っているものの深手ではない。彼女ならリュグナーに、手堅く勝てるはずや
いっぽう我が愛しの対戦相手も当然、上方の異変に気づいて城壁を見上げている
「向こうも始まったか」
「しかし残念だな」と何気にドヤっとした口調で、尻もちついて幹にもたれとるワイに目を向けて言う。「こっちはもう終わりだ」
どうやらワイが動かんもんで、すっかり油断しきっとるようや
さらに「観戦でもするかな」と、独り言を続けるリーニエちゃん。「リュグナー様 邪魔すると怒るんだよね」
53
フーム。怒られるとは可哀想にこの娘、あのクソ上司からパワハラとはいわずともかなり威圧的に頤使されとるみたいやな…
まぁセクハラよりは、ましかも知れん。それに本人が居ない場でも「様」付けする辺り、彼女がリュグナーに(忌々しいが)上司部下という関係を超えて、敬愛を抱いておるのも窺える
いや待て、敬「愛」―――?
(それってまさか…まさかあの二人、ただの部下と上司やない、デキとるんとちゃうか?)
思えば、リュグナーの彼女への尊大さにもある種の馴れ馴れしさを感じる…?
ど、どちくしょうがぁぁああ!
フーム。怒られるとは可哀想にこの娘、あのクソ上司からパワハラとはいわずともかなり威圧的に頤使されとるみたいやな…
まぁセクハラよりは、ましかも知れん。それに本人が居ない場でも「様」付けする辺り、彼女がリュグナーに(忌々しいが)上司部下という関係を超えて、敬愛を抱いておるのも窺える
いや待て、敬「愛」―――?
(それってまさか…まさかあの二人、ただの部下と上司やない、デキとるんとちゃうか?)
思えば、リュグナーの彼女への尊大さにもある種の馴れ馴れしさを感じる…?
ど、どちくしょうがぁぁああ!
54
あーいかんいかん、なんてダメなワイ。今はそんなことに気を揉んでいる時やないのにッ!
でも…でも気になるゥウウウ!!
「おや?」
ムクッと起き上がるワイを見て美少女魔族、意外そうな声を上げる
斧をかまえつつ「…まだ終わってねぇぜ…」と、ふらつきながら宣言するワイ。ただしダメージ受けとんのは、肉体よりも精神のほうなんやが
「しぶといね」
得物を構え直す、ワイの愛しのターゲット。「少しは楽しめそうだ」
あーいかんいかん、なんてダメなワイ。今はそんなことに気を揉んでいる時やないのにッ!
でも…でも気になるゥウウウ!!
「おや?」
ムクッと起き上がるワイを見て美少女魔族、意外そうな声を上げる
斧をかまえつつ「…まだ終わってねぇぜ…」と、ふらつきながら宣言するワイ。ただしダメージ受けとんのは、肉体よりも精神のほうなんやが
「しぶといね」
得物を構え直す、ワイの愛しのターゲット。「少しは楽しめそうだ」
55
ワイはワイでそんな彼女の体技の美しさを楽しみつつも、疑惑の苦しみも抱えとった
そういえば、怪しむに足る要素はある。そもそもこの娘このルックスで、なんで物理攻撃に特化しとんのや?
それもよりによって、事実上リュグナーの野郎を護衛する肉体言語が専業の、用心棒ポジなん?
最初は凛々しくも可憐なその姿に見とれていたワイやが、リュグナーとの関係を邪推しだしてからは妙に腹立たしく見えてきた
ワイはワイでそんな彼女の体技の美しさを楽しみつつも、疑惑の苦しみも抱えとった
そういえば、怪しむに足る要素はある。そもそもこの娘このルックスで、なんで物理攻撃に特化しとんのや?
それもよりによって、事実上リュグナーの野郎を護衛する肉体言語が専業の、用心棒ポジなん?
最初は凛々しくも可憐なその姿に見とれていたワイやが、リュグナーとの関係を邪推しだしてからは妙に腹立たしく見えてきた
56
君、ふつうハニトラ要員やろ。自分の価値を知らんのか? その、童顔が映えるツインテールとゴスロリファッションこそが、君の最強の武器やろが!
それとも愛するダーリン(リュグナー)のため、奴の傍仕えに特化できる護衛スキルを磨いたっちゅう流れか(怒)?
君、ふつうハニトラ要員やろ。自分の価値を知らんのか? その、童顔が映えるツインテールとゴスロリファッションこそが、君の最強の武器やろが!
それとも愛するダーリン(リュグナー)のため、奴の傍仕えに特化できる護衛スキルを磨いたっちゅう流れか(怒)?
57
ワイが悶々としつつ、さすがに本人に問いただすこともできず防御に専念していたときである。城壁の上から、リュグナーの声が響いてきたんや
「リーニエ!! 何をやっている!! 早くそいつを片付けろ!!」
(そうか、この魔族のかわい子ちゃん、リーニエっていうんか。可憐さに似つかわしい、ええ名や)
…っちゅうわけで。これまで説明の都合上 はなっからリーニエ呼びしてきたが、ワイが彼女の本名を知ったのはこの時点からや
できれば直接、本人から教えてほしかったけどな!
ワイが悶々としつつ、さすがに本人に問いただすこともできず防御に専念していたときである。城壁の上から、リュグナーの声が響いてきたんや
「リーニエ!! 何をやっている!! 早くそいつを片付けろ!!」
(そうか、この魔族のかわい子ちゃん、リーニエっていうんか。可憐さに似つかわしい、ええ名や)
…っちゅうわけで。これまで説明の都合上 はなっからリーニエ呼びしてきたが、ワイが彼女の本名を知ったのはこの時点からや
できれば直接、本人から教えてほしかったけどな!
58
しかしリーニエちゃん、これには少しイラっとした表情と口調になる
「なんだよ、我が儘だな。こいつ防戦一方でしつこいんだよ」
やはりワイの見立てどおり、フェルンがリュグナーを押しまくる展開やな。敵はもはや、部下の加勢を邪魔扱いどころか泣きつくハメになっとる
だがリーニエちゃんは怖い上官の窮地を案じている風でもなく、(リーニエちゃんを傷つけないため、わざと守勢一方の)ワイを倒すことに夢中や
といっても彼女の熱意からは、人間同士の真剣勝負にみられる高揚感は感じない。ひたすら、しぶとい不快害虫を駆除する作業にいら立っている風情やった
しかしリーニエちゃん、これには少しイラっとした表情と口調になる
「なんだよ、我が儘だな。こいつ防戦一方でしつこいんだよ」
やはりワイの見立てどおり、フェルンがリュグナーを押しまくる展開やな。敵はもはや、部下の加勢を邪魔扱いどころか泣きつくハメになっとる
だがリーニエちゃんは怖い上官の窮地を案じている風でもなく、(リーニエちゃんを傷つけないため、わざと守勢一方の)ワイを倒すことに夢中や
といっても彼女の熱意からは、人間同士の真剣勝負にみられる高揚感は感じない。ひたすら、しぶとい不快害虫を駆除する作業にいら立っている風情やった
59
ならば。揺さぶりがてら、いろいろ聞いてみるんも手か
(決着付ける前に、君の…男遍歴―――というか君の異性関係について確かめさせてくれ。君とリュグナーは、ただの上司部下の関係なんか?)
いちばん聞きたいのは勿論この件だったが、声にする前に慌てて別の件に切り替える
「…その斧捌き どういうことだ…」
「そいつは師匠の技だ…」
ならば。揺さぶりがてら、いろいろ聞いてみるんも手か
(決着付ける前に、君の…男遍歴―――というか君の異性関係について確かめさせてくれ。君とリュグナーは、ただの上司部下の関係なんか?)
いちばん聞きたいのは勿論この件だったが、声にする前に慌てて別の件に切り替える
「…その斧捌き どういうことだ…」
「そいつは師匠の技だ…」
60
ワイの声が動揺しているのを見て取ったリーニエちゃんは攻撃の手を緩めることなく、かつクールな無表情を装いつつも何気に得意そうに語り始める
「私は魔力を読み取るのが得意でさ
人が動いている時の魔力の流れを記憶して、動きを模倣できるんだよね」
「屋敷で初めてあなたの動きを見たときに確信した
私が昔記憶した、“最強の戦士”と同じ動きをしている」
「こんな偶然あるんだね。運命は面白い」
ワイの声が動揺しているのを見て取ったリーニエちゃんは攻撃の手を緩めることなく、かつクールな無表情を装いつつも何気に得意そうに語り始める
「私は魔力を読み取るのが得意でさ
人が動いている時の魔力の流れを記憶して、動きを模倣できるんだよね」
「屋敷で初めてあなたの動きを見たときに確信した
私が昔記憶した、“最強の戦士”と同じ動きをしている」
「こんな偶然あるんだね。運命は面白い」
2024/05/26(日) 23:24:31.77ID:BeArxGJD
3回目はここまでです。続きはハプニングが無ければ、明日22〜24時くらいに投稿します
72創る名無しに見る名無し
2024/05/26(日) 23:39:39.70ID:uiWKIZo7 はっけよいフェルン!
61
これにはリーニエちゃんの美しさに悶々としていた恋愛脳のワイも、息をのんだ
「…まさか…」
刹那。リーニエちゃんの斧の刃先が、遂にワイの間合いに入る。あかん。揺さぶるつもりがワイのほうが悶々しまくって、勝手に自爆しとった
「私は戦士アイゼンの動きを模倣している」
次の瞬間…リーニエちゃん渾身の斬撃をもろに貰って立ち続けられなくなったワイは、地面に倒れ伏せていた
これにはリーニエちゃんの美しさに悶々としていた恋愛脳のワイも、息をのんだ
「…まさか…」
刹那。リーニエちゃんの斧の刃先が、遂にワイの間合いに入る。あかん。揺さぶるつもりがワイのほうが悶々しまくって、勝手に自爆しとった
「私は戦士アイゼンの動きを模倣している」
次の瞬間…リーニエちゃん渾身の斬撃をもろに貰って立ち続けられなくなったワイは、地面に倒れ伏せていた
62
…なんや…無茶苦茶じゃねぇか…師匠が冒険の旅先でアウラとやりあったのって、80年前のことやろ
…こんなの勝てるはず…年下に見えてもリーニエちゃんは80年前に物心がついている
恐らく100才超のロリや。リュグナーとは、もはやワイが割り込む隙の無い古女房…
正直、リーニエちゃんの攻撃なんぞ見た目の出血はともかく大したダメージではなかったが、それより失恋の心理ダメージで、ワイは気力を失っていた
「ようやく倒れたか。急がないと、またリュグナー様に怒られる」
ああもう、またしてもリュグナー「様」か。ド畜生、ワイという一途な彼氏の筆頭候補がありながら…いや待て
…倒れた? ワイは倒れているのか…
…なんや…無茶苦茶じゃねぇか…師匠が冒険の旅先でアウラとやりあったのって、80年前のことやろ
…こんなの勝てるはず…年下に見えてもリーニエちゃんは80年前に物心がついている
恐らく100才超のロリや。リュグナーとは、もはやワイが割り込む隙の無い古女房…
正直、リーニエちゃんの攻撃なんぞ見た目の出血はともかく大したダメージではなかったが、それより失恋の心理ダメージで、ワイは気力を失っていた
「ようやく倒れたか。急がないと、またリュグナー様に怒られる」
ああもう、またしてもリュグナー「様」か。ド畜生、ワイという一途な彼氏の筆頭候補がありながら…いや待て
…倒れた? ワイは倒れているのか…
63
そのときや。ワイの脳裏に、師匠アイゼンの顔が浮かんできたんは
修行中、師匠の重い技に耐え切れず仰向けに倒れたワイを、文字通り上から目線で説教する師匠の、うっとうしい三白眼…
「立て。ワイ」
「どんなにボロボロになっても倒れることだけは許さん」
…強い相手に勝つ方法を教えてやる…
…簡単だ。何度でも立ち上がって技を叩き込め…
…戦士ってのは最後まで立っていた奴が勝つんだ…
そうや、その通りや…
そのときや。ワイの脳裏に、師匠アイゼンの顔が浮かんできたんは
修行中、師匠の重い技に耐え切れず仰向けに倒れたワイを、文字通り上から目線で説教する師匠の、うっとうしい三白眼…
「立て。ワイ」
「どんなにボロボロになっても倒れることだけは許さん」
…強い相手に勝つ方法を教えてやる…
…簡単だ。何度でも立ち上がって技を叩き込め…
…戦士ってのは最後まで立っていた奴が勝つんだ…
そうや、その通りや…
64
強い恋敵リュグナーに勝つ方法…
簡単や。相手より長生きしてしまえばええんや! 後は憂いなく、リーニエちゃんを独占すればええ
なにしろ奴は間違いなく、フェルンが始末してくれるんや
一方ワイは、リーニエちゃんの斬撃をしのぎ切れる。なるほど技とスピードはワイを上回るがいかんせん、威力がワイに通じない。何度でも立ち上がれる
そして次にワイが立ち上がるとき…それがこの勝負でリーニエちゃんに、引導を渡すときや!
強い恋敵リュグナーに勝つ方法…
簡単や。相手より長生きしてしまえばええんや! 後は憂いなく、リーニエちゃんを独占すればええ
なにしろ奴は間違いなく、フェルンが始末してくれるんや
一方ワイは、リーニエちゃんの斬撃をしのぎ切れる。なるほど技とスピードはワイを上回るがいかんせん、威力がワイに通じない。何度でも立ち上がれる
そして次にワイが立ち上がるとき…それがこの勝負でリーニエちゃんに、引導を渡すときや!
65
ワイの立ち上がる気配に感づいたリーニエちゃんが、ワイを振り返る。まさに見返り美人、やっぱ可愛いなあ。でもちょっとウンザリ気味の表情?
「大人しく寝てれば良かったのに。もう負けたんだから」
寝てれば良かった? 一瞬、ワイの命を気遣っているのかと嬉しくなったワイだが、まあこれは単に、ワイの頑丈さに攻めあぐねていたってこっちゃろう
ワイも今は心を鬼にして、心の底から辛いけど、愛しいリーニエちゃんを腕力でねじ伏せなくてはならん。ここからは、メスガキわからせフェーズや
ワイの立ち上がる気配に感づいたリーニエちゃんが、ワイを振り返る。まさに見返り美人、やっぱ可愛いなあ。でもちょっとウンザリ気味の表情?
「大人しく寝てれば良かったのに。もう負けたんだから」
寝てれば良かった? 一瞬、ワイの命を気遣っているのかと嬉しくなったワイだが、まあこれは単に、ワイの頑丈さに攻めあぐねていたってこっちゃろう
ワイも今は心を鬼にして、心の底から辛いけど、愛しいリーニエちゃんを腕力でねじ伏せなくてはならん。ここからは、メスガキわからせフェーズや
66
「…俺はまだ立っている」
「…それに思い出したんだ。師匠の技は、もっと重かった…」
「やっぱりお前のはただの真似事だ…」
ワイの挑発に、果たしてリーニエちゃんもカチンときたようだ
「ならその真似事で引導を渡してあげよう」
「エアファーゼン(模倣する魔法)」
大斧をかまえつつ、狩りをするネコ科動物のように低くうずくまるリーニエちゃん
この構え…やはり彼女は、(非公認やが)ワイの姉弟子や。しっかし同じポーズでも、美少女がやると悩ましいなあ
あやうく対決中に見とれて鼻の下伸ばすところやったが、さすがにそこまでの余裕は、この時は持てんかったわ
「…俺はまだ立っている」
「…それに思い出したんだ。師匠の技は、もっと重かった…」
「やっぱりお前のはただの真似事だ…」
ワイの挑発に、果たしてリーニエちゃんもカチンときたようだ
「ならその真似事で引導を渡してあげよう」
「エアファーゼン(模倣する魔法)」
大斧をかまえつつ、狩りをするネコ科動物のように低くうずくまるリーニエちゃん
この構え…やはり彼女は、(非公認やが)ワイの姉弟子や。しっかし同じポーズでも、美少女がやると悩ましいなあ
あやうく対決中に見とれて鼻の下伸ばすところやったが、さすがにそこまでの余裕は、この時は持てんかったわ
67
ワイが敢えて斧を大きく振り上げると狙い通り、がら空きになった胴に吸い寄せられるようにリーニエちゃんがワイの間合いに入ってくる
わざと防御を捨て去ったワイの動きを、彼女が(血迷ったな)と即断したのも無理はない
「ドッ」
横なぎに斧の刃先が、ワイの脇腹を直撃する。ワイは渾身の力を腹筋に込める
果たして刃先はワイの腹の皮を切り血しぶきをあげたが、筋肉は裂けなかった。まして内臓は安泰じゃ
ワイが敢えて斧を大きく振り上げると狙い通り、がら空きになった胴に吸い寄せられるようにリーニエちゃんがワイの間合いに入ってくる
わざと防御を捨て去ったワイの動きを、彼女が(血迷ったな)と即断したのも無理はない
「ドッ」
横なぎに斧の刃先が、ワイの脇腹を直撃する。ワイは渾身の力を腹筋に込める
果たして刃先はワイの腹の皮を切り血しぶきをあげたが、筋肉は裂けなかった。まして内臓は安泰じゃ
68
ただでさえ回し斬りは、重量武具の利点を活かしにくい力業。加えて小柄な少女ゆえ取り回しの都合上、柄を半ばほども短く持っている
ゆえに遠心力もじゅうぶん活用できない。即ちリーニエちゃんの腕力・体格では、彼女の弟弟子の脇腹を切り裂くには足りなかったのだ
「相打ち覚悟だったのにビビって損したぜ」
「やっぱり全然重たくねぇや」
「あ…」というリーニエちゃんの、悲鳴とも驚愕ともとれる微かな声と、ワイ渾身の斧が振り下ろされたのはほぼ同時やった
「閃天撃!!」
ただでさえ回し斬りは、重量武具の利点を活かしにくい力業。加えて小柄な少女ゆえ取り回しの都合上、柄を半ばほども短く持っている
ゆえに遠心力もじゅうぶん活用できない。即ちリーニエちゃんの腕力・体格では、彼女の弟弟子の脇腹を切り裂くには足りなかったのだ
「相打ち覚悟だったのにビビって損したぜ」
「やっぱり全然重たくねぇや」
「あ…」というリーニエちゃんの、悲鳴とも驚愕ともとれる微かな声と、ワイ渾身の斧が振り下ろされたのはほぼ同時やった
「閃天撃!!」
69
最強戦士アイゼンの一番弟子ワイの袈裟懸け斬りは、魔力放出によるエネルギーの光柱を生成。天高く伸びていく。さらに樹海の中に、凄まじい轟音と爆風と土煙をまき散らした
城壁の上からは「リーニエ!!」と叫ぶリュグナーの悲痛な声が聞こえてくる。リーニエちゃんという命綱の援軍を失ったことへの苦悶なのか、愛する者を失った悲鳴かは知りようもないが
だがフェルンと対峙している最中にわき見をするなど、死亡フラグでしかない
「しまっ…」。焦るリュグナーの声すら、言い終える暇はなかった
「ゾルトラーク」
ひときわ輝く閃光。ワイの恋敵? リュグナーの最期を、ワイは確信した
最強戦士アイゼンの一番弟子ワイの袈裟懸け斬りは、魔力放出によるエネルギーの光柱を生成。天高く伸びていく。さらに樹海の中に、凄まじい轟音と爆風と土煙をまき散らした
城壁の上からは「リーニエ!!」と叫ぶリュグナーの悲痛な声が聞こえてくる。リーニエちゃんという命綱の援軍を失ったことへの苦悶なのか、愛する者を失った悲鳴かは知りようもないが
だがフェルンと対峙している最中にわき見をするなど、死亡フラグでしかない
「しまっ…」。焦るリュグナーの声すら、言い終える暇はなかった
「ゾルトラーク」
ひときわ輝く閃光。ワイの恋敵? リュグナーの最期を、ワイは確信した
70
翌朝…ワイとフェルンの二人は伯爵と連れだって、郊外の戦場に出向いていた
無数の首なし鎧が、大地に散らばっとる。アウラの「不死の軍勢」の、最期の姿や
期待通りフリーレンが七崩賢の一角、断頭台のアウラを葬ったんや
フリーレンは、戦地に独り佇立している。さっそくフェルンが呼びかけた
「フリーレン様」
「遅かったね」と、フリーレン。このあたり、ベテランの余裕というも貫禄やな。ワイらの勝利を、見極めてくれていればこそのセリフや
「アウラを倒したんですね」と、嬉しそうなフェルン
「信じられん。まさかこんなことが…」と驚愕の表情で原野の死屍累々を見渡すのは、グラナト伯である
翌朝…ワイとフェルンの二人は伯爵と連れだって、郊外の戦場に出向いていた
無数の首なし鎧が、大地に散らばっとる。アウラの「不死の軍勢」の、最期の姿や
期待通りフリーレンが七崩賢の一角、断頭台のアウラを葬ったんや
フリーレンは、戦地に独り佇立している。さっそくフェルンが呼びかけた
「フリーレン様」
「遅かったね」と、フリーレン。このあたり、ベテランの余裕というも貫禄やな。ワイらの勝利を、見極めてくれていればこそのセリフや
「アウラを倒したんですね」と、嬉しそうなフェルン
「信じられん。まさかこんなことが…」と驚愕の表情で原野の死屍累々を見渡すのは、グラナト伯である
71
グラナト伯の姿を認めるなり、そそくさとワイらに出立を促すフリーレン
「行くよ」
グラナト伯は、あわてて「待て。逃げる必要は無い」と引き留める
「伯爵は全部不問にするってよ」。ワイがそう請け負うと、ようやくフリーレンも納得した表情を見せる
「激しい戦いであったろうにどれも大きな損傷は無い」
「感謝する。北側諸国の英傑達によく敬意を払ってくれた」
グラナト伯は、感無量の体や
グラナト伯の姿を認めるなり、そそくさとワイらに出立を促すフリーレン
「行くよ」
グラナト伯は、あわてて「待て。逃げる必要は無い」と引き留める
「伯爵は全部不問にするってよ」。ワイがそう請け負うと、ようやくフリーレンも納得した表情を見せる
「激しい戦いであったろうにどれも大きな損傷は無い」
「感謝する。北側諸国の英傑達によく敬意を払ってくれた」
グラナト伯は、感無量の体や
72
それからお互いの情報交換を行い、フリーレンはアウラを倒した顛末を、ワイらはリュグナーたちを打ち破ったいきさつを話した
果たしてフリーレン、ワイらが「見込み通り」の首尾だったことに、満足げに微笑む
「フェルン。ワイ。よくリュグナー達を倒した。偉いぞ」
「へへっ」。フリーレンに褒められて、ワイは曖昧に笑う。フリーレンはワイのことを「リーニエほどの別嬪でも、惜しみなく殺せる対魔族戦士」と、信じとるようだ
それからお互いの情報交換を行い、フリーレンはアウラを倒した顛末を、ワイらはリュグナーたちを打ち破ったいきさつを話した
果たしてフリーレン、ワイらが「見込み通り」の首尾だったことに、満足げに微笑む
「フェルン。ワイ。よくリュグナー達を倒した。偉いぞ」
「へへっ」。フリーレンに褒められて、ワイは曖昧に笑う。フリーレンはワイのことを「リーニエほどの別嬪でも、惜しみなく殺せる対魔族戦士」と、信じとるようだ
73
だがフリーレン、さっそくワイの負傷とあちこち切られた着衣がよほど気になったのか、無遠慮にワイの手負いぶりをじろじろ眺める
心配しているというより、何か疑わし気に検分しているみたいな態度なのがちょいと鬱陶しい
あげく「ボロボロじゃなければもっと良かったけど。満身創痍じゃん」と、余計な一言
「このくらい戦士なら普通だぜ」とワイは強がるも、横でフェルンが「普通ってなんなんだろう」とつぶやく
いっぽうグラナト伯は、アウラとの戦いで戦死した息子の鎧を見つけ出していた。感極まった伯の声が、原野に響いた
「…フリーレン。儂は今日ほど誰かに感謝したことはない」
だがフリーレン、さっそくワイの負傷とあちこち切られた着衣がよほど気になったのか、無遠慮にワイの手負いぶりをじろじろ眺める
心配しているというより、何か疑わし気に検分しているみたいな態度なのがちょいと鬱陶しい
あげく「ボロボロじゃなければもっと良かったけど。満身創痍じゃん」と、余計な一言
「このくらい戦士なら普通だぜ」とワイは強がるも、横でフェルンが「普通ってなんなんだろう」とつぶやく
いっぽうグラナト伯は、アウラとの戦いで戦死した息子の鎧を見つけ出していた。感極まった伯の声が、原野に響いた
「…フリーレン。儂は今日ほど誰かに感謝したことはない」
74
さて、長々と話してきたが、ある意味でここからが本題や
ワイは衛兵たちが遺体確認作業をしているのに混ざり、手伝っているフリをしながら“あるもの”を戦場跡から探していた…
あげく、首尾よく探し出してから仲間の目を盗んでこっそり懐に入れた。幸い、誰にも気づかれなかったようや
ワイが血眼になって探していたもの、それは…
(あった! これさえあれば、リーニエちゃんの身も心もワイのもんやっ)
さて、長々と話してきたが、ある意味でここからが本題や
ワイは衛兵たちが遺体確認作業をしているのに混ざり、手伝っているフリをしながら“あるもの”を戦場跡から探していた…
あげく、首尾よく探し出してから仲間の目を盗んでこっそり懐に入れた。幸い、誰にも気づかれなかったようや
ワイが血眼になって探していたもの、それは…
(あった! これさえあれば、リーニエちゃんの身も心もワイのもんやっ)
75
ワイが震える手で泥濘の中から拾い上げたもの。それは…
断頭台のアウラが、不死の軍勢を築き上げるために用いた彼女の切り札にして、フリーレンに敗れた元凶―――
「みつけたで、『服従の天秤』」
ワイは人目をはばかりながら、素早く天秤を外套の裏ポケットにしまいこむ。そしてさりげなく、場を離れようとする
「赤毛の戦士殿、どちらへ行かれるおつもりです?」
不意に背後から衛兵にそう呼ばれ、ワイはぎくりとした。ワイの頭髪が赤いので、そう呼んだのだろう。さっそくがめたのがバレたのか?
だが衛兵はワイを手招きしつつ、こういった。「伯爵様が、戦場の清掃はやらずともよいから、フリーレン様と共に屋敷に来るようお申し付けです」
ワイが震える手で泥濘の中から拾い上げたもの。それは…
断頭台のアウラが、不死の軍勢を築き上げるために用いた彼女の切り札にして、フリーレンに敗れた元凶―――
「みつけたで、『服従の天秤』」
ワイは人目をはばかりながら、素早く天秤を外套の裏ポケットにしまいこむ。そしてさりげなく、場を離れようとする
「赤毛の戦士殿、どちらへ行かれるおつもりです?」
不意に背後から衛兵にそう呼ばれ、ワイはぎくりとした。ワイの頭髪が赤いので、そう呼んだのだろう。さっそくがめたのがバレたのか?
だが衛兵はワイを手招きしつつ、こういった。「伯爵様が、戦場の清掃はやらずともよいから、フリーレン様と共に屋敷に来るようお申し付けです」
76
その後、あらためてグラナト伯爵家の広間で伯の引見を受け、ぶじ褒美まで頂戴できたワイら一行…
フリーレンは偽物であるむね伯に念押しされても、伯家に代々伝わる大魔法使いフランメの魔導書を報酬として所望。手に入れて満足そうである
ともあれアウラ討伐の朗報に、町の住民も大歓喜
伯爵の屋敷を辞した後のワイらを待っていたのは、住民総出のおもてなしやった
フェルンは人々の賞賛とご馳走攻めに満更でもないようやったが、ワイは歓待を堪能するふりをしつつ、お祭り騒ぎが一段落する深夜を待っていた
その後、あらためてグラナト伯爵家の広間で伯の引見を受け、ぶじ褒美まで頂戴できたワイら一行…
フリーレンは偽物であるむね伯に念押しされても、伯家に代々伝わる大魔法使いフランメの魔導書を報酬として所望。手に入れて満足そうである
ともあれアウラ討伐の朗報に、町の住民も大歓喜
伯爵の屋敷を辞した後のワイらを待っていたのは、住民総出のおもてなしやった
フェルンは人々の賞賛とご馳走攻めに満更でもないようやったが、ワイは歓待を堪能するふりをしつつ、お祭り騒ぎが一段落する深夜を待っていた
77
そして、お待ちかねの深夜―――日中のお祭り騒ぎと飽食で住民もフリーレンたちも寝静まり、町には打って変わった静寂が漂う
そんな中ひとり起床したワイは携行用のランプを手に、こっそりと寝室を抜け出す。目指すは、昨日の死闘の場だった城壁外の樹海や
崩れた石垣、無残に折れた樹木、えぐられた地面がそのまんまになっとる
昨夜、ワイが必殺の閃天撃を放った地点に到着する。ワイが故意に置いておいた倒木の束を取り去ると、そこには大穴があった
閃天撃の衝撃波が作った大きくて深い穴が、そのまんまになっとるわけや。「ゆうに人一人が隠れることができる」穴が…
おそらく明日か明後日にはこの辺りにも復興作業の調査隊がやってきて、この穴を見つけるはず。急がねば…
そして、お待ちかねの深夜―――日中のお祭り騒ぎと飽食で住民もフリーレンたちも寝静まり、町には打って変わった静寂が漂う
そんな中ひとり起床したワイは携行用のランプを手に、こっそりと寝室を抜け出す。目指すは、昨日の死闘の場だった城壁外の樹海や
崩れた石垣、無残に折れた樹木、えぐられた地面がそのまんまになっとる
昨夜、ワイが必殺の閃天撃を放った地点に到着する。ワイが故意に置いておいた倒木の束を取り去ると、そこには大穴があった
閃天撃の衝撃波が作った大きくて深い穴が、そのまんまになっとるわけや。「ゆうに人一人が隠れることができる」穴が…
おそらく明日か明後日にはこの辺りにも復興作業の調査隊がやってきて、この穴を見つけるはず。急がねば…
78
ワイはランプの光で、穴の中を照らし出す
「ふう、良かった。日中に逃げられちゃいないかと、冷や冷やしとったぜ」
ランプの灯火に浮かび上がるのは、目隠しされ手足を縛られ、猿ぐつわまで噛まされた哀れなゴスロリ娘…
そう。ワイの愛しの、リーニエちゃんだった
ワイはランプの光で、穴の中を照らし出す
「ふう、良かった。日中に逃げられちゃいないかと、冷や冷やしとったぜ」
ランプの灯火に浮かび上がるのは、目隠しされ手足を縛られ、猿ぐつわまで噛まされた哀れなゴスロリ娘…
そう。ワイの愛しの、リーニエちゃんだった
79
果たしてワイの気配に気づいたリーニエちゃんが、もがき始める。せやけどワイの腕力に任せた緊縛は、今の彼女には解けまい
「うぐ…」
「スマンな待たせて。すぐ解放してあげるで。ただし―――」
ワイは穴の中に降り、リーニエちゃんの目隠しだけを外してあげる。ハイライトの無い可愛い瞳が、今は探るようにワイを見上げている
聞き手の諸賢はもうお気づきやろけど、ワイ必殺の閃天撃も、あたらリーニエちゃんを直撃する粗相はしなかった
もちろん峰打ちといえども衝撃波は強力で、リーニエちゃんを気絶させるのは容易いことや
彼女が負傷していないのをあらためた上で、縛って出来立ての穴の中へ…という寸法や
果たしてワイの気配に気づいたリーニエちゃんが、もがき始める。せやけどワイの腕力に任せた緊縛は、今の彼女には解けまい
「うぐ…」
「スマンな待たせて。すぐ解放してあげるで。ただし―――」
ワイは穴の中に降り、リーニエちゃんの目隠しだけを外してあげる。ハイライトの無い可愛い瞳が、今は探るようにワイを見上げている
聞き手の諸賢はもうお気づきやろけど、ワイ必殺の閃天撃も、あたらリーニエちゃんを直撃する粗相はしなかった
もちろん峰打ちといえども衝撃波は強力で、リーニエちゃんを気絶させるのは容易いことや
彼女が負傷していないのをあらためた上で、縛って出来立ての穴の中へ…という寸法や
80
それからワイはおもむろに、懐から「服従の天秤」を取り出す
「これが何かわかるな? リーニエ」
「ぐ!…っ」
瞳に、驚きの色が宿るのをワイは見逃さなかった
「あんたは魔力の読み取り…探知が得意らしいな。ならリュグナーとアウラの魔力が探知できないことには、もう気づいとるはずや…
お察しの通り、二人ともワイの連れに屠られた。かくして、アウラの天秤はいまやワイの手中にある、というわけや」
それからワイはおもむろに、懐から「服従の天秤」を取り出す
「これが何かわかるな? リーニエ」
「ぐ!…っ」
瞳に、驚きの色が宿るのをワイは見逃さなかった
「あんたは魔力の読み取り…探知が得意らしいな。ならリュグナーとアウラの魔力が探知できないことには、もう気づいとるはずや…
お察しの通り、二人ともワイの連れに屠られた。かくして、アウラの天秤はいまやワイの手中にある、というわけや」
81
ワイは既に伯爵やフリーレンとの情報交換で、その天秤の使い方を知っていた。一呼吸おいて、呪文をとなえる
「アゼリューゼ」
リーニエちゃんの体から、どす黒いけど辺縁はピンク光を帯びた魂が、フワフワと飛び出してくる
いっぽうワイの体からも白く輝く熱い魂が、フワフワと浮かび出てくる。
二つの魂はワイが持つ天秤の左右の皿にそれぞれ乗り、重さを競い始める
最初の一瞬だけ、天秤は完全な均衡を保った。それから数秒の間があって、一瞬だがリーニエちゃんの魂を乗せた皿がググググ…とほんの数センチ、沈み込む
まさに、がんばリーニエや
ワイは既に伯爵やフリーレンとの情報交換で、その天秤の使い方を知っていた。一呼吸おいて、呪文をとなえる
「アゼリューゼ」
リーニエちゃんの体から、どす黒いけど辺縁はピンク光を帯びた魂が、フワフワと飛び出してくる
いっぽうワイの体からも白く輝く熱い魂が、フワフワと浮かび出てくる。
二つの魂はワイが持つ天秤の左右の皿にそれぞれ乗り、重さを競い始める
最初の一瞬だけ、天秤は完全な均衡を保った。それから数秒の間があって、一瞬だがリーニエちゃんの魂を乗せた皿がググググ…とほんの数センチ、沈み込む
まさに、がんばリーニエや
82
だが軽量級だったがゆえに肉弾戦でワイに負けたリーニエちゃんと、勝者ワイ…その魂勝負も、結末は最初から見えていた
何よりワイのリーニエちゃんへの愛の重さは、リーニエちゃんの闇落ちを許してしまうほどやわやないッ!
「破ーっ!」とワイが叫ぶや否や。気合や、恋する男心の気合が勝ったんや!
天秤は一瞬にして逆転し、愛に生きるエロス戦士ワイの魂が怒涛の重量で沈みこみ、リーニエちゃんの魂が乗る天秤皿を押し上げていたのである
「勝った! リーニエ。今日からお前は戦士ワイの愛奴やっ、リュグナーや魔族のことは忘れてワイをワイ様と呼んで仕え、ワイの子を産み、ワイの嫁として女の人生を全うせえ!」
だが軽量級だったがゆえに肉弾戦でワイに負けたリーニエちゃんと、勝者ワイ…その魂勝負も、結末は最初から見えていた
何よりワイのリーニエちゃんへの愛の重さは、リーニエちゃんの闇落ちを許してしまうほどやわやないッ!
「破ーっ!」とワイが叫ぶや否や。気合や、恋する男心の気合が勝ったんや!
天秤は一瞬にして逆転し、愛に生きるエロス戦士ワイの魂が怒涛の重量で沈みこみ、リーニエちゃんの魂が乗る天秤皿を押し上げていたのである
「勝った! リーニエ。今日からお前は戦士ワイの愛奴やっ、リュグナーや魔族のことは忘れてワイをワイ様と呼んで仕え、ワイの子を産み、ワイの嫁として女の人生を全うせえ!」
2024/05/27(月) 22:44:40.70ID:eJeqB3ym
4回目はここまでです。続きはハプニングが無ければ、明日22〜24時くらいに投稿します
83
効果はてきめんやった
リーニエちゃんの目に、ハイライトが宿る。彼女がワイの愛の奴隷として、生涯そいとげる嫁としての運命を背負った、記念すべき瞬間や
ワイがおもむろに猿ぐつわを外し、リーニエちゃんのいましめをほどくと、リーニエちゃんがワイにひざまずき、胸に右手を当てて誓いを立てる
「ワイ様。わたくしの旦那様。リーニエはこれからワイ様の嫁としてワイ様におつかえし、ワイ様の赤ちゃんを産みます」
それからすぐに「産めたらの話ですが…」と付け加えたが、それはこの時点のワイには、まるで気にならん話やった
効果はてきめんやった
リーニエちゃんの目に、ハイライトが宿る。彼女がワイの愛の奴隷として、生涯そいとげる嫁としての運命を背負った、記念すべき瞬間や
ワイがおもむろに猿ぐつわを外し、リーニエちゃんのいましめをほどくと、リーニエちゃんがワイにひざまずき、胸に右手を当てて誓いを立てる
「ワイ様。わたくしの旦那様。リーニエはこれからワイ様の嫁としてワイ様におつかえし、ワイ様の赤ちゃんを産みます」
それからすぐに「産めたらの話ですが…」と付け加えたが、それはこの時点のワイには、まるで気にならん話やった
84
夢にまで見た光景に息をのみつつ、ワイは応じる。いくぶん、声は震えていたかもしれん
「…よくぞ言うてくれたリーニエ。ワイも君を全力で守る。君にはもう、痛い思いも怖い思いもひもじい思いもさせへんで」
それからワイはおもむろにリーニエちゃんの顔を両手で包み込み、熱い接吻をかわして抱擁し、彼女の温もりを味わった
彼女が無表情だったのは、まだ服従が表面的なものであるせいやろう。信頼を勝ち取るのは、今後のワイの努力次第か…
まずは用意しておいたフード付きの外套を、リーニエちゃんにかぶせてあげる。よし、これで余人に目撃されても角には気づかれない
「それじゃあワイについてくるんや。隠れ家を準備しておいたからな、案内したるで。もちろんフリーレンたちに探知されんよう、魔力制限は忘れんでな」
夢にまで見た光景に息をのみつつ、ワイは応じる。いくぶん、声は震えていたかもしれん
「…よくぞ言うてくれたリーニエ。ワイも君を全力で守る。君にはもう、痛い思いも怖い思いもひもじい思いもさせへんで」
それからワイはおもむろにリーニエちゃんの顔を両手で包み込み、熱い接吻をかわして抱擁し、彼女の温もりを味わった
彼女が無表情だったのは、まだ服従が表面的なものであるせいやろう。信頼を勝ち取るのは、今後のワイの努力次第か…
まずは用意しておいたフード付きの外套を、リーニエちゃんにかぶせてあげる。よし、これで余人に目撃されても角には気づかれない
「それじゃあワイについてくるんや。隠れ家を準備しておいたからな、案内したるで。もちろんフリーレンたちに探知されんよう、魔力制限は忘れんでな」
85
リーニエちゃんを案内したのは戦場となった地点からほど近い場所にある、街はずれの古ぼけた貸家…
その家の鍵は今、ワイの懐中にある
抜け目のないワイは昼のうちに、ワイを歓迎してくれる住民の中からさりげなく、不動産業者のコネを得ておいたんや
(話が分かる上に口も堅そう)と見極めた相手を、ワイは宴会の席を外した廊下の隅っこに呼んでコッソリ、こう切り出した
「連れの女どもにばれんように、懇ろになった娘を連れ込める隠れ家を提供してくれへんか? 賄いつきの。もちろん、逗留中だけでええ
伯爵からは、ワイもたんまり報酬をいただいとる。損な商売はさせへんで」
リーニエちゃんを案内したのは戦場となった地点からほど近い場所にある、街はずれの古ぼけた貸家…
その家の鍵は今、ワイの懐中にある
抜け目のないワイは昼のうちに、ワイを歓迎してくれる住民の中からさりげなく、不動産業者のコネを得ておいたんや
(話が分かる上に口も堅そう)と見極めた相手を、ワイは宴会の席を外した廊下の隅っこに呼んでコッソリ、こう切り出した
「連れの女どもにばれんように、懇ろになった娘を連れ込める隠れ家を提供してくれへんか? 賄いつきの。もちろん、逗留中だけでええ
伯爵からは、ワイもたんまり報酬をいただいとる。損な商売はさせへんで」
86
果たして、蛇の道は蛇や。自身が愛人を3人は抱えていそうな恰幅のいい壮年の不動産屋は、気前の良い返事をくれた
「さすがアウラ一行を斃した戦士殿、アッチも猛者とお見受けします。お任せを、手前は妾宅向きの家も扱っております…
それと、ご利用は逗留中だけですよね? ならばお代は無用です。アウラ亡き今、この町の地代は高騰が約束されていますからね
功労者のワイ様にその程度のサービスもできぬほど、がめつくはありません」
…と、いうわけで。リーニエちゃんとの愛の巣は、しっかり準備しとったというわけや
正直、「女遊びならひっかけた娘より、高級娼館の方が楽しめますよ?」という彼の申し出を断るのは、一苦労やったが
果たして、蛇の道は蛇や。自身が愛人を3人は抱えていそうな恰幅のいい壮年の不動産屋は、気前の良い返事をくれた
「さすがアウラ一行を斃した戦士殿、アッチも猛者とお見受けします。お任せを、手前は妾宅向きの家も扱っております…
それと、ご利用は逗留中だけですよね? ならばお代は無用です。アウラ亡き今、この町の地代は高騰が約束されていますからね
功労者のワイ様にその程度のサービスもできぬほど、がめつくはありません」
…と、いうわけで。リーニエちゃんとの愛の巣は、しっかり準備しとったというわけや
正直、「女遊びならひっかけた娘より、高級娼館の方が楽しめますよ?」という彼の申し出を断るのは、一苦労やったが
87
屋内の灯りを点けて周ると、手筈どおり屋内はすっかり掃除が終わっておる。通いのメイドと料理人が、今宵の準備を整えてくれていたんや
蜜蝋キャンドルの燭台に照らされた食卓には、あらかじめ銀メッキのクローシュをかぶせられたご馳走と、クーラーバケツで冷やされた名品のワイン…
また浴室からも、うっすら湯気が漂ってくる。まさに準備万端。ワイはリーニエちゃんに浴室で、湯あみと着替えをするよう促した
本音では一緒に入って洗ってあげたかったんやが、距離を詰めるのを急ぐこともあるまい。楽しみをとっておかんのは無粋ちゅうもんやろ
屋内の灯りを点けて周ると、手筈どおり屋内はすっかり掃除が終わっておる。通いのメイドと料理人が、今宵の準備を整えてくれていたんや
蜜蝋キャンドルの燭台に照らされた食卓には、あらかじめ銀メッキのクローシュをかぶせられたご馳走と、クーラーバケツで冷やされた名品のワイン…
また浴室からも、うっすら湯気が漂ってくる。まさに準備万端。ワイはリーニエちゃんに浴室で、湯あみと着替えをするよう促した
本音では一緒に入って洗ってあげたかったんやが、距離を詰めるのを急ぐこともあるまい。楽しみをとっておかんのは無粋ちゅうもんやろ
88
小一時間も待ったろうか。木綿の白いバスローブをまとう湯上りの彼女は肌をいくぶん桃色に染め、心なしかドギマギしているようやった
「ちょっと冷めとるかもしれんが、リーニエちゃんのために用意しておいた夕餉やで。遠慮なくいただいてくれや」
ワイはそう言ってクローシュを開け、据え置かれた鍋の中身を深皿によそう。肉料理はむろんのこと、内陸では高価な魚まである。凝ったシチューやパイやお菓子も姿を現す
だけどリーニエちゃんは迷うことなく、フルーツが盛られた鉢に手を伸ばして林檎だけをシャクシャク食べ始める。他の料理は眼中にないらしい
「遠慮はいらんのやで、お肉とかお魚も美味しいで」
小一時間も待ったろうか。木綿の白いバスローブをまとう湯上りの彼女は肌をいくぶん桃色に染め、心なしかドギマギしているようやった
「ちょっと冷めとるかもしれんが、リーニエちゃんのために用意しておいた夕餉やで。遠慮なくいただいてくれや」
ワイはそう言ってクローシュを開け、据え置かれた鍋の中身を深皿によそう。肉料理はむろんのこと、内陸では高価な魚まである。凝ったシチューやパイやお菓子も姿を現す
だけどリーニエちゃんは迷うことなく、フルーツが盛られた鉢に手を伸ばして林檎だけをシャクシャク食べ始める。他の料理は眼中にないらしい
「遠慮はいらんのやで、お肉とかお魚も美味しいで」
89
だがリーニエちゃんは素っ気なく、首を振る。「人間の食べ物はいらない。林檎だけあれば、いい。栄養の不足分は人食いで補うし」
ワイは大慌てで叫んでいた。「それあかん!」
「なぜ? 私、ワイ様は食べないよ」と、不思議そうに小首をかしげるリーニエちゃん。困ったことにとても無邪気で、やっぱり可愛い
「食べるのは、他の人たちだけ…たとえばワイ様のそばに居るフェルンとかいうでぶは、敵だし肉づきも良いから食べるけど」
だがリーニエちゃんは素っ気なく、首を振る。「人間の食べ物はいらない。林檎だけあれば、いい。栄養の不足分は人食いで補うし」
ワイは大慌てで叫んでいた。「それあかん!」
「なぜ? 私、ワイ様は食べないよ」と、不思議そうに小首をかしげるリーニエちゃん。困ったことにとても無邪気で、やっぱり可愛い
「食べるのは、他の人たちだけ…たとえばワイ様のそばに居るフェルンとかいうでぶは、敵だし肉づきも良いから食べるけど」
90
おいおい、フェルンを食材にすんのはやめてくれ
自分の嫁に戦友を食われた(それも性欲的にではなく食欲的な意味で)戦士なんて、聞いたことないわ
「…ダメや、ワイの命令や。人間の食事に慣れて、人食いは金輪際やめるんや!」
「…」
「リーニエちゃんを魔族から真人間にしなければ、ワイらの幸福な新婚生活はありえんのや!」
ややあってリーニエちゃん、ぽつりとつぶやく
「ワイ様がそういうなら、私はそうする…」
おいおい、フェルンを食材にすんのはやめてくれ
自分の嫁に戦友を食われた(それも性欲的にではなく食欲的な意味で)戦士なんて、聞いたことないわ
「…ダメや、ワイの命令や。人間の食事に慣れて、人食いは金輪際やめるんや!」
「…」
「リーニエちゃんを魔族から真人間にしなければ、ワイらの幸福な新婚生活はありえんのや!」
ややあってリーニエちゃん、ぽつりとつぶやく
「ワイ様がそういうなら、私はそうする…」
91
そんなわけでその夜はリーニエちゃんに人間の食事の作法の指南をしたあと、下着をあたえて寝室で一人で休ませた
しょうじき今夜じゅうにでも想いを遂げたいという欲求も否めんかったが、彼女はさっき拘束を解かれたばかりや
獲物の魔族でなく人間の女として扱う以上、休ませ落ち着かせる配慮も必要やな
なによりこの時点では心配事が多すぎてワイ自身、その気になりにくかったのもある
そんなわけでその夜はリーニエちゃんに人間の食事の作法の指南をしたあと、下着をあたえて寝室で一人で休ませた
しょうじき今夜じゅうにでも想いを遂げたいという欲求も否めんかったが、彼女はさっき拘束を解かれたばかりや
獲物の魔族でなく人間の女として扱う以上、休ませ落ち着かせる配慮も必要やな
なによりこの時点では心配事が多すぎてワイ自身、その気になりにくかったのもある
92
(フリーレンたちに見つかったら最後、リーニエちゃんは確実に殺される
『服従の天秤で改心させた』なんて弁解が、通用する相手ではないからな
グラナト伯以下の町の住民もワイを裏切り者として処断し、下手すれば本当に斬首するやろう…)
少なくとも当面かつ伯爵領内では、隠蔽一択やとワイは決めた。無論いつまでも隠し通せるとも思わんかったが、時・場所・場合が悪すぎる
歓待は滞在中ずっと続きそうな勢いやけど、次の旅立ちへの準備もある。伯爵領への逗留は、長くともあと二日かそこらといったところか…
その間に魔族殺し請負行脚のフリーレン一行と縁を切り、違う町に愛の巣を営むのや
(フリーレンたちに見つかったら最後、リーニエちゃんは確実に殺される
『服従の天秤で改心させた』なんて弁解が、通用する相手ではないからな
グラナト伯以下の町の住民もワイを裏切り者として処断し、下手すれば本当に斬首するやろう…)
少なくとも当面かつ伯爵領内では、隠蔽一択やとワイは決めた。無論いつまでも隠し通せるとも思わんかったが、時・場所・場合が悪すぎる
歓待は滞在中ずっと続きそうな勢いやけど、次の旅立ちへの準備もある。伯爵領への逗留は、長くともあと二日かそこらといったところか…
その間に魔族殺し請負行脚のフリーレン一行と縁を切り、違う町に愛の巣を営むのや
93
翌朝、日の出る前にリーニエちゃんを起こしたワイは、彼女の頭にとんがり型のナイトキャップをかぶせつつ申し渡す
「もうじき清掃と朝食準備のために、通いのメイドが来るころや。家の中に使用人がいるときは寝室にこもり、必ずナイトキャップで角を隠すんや」
「戦士ワイが、ひそかに女を囲っている隠れ家である」という話はあらかじめ、雇人たちにも口止めしつつ教えてある。
重ねて、リーニエちゃんが寝室にいるときは「ぜったい覗くな」という条件も、伝えてある
リーニエちゃんが目撃されないかぎり、下世話な噂以上の疑惑にはなるまい
翌朝、日の出る前にリーニエちゃんを起こしたワイは、彼女の頭にとんがり型のナイトキャップをかぶせつつ申し渡す
「もうじき清掃と朝食準備のために、通いのメイドが来るころや。家の中に使用人がいるときは寝室にこもり、必ずナイトキャップで角を隠すんや」
「戦士ワイが、ひそかに女を囲っている隠れ家である」という話はあらかじめ、雇人たちにも口止めしつつ教えてある。
重ねて、リーニエちゃんが寝室にいるときは「ぜったい覗くな」という条件も、伝えてある
リーニエちゃんが目撃されないかぎり、下世話な噂以上の疑惑にはなるまい
94
いずれにせよ。なまじ使節の一員として白昼の大通りに顔をさらしたリーニちゃんの面相はグラナト伯以下、多くの住民に割れている
うかつに顔を見られることは、厳に慎まねばならんかった。ワイはリーニエちゃんに念を押す
「あと、外出も原則禁止や。不測の事態で家を出る必要に迫られたときは必ずフード付き外套を着け、人が集まる場所を避けること」
そう言い含めてから、隠れ家を出るワイ。首尾よくフリーレンたちが起きだす前に、朝食の席に座っていた
いずれにせよ。なまじ使節の一員として白昼の大通りに顔をさらしたリーニちゃんの面相はグラナト伯以下、多くの住民に割れている
うかつに顔を見られることは、厳に慎まねばならんかった。ワイはリーニエちゃんに念を押す
「あと、外出も原則禁止や。不測の事態で家を出る必要に迫られたときは必ずフード付き外套を着け、人が集まる場所を避けること」
そう言い含めてから、隠れ家を出るワイ。首尾よくフリーレンたちが起きだす前に、朝食の席に座っていた
95
その日も宴会に交流会に子供たちとのお遊戯会と、ワイは全力で町の人たちとの親睦を深めた
もともと人との関わりは苦にならん性質ということもあるが、カムフラージュという発想もあったのは否めん
とはいえ。貸家と使用人を手配してくれた不動産屋が、お世辞にも上品とは言いかねる笑顔で詮索してくるのには、閉口したがな
「ワイ様、ゆうべは私が用意した家と料理で、ご満足いただけましたでしょうか?」
「おおきに、とても快適な思いが出来たわ」
幸い、人気のない場所での会話だったとはいえ。ワイは内心、ぼろを出しやせんかと冷や冷やしていた
その日も宴会に交流会に子供たちとのお遊戯会と、ワイは全力で町の人たちとの親睦を深めた
もともと人との関わりは苦にならん性質ということもあるが、カムフラージュという発想もあったのは否めん
とはいえ。貸家と使用人を手配してくれた不動産屋が、お世辞にも上品とは言いかねる笑顔で詮索してくるのには、閉口したがな
「ワイ様、ゆうべは私が用意した家と料理で、ご満足いただけましたでしょうか?」
「おおきに、とても快適な思いが出来たわ」
幸い、人気のない場所での会話だったとはいえ。ワイは内心、ぼろを出しやせんかと冷や冷やしていた
96
「お楽しみいただけたようで、なによりです」。そういう不動産屋の口元は、だらしなく下卑ていた。すっかりワイの口上を信じているようだ
「それにしてもワイ様のお連れであるフェルン様、雰囲気からしててっきり、ワイ様の奥様か恋人のように見えていたのですが…?」と、不動産屋
「いんや、あくまでも旅路の相棒や。その限りにおいて運命共同体…身内ではあるけどナ」
「しかしそれなら臨時の愛人宅など露見しても、支障など無いのでは? 余りにも秘密主義すぎて、かえって相棒らしからぬというか…」
「恋愛関係でなくとも身内の女には、へその下の事情を気取られんよう努めるのが戦士のたしなみや。異性の相棒は、何かと気遣いすることも多くてな」
「お楽しみいただけたようで、なによりです」。そういう不動産屋の口元は、だらしなく下卑ていた。すっかりワイの口上を信じているようだ
「それにしてもワイ様のお連れであるフェルン様、雰囲気からしててっきり、ワイ様の奥様か恋人のように見えていたのですが…?」と、不動産屋
「いんや、あくまでも旅路の相棒や。その限りにおいて運命共同体…身内ではあるけどナ」
「しかしそれなら臨時の愛人宅など露見しても、支障など無いのでは? 余りにも秘密主義すぎて、かえって相棒らしからぬというか…」
「恋愛関係でなくとも身内の女には、へその下の事情を気取られんよう努めるのが戦士のたしなみや。異性の相棒は、何かと気遣いすることも多くてな」
97
幸いこの弁解に、不動産屋は納得したらしい。頷きつつ、話題を変える
「ところで、実は手前が属する商会にもグラナト伯爵からの依頼があり、こたびの戦闘で破壊された城壁や郊外森林の調査・復旧を担うことになりました」
「そいつは何よりや。公共事業は、役所というとりっぱぐれの無い太客が相手。いい稼ぎになるな」
ところが不動産屋の表情は、なぜか微妙なんや
「あいにく、グラナト伯は財政の健全性にうるさいお方。いつも『戦災復旧は必要最小限に』とのお達しなので、言うほど美味しい案件ではありません」
「さよか…ははは、世知辛いな」
「伯が私情を殺してアウラとの講和に傾いたのも、長引く戦役が民生を圧迫する事態を憂えたからです。ですが、今後の展望は別物」
幸いこの弁解に、不動産屋は納得したらしい。頷きつつ、話題を変える
「ところで、実は手前が属する商会にもグラナト伯爵からの依頼があり、こたびの戦闘で破壊された城壁や郊外森林の調査・復旧を担うことになりました」
「そいつは何よりや。公共事業は、役所というとりっぱぐれの無い太客が相手。いい稼ぎになるな」
ところが不動産屋の表情は、なぜか微妙なんや
「あいにく、グラナト伯は財政の健全性にうるさいお方。いつも『戦災復旧は必要最小限に』とのお達しなので、言うほど美味しい案件ではありません」
「さよか…ははは、世知辛いな」
「伯が私情を殺してアウラとの講和に傾いたのも、長引く戦役が民生を圧迫する事態を憂えたからです。ですが、今後の展望は別物」
98
不動産屋の目が、ふいに輝く
「アウラと言う外患が取り除かれたことで、交易拠点としての伯爵領の価値は飛躍しました。今後は城壁の外、防護結界の外まで町の規模が拡大するでしょう」
「ほう…」
「アウラが消えたことも相俟っていまや防護結界そのものが町の拡充に、無用の長物となっているのです
現に伯爵は『一両日中にも、防護結界の運用を停止する』と、通達しています。閣下も未来を見据えているのでしょうな」
これは願っても無い朗報。ワイは危うく、歓喜の叫びをあげるところやった
(これでリーニエちゃんも、結界の妨げを受けずに町から抜け出せる!)
不動産屋の目が、ふいに輝く
「アウラと言う外患が取り除かれたことで、交易拠点としての伯爵領の価値は飛躍しました。今後は城壁の外、防護結界の外まで町の規模が拡大するでしょう」
「ほう…」
「アウラが消えたことも相俟っていまや防護結界そのものが町の拡充に、無用の長物となっているのです
現に伯爵は『一両日中にも、防護結界の運用を停止する』と、通達しています。閣下も未来を見据えているのでしょうな」
これは願っても無い朗報。ワイは危うく、歓喜の叫びをあげるところやった
(これでリーニエちゃんも、結界の妨げを受けずに町から抜け出せる!)
99
そんなワイの思惑も知らず、不動産屋は話を続ける。いつの間にか肥満したその顔から笑みは消え、真顔になっている
「今は我が商会も“町の一員”として、格安の復旧工事を請け負っていますが…これはある意味、信用づくりの貸しでもある
代わりに来るべき新市街のインフラ工事は、商会に一任されるでしょう
北部諸国からも出資者が募れるので、新市街建設は規模も大きければ息も長い一大計画になるはず」
「ちょい待ち、なぜそんな立ち入った話をワイにするんや? ワイはつまるところ、行きずりの来訪者。風来坊の冒険者やぞ」
さすがにワイは、かれの話を遮った。戦士の勘やな。なんか話の雲行きを怪しく感じたんや
そんなワイの思惑も知らず、不動産屋は話を続ける。いつの間にか肥満したその顔から笑みは消え、真顔になっている
「今は我が商会も“町の一員”として、格安の復旧工事を請け負っていますが…これはある意味、信用づくりの貸しでもある
代わりに来るべき新市街のインフラ工事は、商会に一任されるでしょう
北部諸国からも出資者が募れるので、新市街建設は規模も大きければ息も長い一大計画になるはず」
「ちょい待ち、なぜそんな立ち入った話をワイにするんや? ワイはつまるところ、行きずりの来訪者。風来坊の冒険者やぞ」
さすがにワイは、かれの話を遮った。戦士の勘やな。なんか話の雲行きを怪しく感じたんや
100
「ははは、確かに回りくどくなってしまったようですな。だが、ここまでくれば腹を割ってお話したい。ワイ様にとっても、悪い話ではないと存じますよ」
不動産屋は口元だけニヤリとして見せたが、目は真面目なままや。如何にも切れ者の商売人の風情やが、悪意は無さそうでもある
「実は今朝、作業員とともにワイ様の閃天撃が放たれた跡地を望見したのですが…地面に穿たれた穴、耕された地面、倒された大樹…
おなじ破壊をなみの人力で再現したら、人足百人で十日はかかる。すなわち一流の戦士は、平時の土木にこそ有用である。私はそう確信したのです」
商談のたぐいに疎いワイにも、ようやく話が見えてきた
「つまりワイにフリーレンのパーティ抜けて、町の一員として働かんかという勧誘やな? 排水路の溝を堀ったり、不要な城壁を崩したりといった現場作業員として」
「ははは、確かに回りくどくなってしまったようですな。だが、ここまでくれば腹を割ってお話したい。ワイ様にとっても、悪い話ではないと存じますよ」
不動産屋は口元だけニヤリとして見せたが、目は真面目なままや。如何にも切れ者の商売人の風情やが、悪意は無さそうでもある
「実は今朝、作業員とともにワイ様の閃天撃が放たれた跡地を望見したのですが…地面に穿たれた穴、耕された地面、倒された大樹…
おなじ破壊をなみの人力で再現したら、人足百人で十日はかかる。すなわち一流の戦士は、平時の土木にこそ有用である。私はそう確信したのです」
商談のたぐいに疎いワイにも、ようやく話が見えてきた
「つまりワイにフリーレンのパーティ抜けて、町の一員として働かんかという勧誘やな? 排水路の溝を堀ったり、不要な城壁を崩したりといった現場作業員として」
101
「然り。もちろんただの作業員ではない、特殊技能もちの職工待遇です。給与も、ワイ様のご満足いただける額を用意しましょう」
ふーむ…ワイは思わず考え込んだ。不動産屋の勧誘自体はフリーレンやフェルンとたもとを分かつにあたり、悪い口実ではないが…
ワイの反応が満更でもないことを察知した不動産屋、さっそく畳み込んでくる
「それにワイ様は、放浪よりも定住に向く方とお見受けしますが?」
ああ、まさにその通り。旅立つ前も事情があったにせよ、一つの村に三年も居たからな
「然り。もちろんただの作業員ではない、特殊技能もちの職工待遇です。給与も、ワイ様のご満足いただける額を用意しましょう」
ふーむ…ワイは思わず考え込んだ。不動産屋の勧誘自体はフリーレンやフェルンとたもとを分かつにあたり、悪い口実ではないが…
ワイの反応が満更でもないことを察知した不動産屋、さっそく畳み込んでくる
「それにワイ様は、放浪よりも定住に向く方とお見受けしますが?」
ああ、まさにその通り。旅立つ前も事情があったにせよ、一つの村に三年も居たからな
102
不動産屋には「考えておく」と言い残し、ひとまずワイはフリーレンやフェルンと合流した。全く、体がいくつあっても足りない
さいわいフリーレンは古書漁りに熱中しており、フェルンもご馳走や町の好意で外套を仕立て直してもらえることに夢中で、ワイの別行動を不審がる気配もない
「ワイの武勇伝を聞き親睦を深めたいという有志の会合があるんで、今夜からしばらく、宿に戻らんわ。よろしゅうに」
思い切ってそう切り出しても、二人とも心ここに無い様子で好きにしろと言わんばかりだった。正直ワイの方が拍子抜けしたほどや
不動産屋には「考えておく」と言い残し、ひとまずワイはフリーレンやフェルンと合流した。全く、体がいくつあっても足りない
さいわいフリーレンは古書漁りに熱中しており、フェルンもご馳走や町の好意で外套を仕立て直してもらえることに夢中で、ワイの別行動を不審がる気配もない
「ワイの武勇伝を聞き親睦を深めたいという有志の会合があるんで、今夜からしばらく、宿に戻らんわ。よろしゅうに」
思い切ってそう切り出しても、二人とも心ここに無い様子で好きにしろと言わんばかりだった。正直ワイの方が拍子抜けしたほどや
118創る名無しに見る名無し
2024/05/28(火) 23:36:30.70ID:bddgE+tM 5回目はここまでです。続きもハプニングが無ければ、明日22〜24時くらいに投稿します
103
その夜―――
「さあ、リーニエちゃん。服を脱いでこっちに来るんや」
「はい、ワイ様」
寝台の中で、彼女の玉のような滑らかな肌を撫でつつ、熱く接吻したワイは―――まあここから先は、多く語らんでええやろ
正直、まずは「ものにする」ことに性急で、自分でも何をどうしたか正確には覚えとらん。とにかく遮二無二、押し入って果てただけの一方的な情交だったのは確かや
とはいえ初回は、何よりお互いの関係を確かめて固める“契り”の儀式に外ならず、快楽の有無は二の次だったんで気にもならんかった。少なくとも、この時点では…
ひとまず、彼女は無反応やった。自分が服従魔法で昨日の敵に抱かれていることに、まだ葛藤があるに違いなかった
ただし不思議とワイへの嫌悪や屈辱、恐怖といった感情は読み取れんかった。ただ困惑と諦め、そして意外やが、好奇心を抱いとるようでもあった
なによりワイは、このとき極めて大事なことに気が付いていたんや
その夜―――
「さあ、リーニエちゃん。服を脱いでこっちに来るんや」
「はい、ワイ様」
寝台の中で、彼女の玉のような滑らかな肌を撫でつつ、熱く接吻したワイは―――まあここから先は、多く語らんでええやろ
正直、まずは「ものにする」ことに性急で、自分でも何をどうしたか正確には覚えとらん。とにかく遮二無二、押し入って果てただけの一方的な情交だったのは確かや
とはいえ初回は、何よりお互いの関係を確かめて固める“契り”の儀式に外ならず、快楽の有無は二の次だったんで気にもならんかった。少なくとも、この時点では…
ひとまず、彼女は無反応やった。自分が服従魔法で昨日の敵に抱かれていることに、まだ葛藤があるに違いなかった
ただし不思議とワイへの嫌悪や屈辱、恐怖といった感情は読み取れんかった。ただ困惑と諦め、そして意外やが、好奇心を抱いとるようでもあった
なによりワイは、このとき極めて大事なことに気が付いていたんや
104
「リーニエ…きみ、処女だったんか」
思わず、つぶやくように尋ねてしもうた。“見た目”的には不思議なことでは、なかったが。推定百歳以上という年齢で未経験なんは、魔族基準でどうなんやろな
ともあれ―――感激まじりでつい、疑問まじりの本音が口に出ていたんや
「ワイはてっきり、リュグナーが君の彼氏だとばかり思うとったんやが」
口にしてから(アカン、よりによって初夜になんちゅうデリカシーのないことを…)と心中で自分を叱責したが、幸い彼女の表情に変化はない
「リュグナー様は80年前の戦いで、フリーレンの攻撃をしのいだ。優れた魔力を持つ、有能な上官。それ以上でも以下でもない」と、リーニエちゃんは素気なく答えるのだ
「リーニエ…きみ、処女だったんか」
思わず、つぶやくように尋ねてしもうた。“見た目”的には不思議なことでは、なかったが。推定百歳以上という年齢で未経験なんは、魔族基準でどうなんやろな
ともあれ―――感激まじりでつい、疑問まじりの本音が口に出ていたんや
「ワイはてっきり、リュグナーが君の彼氏だとばかり思うとったんやが」
口にしてから(アカン、よりによって初夜になんちゅうデリカシーのないことを…)と心中で自分を叱責したが、幸い彼女の表情に変化はない
「リュグナー様は80年前の戦いで、フリーレンの攻撃をしのいだ。優れた魔力を持つ、有能な上官。それ以上でも以下でもない」と、リーニエちゃんは素気なく答えるのだ
105
(今でも様付け呼びか…)と、そこは少しひっかかりつつも、こみ上げてくる嬉しさもあった。嬉しさのままに、ワイはつい念を押していた
「なるほどな…じゃあ愚問やろけどフリーレンが真っ先に倒したドラートとかいう若い奴とも、なんも無かったんやな」
「まさに愚問。ドラートはただの、馬鹿な後輩。それだけ。手柄を焦って、私とリュグナー様を出し抜こうとしたあげくぜんぶ台無しにした」と、何気に苛立たしそうなリーニエちゃん
(せやけどドラートの方では、リーニエちゃんに気があったかも知れへんな?)と、ワイは邪推する。彼女に良いとこ見せたくて突っ走ったとか? ま、確かめようもないことやが…
「ともあれワイは、ドラートに感謝すべきかもな…君と出会えたのは彼の失策が、発端みたいなもんやし」
そういってワイは、リーニちゃんの柔らかい唇を奪う。心なしかリーニちゃんの目が、潤んで見えた
彼氏いない歴100年超。ひたすらアウラの首切り役人として、魔法鍛錬と現場仕事に汗水垂らしてきただけとは…
親無しの宿命とはいえ。リーニエちゃんほどの美少女が殺伐とした苦労人ライフを送ってきたことにワイは心の中で涙し、彼女を幸せにするのはワイやという決意を新たにした
(今でも様付け呼びか…)と、そこは少しひっかかりつつも、こみ上げてくる嬉しさもあった。嬉しさのままに、ワイはつい念を押していた
「なるほどな…じゃあ愚問やろけどフリーレンが真っ先に倒したドラートとかいう若い奴とも、なんも無かったんやな」
「まさに愚問。ドラートはただの、馬鹿な後輩。それだけ。手柄を焦って、私とリュグナー様を出し抜こうとしたあげくぜんぶ台無しにした」と、何気に苛立たしそうなリーニエちゃん
(せやけどドラートの方では、リーニエちゃんに気があったかも知れへんな?)と、ワイは邪推する。彼女に良いとこ見せたくて突っ走ったとか? ま、確かめようもないことやが…
「ともあれワイは、ドラートに感謝すべきかもな…君と出会えたのは彼の失策が、発端みたいなもんやし」
そういってワイは、リーニちゃんの柔らかい唇を奪う。心なしかリーニちゃんの目が、潤んで見えた
彼氏いない歴100年超。ひたすらアウラの首切り役人として、魔法鍛錬と現場仕事に汗水垂らしてきただけとは…
親無しの宿命とはいえ。リーニエちゃんほどの美少女が殺伐とした苦労人ライフを送ってきたことにワイは心の中で涙し、彼女を幸せにするのはワイやという決意を新たにした
106
翌朝は、二人で朝食をとった。例によって林檎大好きなリーニエちゃんだったが、ワイが熱心に勧めたおかげで揚げたポテトと蜂蜜ヨーグルトも少し食べた
「フリーレンたちの出立予定は、明後日の朝や」と、ワイ。「今日はパーティの三人そろっての、買い出しが主な用事になるんでな。ワイも荷物運びで忙しい」
「では、ワイ様も明後日には町を出るのですね」
リーニエちゃん、あいかわらずの無表情でつぶやく。「私を置いて…」
「いいや、そうはならん。ワイが君を捨てることは無い!」
ワイはきっぱりとそう誓った。「フリーレンとは話付けるわ。ワイ、リーニエちゃんとここに残る」
翌朝は、二人で朝食をとった。例によって林檎大好きなリーニエちゃんだったが、ワイが熱心に勧めたおかげで揚げたポテトと蜂蜜ヨーグルトも少し食べた
「フリーレンたちの出立予定は、明後日の朝や」と、ワイ。「今日はパーティの三人そろっての、買い出しが主な用事になるんでな。ワイも荷物運びで忙しい」
「では、ワイ様も明後日には町を出るのですね」
リーニエちゃん、あいかわらずの無表情でつぶやく。「私を置いて…」
「いいや、そうはならん。ワイが君を捨てることは無い!」
ワイはきっぱりとそう誓った。「フリーレンとは話付けるわ。ワイ、リーニエちゃんとここに残る」
107
そんでもって、その日の夕方―――
「…と、いうわけや。フリーレン、フェルン。済まんが明後日、あんたらが町を出る朝がワイとのお別れや。その先は二人で旅してくれ」
ワイが清水の舞台から飛び降りる想いでそう切り出したのは、買い出しを終えて宿に戻った直後のことやった
「何が『というわけ』ですか。一緒に北に向かうのではなかったのですか?」
フェルンがいつものように、ゴミを見る目をしながらワイをなじる。これは想定範囲や。
フリーレンはいつもクールな婆さんやが、今回もいっそ雪に埋もれた白ウサギでも見ているかのように、ワイに無関心やった
「つまりは町の新興財閥からヘッドハンティングされたと、そういうわけか。まあワイの意志がそれなら、私に止める強制力はない。好きにしていいさ」
「おおきに。恩に着るで」と、にやけるのを必死で抑えながら頭を下げるワイ。もちろんその夜も、町の人の招きで別宿になると告げるのを忘れんかった
そんでもって、その日の夕方―――
「…と、いうわけや。フリーレン、フェルン。済まんが明後日、あんたらが町を出る朝がワイとのお別れや。その先は二人で旅してくれ」
ワイが清水の舞台から飛び降りる想いでそう切り出したのは、買い出しを終えて宿に戻った直後のことやった
「何が『というわけ』ですか。一緒に北に向かうのではなかったのですか?」
フェルンがいつものように、ゴミを見る目をしながらワイをなじる。これは想定範囲や。
フリーレンはいつもクールな婆さんやが、今回もいっそ雪に埋もれた白ウサギでも見ているかのように、ワイに無関心やった
「つまりは町の新興財閥からヘッドハンティングされたと、そういうわけか。まあワイの意志がそれなら、私に止める強制力はない。好きにしていいさ」
「おおきに。恩に着るで」と、にやけるのを必死で抑えながら頭を下げるワイ。もちろんその夜も、町の人の招きで別宿になると告げるのを忘れんかった
108
そんなわけでその日の晩、ワイははじめて心から安心して、リーニエちゃんとの夜のお楽しみに集中することが出来た…できたのやが
リーニエちゃんはいまだにぎこちなかった。昨日の初夜では愛しい彼女をついに抱けたという事実に夢中になるあまり、気にも留めず勝手にイキまくっていたのやが…
(ん…あ、あれ? こいつはちょっと、まずいで)
慣れてみればベッドの上での彼女は、いかにも反応が鈍い。いつもどおりの無表情で、喘ぎ声の一つも出さない
さりとて処女特有の恥じらいとか不安ゆえの忍耐といった感覚も、まったくない。それがあれば情緒も生まれるし、開発のしようもあるんやが…
もともと表情にとぼしいお人形みたいなところが、彼女の魅力ではあったにせよ。ベッドの上でもそれでは困るんや!
(ワイへの嫌悪からくる拒絶反応ではなさそうなのだけが、救いやが…まずい。この娘、マグロやんけ! それも生物学的な意味で)
そんなわけでその日の晩、ワイははじめて心から安心して、リーニエちゃんとの夜のお楽しみに集中することが出来た…できたのやが
リーニエちゃんはいまだにぎこちなかった。昨日の初夜では愛しい彼女をついに抱けたという事実に夢中になるあまり、気にも留めず勝手にイキまくっていたのやが…
(ん…あ、あれ? こいつはちょっと、まずいで)
慣れてみればベッドの上での彼女は、いかにも反応が鈍い。いつもどおりの無表情で、喘ぎ声の一つも出さない
さりとて処女特有の恥じらいとか不安ゆえの忍耐といった感覚も、まったくない。それがあれば情緒も生まれるし、開発のしようもあるんやが…
もともと表情にとぼしいお人形みたいなところが、彼女の魅力ではあったにせよ。ベッドの上でもそれでは困るんや!
(ワイへの嫌悪からくる拒絶反応ではなさそうなのだけが、救いやが…まずい。この娘、マグロやんけ! それも生物学的な意味で)
109
いっておくがワイが下手なせいではない…ワイかて「戦士はハニトラにも、耐性を持たねばならぬ」という師匠の方針で風俗経験くらいあるし、一時通い詰めた嬢からはワイの指使いや舌技を褒められたこともある
それが魔族娘のリーニエちゃんには、まるっきり通用せんのや。もうちょい感度があってワイの愛撫に反応してくれたらと、思わずにいられんかった
敢えて言えば、彼女にとって人間との性交はどこまでいっても、犬猫との交わりという感じなんや。ほんっと、開発の余地そのものを感じない
おかげでワイのジュニアは、どんどん(´・ω・`)ショボーンな状態に…
いっておくがワイが下手なせいではない…ワイかて「戦士はハニトラにも、耐性を持たねばならぬ」という師匠の方針で風俗経験くらいあるし、一時通い詰めた嬢からはワイの指使いや舌技を褒められたこともある
それが魔族娘のリーニエちゃんには、まるっきり通用せんのや。もうちょい感度があってワイの愛撫に反応してくれたらと、思わずにいられんかった
敢えて言えば、彼女にとって人間との性交はどこまでいっても、犬猫との交わりという感じなんや。ほんっと、開発の余地そのものを感じない
おかげでワイのジュニアは、どんどん(´・ω・`)ショボーンな状態に…
110
だが、すでにリーニエちゃんは奉仕精神も会得していたようや。ワイが奮い立とうと悪戦苦闘しているのに、さっそく気づいていた
そして「私も初めてですが…」と前置きしつつ攻守を変えて手でしごいたり、しゃぶったり、乳に挟んでくれたりしたんや
ほんらい感激興奮ものの場面ながら、未経験の哀しさゆえか技巧が無いし、何よりいかにも情緒の欠けた作業という風情で快感が無い
なまじ人外の筋力があるせいか、力の加減が強すぎて痛いだけや。彼女を傷つけたくなくて、苦情は言えんかったが…
それでも頑張って奮起し、なんとか彼女の中で果てることは果てた―――だがリーニエちゃんが寝入ったあと。ワイが大外れのマグロ娘の横で、ため息をついていたことは否めない
だが、すでにリーニエちゃんは奉仕精神も会得していたようや。ワイが奮い立とうと悪戦苦闘しているのに、さっそく気づいていた
そして「私も初めてですが…」と前置きしつつ攻守を変えて手でしごいたり、しゃぶったり、乳に挟んでくれたりしたんや
ほんらい感激興奮ものの場面ながら、未経験の哀しさゆえか技巧が無いし、何よりいかにも情緒の欠けた作業という風情で快感が無い
なまじ人外の筋力があるせいか、力の加減が強すぎて痛いだけや。彼女を傷つけたくなくて、苦情は言えんかったが…
それでも頑張って奮起し、なんとか彼女の中で果てることは果てた―――だがリーニエちゃんが寝入ったあと。ワイが大外れのマグロ娘の横で、ため息をついていたことは否めない
111
「いつまで眠っているんだい、ワイ」
翌朝、完璧に寝過ごしていたワイはリーニエちゃん以外の女の声で、目覚めるはめになった
目を開けてみると、果たして見慣れた顔ふたつがワイをのぞき込んでいる…フリーレンとフェルンや
「あ…」
思わず固まるワイ。アカン、どう見ても二人の表情はいつもとは異なっとる!
「昨夜はお楽しみだったようですね、ワイ様…」
そういうフェルンの顔にはいつもの、冷淡ながらも身内に対するツンデレ的ななれ合い臭さが無い
「いつまで眠っているんだい、ワイ」
翌朝、完璧に寝過ごしていたワイはリーニエちゃん以外の女の声で、目覚めるはめになった
目を開けてみると、果たして見慣れた顔ふたつがワイをのぞき込んでいる…フリーレンとフェルンや
「あ…」
思わず固まるワイ。アカン、どう見ても二人の表情はいつもとは異なっとる!
「昨夜はお楽しみだったようですね、ワイ様…」
そういうフェルンの顔にはいつもの、冷淡ながらも身内に対するツンデレ的ななれ合い臭さが無い
112
信じがたいことだが、冷め切った殺意すらを感じる。ところがワイは悲鳴を上げる代わりに、半泣きでとんでもない失言を口走ってしまっていたんや
「いやいや。残念ながら種族の違いってのは想定以上に、厳しいみたいでナ。あっちの方は、さっぱりガッカリなんや。しょうじき今は、途方に暮れとる―――」
想定外の奇襲に、うろたえたせいとはいえ。咄嗟に卑屈な愛想笑いを浮かべて、馬鹿正直に答えてしもうたワイ…
「語るに落ちたわね。やっぱり、抱いたんだ…」。フェルンの眼光が、いっそう不吉に輝く
かてて加えて。背後からリーニエちゃんの「え…?」というちょっと不穏な声が響いてきたときは、自分を殴りたかった。彼女もとっくに目を覚ましてワイの本音を、バッチリ聞いておったんや!
信じがたいことだが、冷め切った殺意すらを感じる。ところがワイは悲鳴を上げる代わりに、半泣きでとんでもない失言を口走ってしまっていたんや
「いやいや。残念ながら種族の違いってのは想定以上に、厳しいみたいでナ。あっちの方は、さっぱりガッカリなんや。しょうじき今は、途方に暮れとる―――」
想定外の奇襲に、うろたえたせいとはいえ。咄嗟に卑屈な愛想笑いを浮かべて、馬鹿正直に答えてしもうたワイ…
「語るに落ちたわね。やっぱり、抱いたんだ…」。フェルンの眼光が、いっそう不吉に輝く
かてて加えて。背後からリーニエちゃんの「え…?」というちょっと不穏な声が響いてきたときは、自分を殴りたかった。彼女もとっくに目を覚ましてワイの本音を、バッチリ聞いておったんや!
113
とはいえ、失言に後悔する余裕などない。ワイはそのとき、氷の剣で心臓をぺたぺた触れられているかの如き恐怖を味わっていた
「まさかフェルンが疑っていた通りだったとは。魔族の女を殺さずに、匿っていたとはね」
フェルンの背後から、これまた静かな敵意のこもる、フリーレンの声が響く
「リーニエ、だっけ。なるほど、近くで見るとワイが惚れるのも納得の面貌だ。フェルンはワイの好みに、敏感だね。まあ私も初めから、ちょっと不審には思っていたんだけどね」
「初めから…って、いつからや?」とワイは、恐る恐る問うていた
とはいえ、失言に後悔する余裕などない。ワイはそのとき、氷の剣で心臓をぺたぺた触れられているかの如き恐怖を味わっていた
「まさかフェルンが疑っていた通りだったとは。魔族の女を殺さずに、匿っていたとはね」
フェルンの背後から、これまた静かな敵意のこもる、フリーレンの声が響く
「リーニエ、だっけ。なるほど、近くで見るとワイが惚れるのも納得の面貌だ。フェルンはワイの好みに、敏感だね。まあ私も初めから、ちょっと不審には思っていたんだけどね」
「初めから…って、いつからや?」とワイは、恐る恐る問うていた
114
「ワイが勝利の報告に、来た時からさ。あまりにもボロボロで、魔族の女との力量差を思えば苦戦しすぎている…それに微弱だが魔力の気配が、まだ町のどこかに残ってる。それも気になっていた」
ベッドの中から上半身を起こしたリーニエちゃんが、胸元をシーツで覆いつつそっとワイの背中に手を差し伸べる
愛らしくも哀れを催すしぐさや。だが彼女を見下ろすフェルンの目が…怖すぎる!
ワイは咄嗟に、パンツ一丁のままベッドから降りてフリーレンとフェルンに土下座していた
「ワイが勝利の報告に、来た時からさ。あまりにもボロボロで、魔族の女との力量差を思えば苦戦しすぎている…それに微弱だが魔力の気配が、まだ町のどこかに残ってる。それも気になっていた」
ベッドの中から上半身を起こしたリーニエちゃんが、胸元をシーツで覆いつつそっとワイの背中に手を差し伸べる
愛らしくも哀れを催すしぐさや。だが彼女を見下ろすフェルンの目が…怖すぎる!
ワイは咄嗟に、パンツ一丁のままベッドから降りてフリーレンとフェルンに土下座していた
115
「リーニエは、“服従の天秤”でワイの女にした! もう人間を害する魔族ではなく、ひっそりと平和に暮らすワイの嫁になっとるんや
黙ってたことは謝る。裏切り者と言われても仕方ない。せやけどワイに免じて見逃してくれっ」
「魔族は一匹たりとて生かしておかない、いったはずだよね?」
フリーレンの杖が青白く光りだす。あかん、ゾルトラークや。ここは時間稼ぎであれ、説得一択や!
「フリーレン…もうリーニエが危なくないのは、あんたも分かっとるんやないんか? リーニエがその気になれば、ワイの寝首をかくのは簡単だったはずやで」
「リーニエは、“服従の天秤”でワイの女にした! もう人間を害する魔族ではなく、ひっそりと平和に暮らすワイの嫁になっとるんや
黙ってたことは謝る。裏切り者と言われても仕方ない。せやけどワイに免じて見逃してくれっ」
「魔族は一匹たりとて生かしておかない、いったはずだよね?」
フリーレンの杖が青白く光りだす。あかん、ゾルトラークや。ここは時間稼ぎであれ、説得一択や!
「フリーレン…もうリーニエが危なくないのは、あんたも分かっとるんやないんか? リーニエがその気になれば、ワイの寝首をかくのは簡単だったはずやで」
116
「それでもだよ。魔族は私の故郷を滅ぼした、不倶戴天の仇でね…」
「フリーレン。ワイかて故郷を魔族に滅ぼされ、敬愛していた兄貴を殺されとるんや。あんたの苦労話で、ワイを凹ませることはできへんで!」
これにはフリーレンも、さすがに毒気を抜かれた風情になる
「…そういえばワイはリュグナー一行への対応についても、最初は私に反論していたね。『言葉があるんだ。話し合いで解決できるなら…』と」
「それでもだよ。魔族は私の故郷を滅ぼした、不倶戴天の仇でね…」
「フリーレン。ワイかて故郷を魔族に滅ぼされ、敬愛していた兄貴を殺されとるんや。あんたの苦労話で、ワイを凹ませることはできへんで!」
これにはフリーレンも、さすがに毒気を抜かれた風情になる
「…そういえばワイはリュグナー一行への対応についても、最初は私に反論していたね。『言葉があるんだ。話し合いで解決できるなら…』と」
117
「たしかに…」と、フェルンも首をかしげる
「ワイ様とフリーレン様って魔族との過去の因縁は同じなのに、ワイ様には魔族への憎しみとか復讐という動機が全然ありませんでした」
「まあ正直、そういう気持ちになるには魔族が恐ろしすぎたってのもあるんやが…」。ワイはつい自嘲の笑みを浮かべたが、言われて自分でも気がついた
フリーレンとワイの生い立ちはこんだけ似ているのに、確かに魔族への想いは対照的かも分らんわ。持って生まれた性分の違いやろか?
「たしかに…」と、フェルンも首をかしげる
「ワイ様とフリーレン様って魔族との過去の因縁は同じなのに、ワイ様には魔族への憎しみとか復讐という動機が全然ありませんでした」
「まあ正直、そういう気持ちになるには魔族が恐ろしすぎたってのもあるんやが…」。ワイはつい自嘲の笑みを浮かべたが、言われて自分でも気がついた
フリーレンとワイの生い立ちはこんだけ似ているのに、確かに魔族への想いは対照的かも分らんわ。持って生まれた性分の違いやろか?
118
「時間をくれ、フリーレン」。ワイは、あらためてフリーレンに這いつくばる
「リーニエちゃんと所帯を持つことで、生涯を添い遂げることで、証明してみせたいんや。魔族を人間の中にとりこむことは可能やと」
「可能だと思ってるの?」
「現にリーニエちゃんを見い! 彼女にはもう、戦う意思はない」
リーニエちゃん、ベッドの上に座り直しつつ、こくりとうなずく
「私は、ワイ様の妻。夫があなた方とは『戦うな』と言っているから、戦わない」
「は? 妻」
フェルンがなぜか、いきなり怖い目でリーニエちゃんをにらむ。こいつの怒りのスイッチがどこにあるのか、ワイには正直ちんぷんかんぷんや
「時間をくれ、フリーレン」。ワイは、あらためてフリーレンに這いつくばる
「リーニエちゃんと所帯を持つことで、生涯を添い遂げることで、証明してみせたいんや。魔族を人間の中にとりこむことは可能やと」
「可能だと思ってるの?」
「現にリーニエちゃんを見い! 彼女にはもう、戦う意思はない」
リーニエちゃん、ベッドの上に座り直しつつ、こくりとうなずく
「私は、ワイ様の妻。夫があなた方とは『戦うな』と言っているから、戦わない」
「は? 妻」
フェルンがなぜか、いきなり怖い目でリーニエちゃんをにらむ。こいつの怒りのスイッチがどこにあるのか、ワイには正直ちんぷんかんぷんや
119
ともあれ、窮すれば通ず。この土壇場で、ワイは推理力をフル動員させていた
「だいいち、フリーレンかて服従の天秤使ってアウラを自害させたやんか。アウラは自分の武器にすぎん天秤の裁定に、逆らえんかったんやろ?
ましてアウラの配下であるリーニエちゃんが、天秤の裁量で勝ったワイを裏切れる筈などないんや」
「え、でもその理屈おかしくないですか?」と、フェルン。「持ち主のアウラが死んだ以上、もはや天秤の機能に拘束力はないと思いますけど?」
それから剣呑な横目で、リーニエちゃんを探るように見つめた
「この魔族の女も、本当は天秤に縛られてなどいない…ただ形勢不利とみて、故意に『縛られたふり』をしているのでは…?」
ともあれ、窮すれば通ず。この土壇場で、ワイは推理力をフル動員させていた
「だいいち、フリーレンかて服従の天秤使ってアウラを自害させたやんか。アウラは自分の武器にすぎん天秤の裁定に、逆らえんかったんやろ?
ましてアウラの配下であるリーニエちゃんが、天秤の裁量で勝ったワイを裏切れる筈などないんや」
「え、でもその理屈おかしくないですか?」と、フェルン。「持ち主のアウラが死んだ以上、もはや天秤の機能に拘束力はないと思いますけど?」
それから剣呑な横目で、リーニエちゃんを探るように見つめた
「この魔族の女も、本当は天秤に縛られてなどいない…ただ形勢不利とみて、故意に『縛られたふり』をしているのでは…?」
120
「いや。そうでもなさそうだよ、フェルン」
不意に背後からフリーレンの声。フェルンとワイが振り返るのは同時やった
見れば、いつのまにか彼女の右手にはワイが部屋の隅っこに置きっ放しにしていた、服従の天秤が掲げられとったんや
「分析が終わった。この天秤、まだちゃんと機能している。つまり、ワイが言ったことに偽りはない。今のリーニエはワイの統制下にある」
「え?」。フェルンがあからさまに、疑わし気な顔になる。「で、でもワイ様が服従の天秤を手に入れた時、アウラはもう…?」
「いや。そうでもなさそうだよ、フェルン」
不意に背後からフリーレンの声。フェルンとワイが振り返るのは同時やった
見れば、いつのまにか彼女の右手にはワイが部屋の隅っこに置きっ放しにしていた、服従の天秤が掲げられとったんや
「分析が終わった。この天秤、まだちゃんと機能している。つまり、ワイが言ったことに偽りはない。今のリーニエはワイの統制下にある」
「え?」。フェルンがあからさまに、疑わし気な顔になる。「で、でもワイ様が服従の天秤を手に入れた時、アウラはもう…?」
121
「術者の死後、その魔法がどうなるかは魔法の特性によるんだ」と、フリーレン
「術者が死ねば効力を失う魔法もあるが、残り続ける魔法もある。代表的なものだと結界魔法だね
大魔法使いフランメが作り上げた結界魔法は今でも現役のものがある」
フェルンもこれには、自分の疑念を引っ込めざるを得んかった。まあ表情からして、まだまだ当惑していたが
「…つまりワイ様が服従の天秤で、リーニエを従わせているというのは本当のことだと…?」
「術者の死後、その魔法がどうなるかは魔法の特性によるんだ」と、フリーレン
「術者が死ねば効力を失う魔法もあるが、残り続ける魔法もある。代表的なものだと結界魔法だね
大魔法使いフランメが作り上げた結界魔法は今でも現役のものがある」
フェルンもこれには、自分の疑念を引っ込めざるを得んかった。まあ表情からして、まだまだ当惑していたが
「…つまりワイ様が服従の天秤で、リーニエを従わせているというのは本当のことだと…?」
139創る名無しに見る名無し
2024/05/29(水) 23:29:39.37ID:OlFWjmbf 6回目はここまでです。続きもハプニングが無ければ、明日22〜24時くらいに投稿します
122
「だから、さっきからそう言っとるやろ!」
ワイは無意識のうちに、ベッドのリーニエちゃんの肩を抱きよせながら叫んでいた
「フリーレン。ワイはあんたと違って、復讐を人生の目的に生き続けるのが疲れるたちや。魔法の力を借りてでも、魔族の可愛い子と愛の巣作れるなら作ったるわ」
「だから、さっきからそう言っとるやろ!」
ワイは無意識のうちに、ベッドのリーニエちゃんの肩を抱きよせながら叫んでいた
「フリーレン。ワイはあんたと違って、復讐を人生の目的に生き続けるのが疲れるたちや。魔法の力を借りてでも、魔族の可愛い子と愛の巣作れるなら作ったるわ」
123
室内に、しばしの沈黙が訪れた。張り詰めた空気のなか流れる時間がワイには数十分にも感じられたが実際は、一分なかったかも分らん
「…リーニエ、お前はそれでいいのか?」。ややあって、フリーレンが念を押す。ただし先ほどまでの殺気はもはやなく、ワイは勝利を確信していた
リーニエちゃんはこくりと、小さく頷いた
すると突然、フリーレンがなにやら呪文を唱え、杖から魔力の青白い光を放ち始めたのである。ワイは仰天して叫んでいた
「お、おいフリーレン…このクソばばあ、まさか?!」
室内に、しばしの沈黙が訪れた。張り詰めた空気のなか流れる時間がワイには数十分にも感じられたが実際は、一分なかったかも分らん
「…リーニエ、お前はそれでいいのか?」。ややあって、フリーレンが念を押す。ただし先ほどまでの殺気はもはやなく、ワイは勝利を確信していた
リーニエちゃんはこくりと、小さく頷いた
すると突然、フリーレンがなにやら呪文を唱え、杖から魔力の青白い光を放ち始めたのである。ワイは仰天して叫んでいた
「お、おいフリーレン…このクソばばあ、まさか?!」
124
だが次の瞬間、フリーレンはこう唱えていたんや
「認識を阻害する魔法」
淡く青い光がリーニエちゃんの体を包む…するとどうだろう、リーニエちゃんの姿が…
「…特に変わっては、いないようやが?」
「ワイと私とフェルンの目にだけは、リーニエの姿は今まで通りだ。だが他の人間がリーニエを見ても、別人にしか見えない魔法をかけた」と、フリーレン
「もちろん魔族の角も視覚的に認識されない。この町ではリーニエの面が割れているからね、こうでもしなけりゃ脱出すらできないよ」
だが次の瞬間、フリーレンはこう唱えていたんや
「認識を阻害する魔法」
淡く青い光がリーニエちゃんの体を包む…するとどうだろう、リーニエちゃんの姿が…
「…特に変わっては、いないようやが?」
「ワイと私とフェルンの目にだけは、リーニエの姿は今まで通りだ。だが他の人間がリーニエを見ても、別人にしか見えない魔法をかけた」と、フリーレン
「もちろん魔族の角も視覚的に認識されない。この町ではリーニエの面が割れているからね、こうでもしなけりゃ脱出すらできないよ」
125
「フリーレン…なぜ?」
「魔族は滅びるべきという、私の考えは変わらないよ」と、フリーレン
「でもワイとは、短い間だが旅路を共にした仲だ。これはある意味で君への、手向けだよ」
ワイは黙って、頭を下げるしかなかった。涙していたかも分らん。リーニエちゃんはといえば特に喜ぶふうもなく、さりとて不快そうでも無く、きょとんとしとった
「ところで…」と、フリーレン。「さっき誰かが私のこと、『クソばばあ』とか言ってたような?」
これにはワイも、あらためて平身低頭するしかなかったわ
「フリーレン…なぜ?」
「魔族は滅びるべきという、私の考えは変わらないよ」と、フリーレン
「でもワイとは、短い間だが旅路を共にした仲だ。これはある意味で君への、手向けだよ」
ワイは黙って、頭を下げるしかなかった。涙していたかも分らん。リーニエちゃんはといえば特に喜ぶふうもなく、さりとて不快そうでも無く、きょとんとしとった
「ところで…」と、フリーレン。「さっき誰かが私のこと、『クソばばあ』とか言ってたような?」
これにはワイも、あらためて平身低頭するしかなかったわ
126
「ならば、私からもリーニエに贈り物をしてあげるべきですね」。急に割って入ったのは、フェルンやった
正直これは、ワイには嬉しくなかった。目つきがぜんぜん優しくないんや
「ご心配いりませんよ、ワイ様。ただ明日の朝までの一日弱ほど、リーニエを借りたいだけですので。今夜はこの家に、一人で寝てくださいね」
「ならば、私からもリーニエに贈り物をしてあげるべきですね」。急に割って入ったのは、フェルンやった
正直これは、ワイには嬉しくなかった。目つきがぜんぜん優しくないんや
「ご心配いりませんよ、ワイ様。ただ明日の朝までの一日弱ほど、リーニエを借りたいだけですので。今夜はこの家に、一人で寝てくださいね」
127
「え…」ワイはいっそう不安になる。「一体何を…?」
「ご心配なく。彼女に外出用の服を買ってあげて、いっしょにご飯を食べたり隣り合うベッドで寝物語しながら、おなじ女としてワイ様の扱い方をアドバイスするだけです」と、フェルン
「心配いらないよ、ワイ。フェルンももう、リーニエに危害を加えることはないから」と、フリーレン
「え…」ワイはいっそう不安になる。「一体何を…?」
「ご心配なく。彼女に外出用の服を買ってあげて、いっしょにご飯を食べたり隣り合うベッドで寝物語しながら、おなじ女としてワイ様の扱い方をアドバイスするだけです」と、フェルン
「心配いらないよ、ワイ。フェルンももう、リーニエに危害を加えることはないから」と、フリーレン
128
フリーレンにそういわれれば信頼するしかない。が、果たしてリーニエちゃんは大丈夫やろか…?
ところがリーニエちゃん、ワイが問いかけるより先にベッドから出て、そそくさと服を身に着け始めたのである
「ワイ様。もし差し支えなければ私、フェルンとご一緒してまいります」
リーニエちゃん、表情こそ乏しいがほんまにワイを主人と認め、気を使ってくれているんや…
そう実感したワイは、優柔不断なのもどうかと思い許可するしかなかった
フリーレンにそういわれれば信頼するしかない。が、果たしてリーニエちゃんは大丈夫やろか…?
ところがリーニエちゃん、ワイが問いかけるより先にベッドから出て、そそくさと服を身に着け始めたのである
「ワイ様。もし差し支えなければ私、フェルンとご一緒してまいります」
リーニエちゃん、表情こそ乏しいがほんまにワイを主人と認め、気を使ってくれているんや…
そう実感したワイは、優柔不断なのもどうかと思い許可するしかなかった
129
その日は町の住民たちが、フリーレン一行が出発する前日というのもあって歓送会に盛り上がった
ワイもキッズと交流したり演武を披露したりと忙しく、別の場所で歓待されているフリーレンらを見ることはなかったが…
その合間にも例の不動産屋が、ワイに接近。「昨日、お話しした件についてですが…」と、聞いてきた
ワイはうなずく。「フリーレンとは、話をつけといた。ワイはこの町に残る。女が出来たことを正直に打ち明けたら、分かってくれたわ」
不動産屋も笑みを浮かべて「はい。存じております」と言い出すんや
「フェルン様がさっき『ワイ様はパーティを抜けてフィアンセと町に残るので、よろしく』と、町の衆に打ち明けておりましたし」
その日は町の住民たちが、フリーレン一行が出発する前日というのもあって歓送会に盛り上がった
ワイもキッズと交流したり演武を披露したりと忙しく、別の場所で歓待されているフリーレンらを見ることはなかったが…
その合間にも例の不動産屋が、ワイに接近。「昨日、お話しした件についてですが…」と、聞いてきた
ワイはうなずく。「フリーレンとは、話をつけといた。ワイはこの町に残る。女が出来たことを正直に打ち明けたら、分かってくれたわ」
不動産屋も笑みを浮かべて「はい。存じております」と言い出すんや
「フェルン様がさっき『ワイ様はパーティを抜けてフィアンセと町に残るので、よろしく』と、町の衆に打ち明けておりましたし」
130
「意外とバレるのが早かったようですが、フェルン様たちも納得のご様子でなによりです」と、不動産屋
だがワイは、なんだか釈然とできへんかった。ワイに一言も無くワイの居ない場所でその件を吹聴するのは、お節介というも違和感を感じたんや
まあ、本来ならとっくにリーニエちゃんともども死骸になっていた可能性もある己の立場を思えば願っても無い話、別に苦情を言い立てる気は無かったのやが
しかも不動産屋の説明では、彼女のお節介は思った以上にしっかりした“根回し”やった。もとより根回しの首尾次第では、有難い話ではある
「ワイ様に代わって、リーニエとかいうお嬢さんを、町の衆に紹介して回っているところですよ。『婚約者と一緒に、町の住人になるために来た』とね」
「意外とバレるのが早かったようですが、フェルン様たちも納得のご様子でなによりです」と、不動産屋
だがワイは、なんだか釈然とできへんかった。ワイに一言も無くワイの居ない場所でその件を吹聴するのは、お節介というも違和感を感じたんや
まあ、本来ならとっくにリーニエちゃんともども死骸になっていた可能性もある己の立場を思えば願っても無い話、別に苦情を言い立てる気は無かったのやが
しかも不動産屋の説明では、彼女のお節介は思った以上にしっかりした“根回し”やった。もとより根回しの首尾次第では、有難い話ではある
「ワイ様に代わって、リーニエとかいうお嬢さんを、町の衆に紹介して回っているところですよ。『婚約者と一緒に、町の住人になるために来た』とね」
131
「あ…ああ、何だかんだで案ずるより産むがやすしだったわ」。しどろもどろに応じつつフェルンの妙に過剰な親切が、ワイにはなんだか不気味やった
「先ほどはフェルン様の昼食の席にグラナト伯爵が飛び入り参加しましてね。フェルン様がリーニエ嬢を紹介していました。和やかな雰囲気でしたよ」
不動産屋の言葉で、ワイはあらためてフリーレンの魔法の威力を思い知る。使節団員だったリーニエとは面識もあるうえ、とうぜん名前も知るはずの伯爵が、怪しまんかったのや
「では、今後のことについて詰めておきましょう。良い酒場があります。言うまでも無く、私のおごりです」
「あ…ああ、何だかんだで案ずるより産むがやすしだったわ」。しどろもどろに応じつつフェルンの妙に過剰な親切が、ワイにはなんだか不気味やった
「先ほどはフェルン様の昼食の席にグラナト伯爵が飛び入り参加しましてね。フェルン様がリーニエ嬢を紹介していました。和やかな雰囲気でしたよ」
不動産屋の言葉で、ワイはあらためてフリーレンの魔法の威力を思い知る。使節団員だったリーニエとは面識もあるうえ、とうぜん名前も知るはずの伯爵が、怪しまんかったのや
「では、今後のことについて詰めておきましょう。良い酒場があります。言うまでも無く、私のおごりです」
132
翌朝、町の城門前にて。ワイはフリーレンとフェルンの出立を、町の住人とともに見送る側になっていた
もちろん、ワイの横には愛しのリーニエちゃんが寄り添っている。フェルンの見立てた服を着ていたが、公平に言って趣味の良いデザインやった
「じゃあ、元気で」と、フリーレン。「グラナト伯、街の皆様、そしてワイ…皆さんの健勝を祈っています」
「ああ、達者でな」と、グラナト伯。「まさかワイが、花嫁と共に町に残るとは思わなかったが…彼なら町の復興と拡張に役立つだろう。歓迎する」
「私どもでワイ様とリーニエさんの婚礼を準備しましょう。できればフリーレン様がたにも、それまで逗留していただきたかったのですが」と、不動産屋
ワイは照れて顔を伏せたが、リーニエちゃんは相変わらずきょとんとしとった…
翌朝、町の城門前にて。ワイはフリーレンとフェルンの出立を、町の住人とともに見送る側になっていた
もちろん、ワイの横には愛しのリーニエちゃんが寄り添っている。フェルンの見立てた服を着ていたが、公平に言って趣味の良いデザインやった
「じゃあ、元気で」と、フリーレン。「グラナト伯、街の皆様、そしてワイ…皆さんの健勝を祈っています」
「ああ、達者でな」と、グラナト伯。「まさかワイが、花嫁と共に町に残るとは思わなかったが…彼なら町の復興と拡張に役立つだろう。歓迎する」
「私どもでワイ様とリーニエさんの婚礼を準備しましょう。できればフリーレン様がたにも、それまで逗留していただきたかったのですが」と、不動産屋
ワイは照れて顔を伏せたが、リーニエちゃんは相変わらずきょとんとしとった…
133
「いえ、先を急ぎますのでそれは出来ません。どうかワイのこと、よろしくお願いいたします」
礼儀にかなった穏やかな物言いではあったものの。そうお辞儀をするフェルンは、なぜだか元気がないというも機嫌が悪そうやった
まあ今朝限りでこいつのフキハラともお別れやと思えば、気にはならん。構うことなくワイは礼を言う
「昨日はワイがやっとくべきリーニエの紹介を、代行してくれたんやて? すまんな」
そういいつつ、買っておいた餞別の赤いネックレスを渡す。ワイの懐事情もあり高価なものとは言えんが、趣味の良いものを選んだ自信はある。ちなみにフリーレンともおそろいや
フェルンとフリーレンはうなずいて受け取り、すぐ首にかける。フリーレンは気に入った風情だったがフェルンは無表情で、お気に召さなかった模様
「いえ、先を急ぎますのでそれは出来ません。どうかワイのこと、よろしくお願いいたします」
礼儀にかなった穏やかな物言いではあったものの。そうお辞儀をするフェルンは、なぜだか元気がないというも機嫌が悪そうやった
まあ今朝限りでこいつのフキハラともお別れやと思えば、気にはならん。構うことなくワイは礼を言う
「昨日はワイがやっとくべきリーニエの紹介を、代行してくれたんやて? すまんな」
そういいつつ、買っておいた餞別の赤いネックレスを渡す。ワイの懐事情もあり高価なものとは言えんが、趣味の良いものを選んだ自信はある。ちなみにフリーレンともおそろいや
フェルンとフリーレンはうなずいて受け取り、すぐ首にかける。フリーレンは気に入った風情だったがフェルンは無表情で、お気に召さなかった模様
134
「じゃあ、私からはこれを…」
フェルンはそういって、小さな光り物を手渡す。見れば小指用の金の指輪やった
「ピンキーリングか…」
「共に旅した、想い出のための記念と受け取ってください。ちなみに、私とおそろいです」。そういってフェルンは、おなじ指輪をはめた自分の小指をかざす
「じゃあ、私からはこれを…」
フェルンはそういって、小さな光り物を手渡す。見れば小指用の金の指輪やった
「ピンキーリングか…」
「共に旅した、想い出のための記念と受け取ってください。ちなみに、私とおそろいです」。そういってフェルンは、おなじ指輪をはめた自分の小指をかざす
135
「ワイ様の薬指は、リーニエの結婚指輪の居場所ですよね。でもピンキーリングは、願いをかなえる護符です。着けても構わないでしょう?」
願掛けの護符だけでなく、“約束”とか“秘密”を意味するんだっけ? なんとなく引っかかったが、フェルンの穏やかならぬ機嫌をいっそう損ねるのは愚策や
ワイは素直に礼を言い、指輪を小指にはめた。ちなみにフリーレンからの餞別は素気無くも金貨の小袋やったが、物入りの新婚夫婦にはいちばん有難い贈り物や
「ワイ様の薬指は、リーニエの結婚指輪の居場所ですよね。でもピンキーリングは、願いをかなえる護符です。着けても構わないでしょう?」
願掛けの護符だけでなく、“約束”とか“秘密”を意味するんだっけ? なんとなく引っかかったが、フェルンの穏やかならぬ機嫌をいっそう損ねるのは愚策や
ワイは素直に礼を言い、指輪を小指にはめた。ちなみにフリーレンからの餞別は素気無くも金貨の小袋やったが、物入りの新婚夫婦にはいちばん有難い贈り物や
136
それから、フリーレンとフェルンの後姿が見えなくなるまで見送った。二人とも、一度も振り返らんかった
「じゃあ、そろそろ行こうかリーニエ」。ワイはウキウキしてリーニエちゃんの肩を抱く。気づけばグラナト伯が、ワイらの傍に来ていた
「偶然とはいえ、お前の婚約者がよりによってお前が討ち取った魔族の娘と、同じ名前だとはな。まあ見た目は全く別人だが、こっちも中々の別嬪さんだ」
「たはは…」
ワイは我ながら引きつっていたが、幸いリーニエちゃんが如才なく、微かな笑みをこぼして会釈したのに救われた
相変わらず無口やけど、いつのまにか人なみな愛嬌を身に着けているようにも見える。これも天秤パワーのおかげやろか?
ともあれ認識阻害魔法のご利益に慣れるまで、ほかならぬワイのほうが、時間かかりそうや―――
それから、フリーレンとフェルンの後姿が見えなくなるまで見送った。二人とも、一度も振り返らんかった
「じゃあ、そろそろ行こうかリーニエ」。ワイはウキウキしてリーニエちゃんの肩を抱く。気づけばグラナト伯が、ワイらの傍に来ていた
「偶然とはいえ、お前の婚約者がよりによってお前が討ち取った魔族の娘と、同じ名前だとはな。まあ見た目は全く別人だが、こっちも中々の別嬪さんだ」
「たはは…」
ワイは我ながら引きつっていたが、幸いリーニエちゃんが如才なく、微かな笑みをこぼして会釈したのに救われた
相変わらず無口やけど、いつのまにか人なみな愛嬌を身に着けているようにも見える。これも天秤パワーのおかげやろか?
ともあれ認識阻害魔法のご利益に慣れるまで、ほかならぬワイのほうが、時間かかりそうや―――
137
その日は例の不動産屋とも今後の仕事および待遇について話を詰め、それから帰宅した
仮の住処として世話してもらった「妾宅」は、いまや正式にワイ・リーニエ夫妻のおうちや
明日からはローン払いの建売になるが、破格の条件での契約や。新婚生活の懐にはかなり優しい
早速その夜も、用意されていた夕餉を済ませて二人みずいらずで入浴して、寝室に入ったワイとリーニエ…
(でもリーニエちゃん、そもそも人間との行為に気分が乗らないマグロやしなあ…)という愚痴の気持ちは、あるものの。
(せやかて、フリーレンたちに露見したときの失言がミスなんは変らんわ。リーニエちゃんも、傷ついたに違いない。挽回のためにも今夜は、彼女を抱かなあかん)
その日は例の不動産屋とも今後の仕事および待遇について話を詰め、それから帰宅した
仮の住処として世話してもらった「妾宅」は、いまや正式にワイ・リーニエ夫妻のおうちや
明日からはローン払いの建売になるが、破格の条件での契約や。新婚生活の懐にはかなり優しい
早速その夜も、用意されていた夕餉を済ませて二人みずいらずで入浴して、寝室に入ったワイとリーニエ…
(でもリーニエちゃん、そもそも人間との行為に気分が乗らないマグロやしなあ…)という愚痴の気持ちは、あるものの。
(せやかて、フリーレンたちに露見したときの失言がミスなんは変らんわ。リーニエちゃんも、傷ついたに違いない。挽回のためにも今夜は、彼女を抱かなあかん)
138
そうやで。新婚ライフですらこれからという時にセックスレスというのは、なんぼなんでも愛が無さすぎる…気分は、奮い立たせればええんやっ
努力して、お互いの肉体に馴染んでいくことで何かが変わるのに賭けるしかない!
それに正直、こわくもあった。ここまで段取りして人生を賭けてしまったというのに、よりによって魔族との“性の不一致”で台無しなんて、嫌すぎる…
ワイはエロなくして生きられぬ愛欲の戦士や。このまま砂を噛む思いの情事が続けば、いつかは耐えられぬ日が来てしまうやろう…その不安を断ち切りたい一心で、彼女を誘う
「ささ、リーニエちゃん。こっちにおいで」
服を脱いだリーニエちゃん、頷きながらベッドに滑り込んでくる
そしてその時彼女はワイの胸の中で一言小さく、こうつぶやいたんや
「エアファーゼン」
そうやで。新婚ライフですらこれからという時にセックスレスというのは、なんぼなんでも愛が無さすぎる…気分は、奮い立たせればええんやっ
努力して、お互いの肉体に馴染んでいくことで何かが変わるのに賭けるしかない!
それに正直、こわくもあった。ここまで段取りして人生を賭けてしまったというのに、よりによって魔族との“性の不一致”で台無しなんて、嫌すぎる…
ワイはエロなくして生きられぬ愛欲の戦士や。このまま砂を噛む思いの情事が続けば、いつかは耐えられぬ日が来てしまうやろう…その不安を断ち切りたい一心で、彼女を誘う
「ささ、リーニエちゃん。こっちにおいで」
服を脱いだリーニエちゃん、頷きながらベッドに滑り込んでくる
そしてその時彼女はワイの胸の中で一言小さく、こうつぶやいたんや
「エアファーゼン」
139
「え…? 今何と?」
そう尋ねるひまも、あらばこそ。リーニエちゃんがワイの上に覆いかぶさり、彼女の柔らか唇が、ワイの唇と重なる。舌がワイの口中に分け入ってくる!
「む…ぬぅ…」
(うぉおおおおお! すごい! なんという、なんという凄いディープキスや、リーニエちゃん!!)
実は最初、ワイはその事態に脳がうまくついていけないほどやった。これほど熱いエロい接吻は生まれて初めてで、あっという間にフル勃起しておった
「え…? 今何と?」
そう尋ねるひまも、あらばこそ。リーニエちゃんがワイの上に覆いかぶさり、彼女の柔らか唇が、ワイの唇と重なる。舌がワイの口中に分け入ってくる!
「む…ぬぅ…」
(うぉおおおおお! すごい! なんという、なんという凄いディープキスや、リーニエちゃん!!)
実は最初、ワイはその事態に脳がうまくついていけないほどやった。これほど熱いエロい接吻は生まれて初めてで、あっという間にフル勃起しておった
140
「り、りぃにええええ」
ワイはキスが終わるなりもうたまらんとばかり、リーニエちゃんを組み敷いて彼女の中に押し入ってしまう
今にして思えば素人童貞そのまんまの、いささか性急な欲望の発散やったがな
とはいえリーニエちゃんと邂逅したときいらいワイが夢見ていたシチュエーションが、いきなり実現してもうたんや。ここで奮い立たねば愛のエロス戦士としての名が廃るで
果たしてたちまちリーニエちゃんのからだがびくびく反応し、その可愛すぎる喘ぎ声が響き渡る
「り、りぃにええええ」
ワイはキスが終わるなりもうたまらんとばかり、リーニエちゃんを組み敷いて彼女の中に押し入ってしまう
今にして思えば素人童貞そのまんまの、いささか性急な欲望の発散やったがな
とはいえリーニエちゃんと邂逅したときいらいワイが夢見ていたシチュエーションが、いきなり実現してもうたんや。ここで奮い立たねば愛のエロス戦士としての名が廃るで
果たしてたちまちリーニエちゃんのからだがびくびく反応し、その可愛すぎる喘ぎ声が響き渡る
141
(こ…これはっ! これはいったい何が…何が彼女の身に、起きたというんや?)
ワイの後頭部を抱きしめながら熱い声を上げ、自ら腰を動かし始めた彼女の大胆さに、ワイは内心で激しく驚いていた
だが驚きつつも巧みな彼女の律動で、ワイのジュニアは溶けるような悦楽に埋没してもうていたんや
興奮と感激の大波が、ワイの脳幹を何度も何度も押し寄せてくる!
その最初の二つ目までは何とか耐えたものの。三回目の大波に、ワイはあっさりさらわれてしもたんやっ
「りりり、りぃにぇええええええ!!」
(こ…これはっ! これはいったい何が…何が彼女の身に、起きたというんや?)
ワイの後頭部を抱きしめながら熱い声を上げ、自ら腰を動かし始めた彼女の大胆さに、ワイは内心で激しく驚いていた
だが驚きつつも巧みな彼女の律動で、ワイのジュニアは溶けるような悦楽に埋没してもうていたんや
興奮と感激の大波が、ワイの脳幹を何度も何度も押し寄せてくる!
その最初の二つ目までは何とか耐えたものの。三回目の大波に、ワイはあっさりさらわれてしもたんやっ
「りりり、りぃにぇええええええ!!」
161創る名無しに見る名無し
2024/05/30(木) 23:17:27.09ID:Rl8DsUtB 7回目はここまでです。続きもハプニングが無ければ、明日22〜24時くらいに投稿します
142
翌朝…ワイは寝不足のまま起床を余儀なくされた。寝室から出ると、包丁の音とスープの香りが漂う
リーニエちゃんは、すでにキッチンに立っていた。清掃・調理など賄いの契約は昨夜までという事は、彼女も知っていたとはいえ…
今朝は外食で済ませるつもりだったんが、なんという模範的な新妻ぶりや
昨夜のことを思い出すにつけ、気恥ずかしさが先立つ。でもこの家庭的で床上手で絶世の美少女がワイの嫁なのかと思うと改めて、鼻の下が伸びる
翌朝…ワイは寝不足のまま起床を余儀なくされた。寝室から出ると、包丁の音とスープの香りが漂う
リーニエちゃんは、すでにキッチンに立っていた。清掃・調理など賄いの契約は昨夜までという事は、彼女も知っていたとはいえ…
今朝は外食で済ませるつもりだったんが、なんという模範的な新妻ぶりや
昨夜のことを思い出すにつけ、気恥ずかしさが先立つ。でもこの家庭的で床上手で絶世の美少女がワイの嫁なのかと思うと改めて、鼻の下が伸びる
143
更にワイは、リーニエちゃんの手料理が想像上に美味しいことにびっくりした。どこで覚えたんやろ…
それに、不思議と食べ慣れた味という印象もある。フェルンから、教授されたというのはありそうやが…一日じゃ無理やろうし
なにより有り合わせのものをごった煮していた旅の食事とは材料が違いすぎるわけで。食材が良ければ調理師の腕は、関係ないのやろか…?
「魔族も料理とかするんか?」
「しないけど…ワイ様の嫁になる以上は覚えることにしたの。フェルンに料理の本を買ってもらったし、あとは適当に…」
更にワイは、リーニエちゃんの手料理が想像上に美味しいことにびっくりした。どこで覚えたんやろ…
それに、不思議と食べ慣れた味という印象もある。フェルンから、教授されたというのはありそうやが…一日じゃ無理やろうし
なにより有り合わせのものをごった煮していた旅の食事とは材料が違いすぎるわけで。食材が良ければ調理師の腕は、関係ないのやろか…?
「魔族も料理とかするんか?」
「しないけど…ワイ様の嫁になる以上は覚えることにしたの。フェルンに料理の本を買ってもらったし、あとは適当に…」
144
それにしても、事実上の初回でこれはなかなか非凡すぎるわ。あるいは敵と言う立場ながら長年、人間と接触してきたことも何か、関係あるんやろか…?
ただしリーニエちゃんがそれ以上は喋らないので、掘り下げてたずねるのはやめにした。魔族としての前科を問いただす形になりかねん
それよりよほど、気になることがあったんや。まずそのことを聞きたかった
「昨夜は、その…ほんと良かったわ。その前までとは別人みたいやった。君、いったいどうしたんや?」
まちがいなく、処女だったとはいえ。リーニエちゃんが何がしかの手段―――おそらくは魔力で人間の女の経験なり感性なりを会得しており、最初はそれを出し惜しみしていたのではないか? というのが、ワイの密かな推測やった
それにしても、事実上の初回でこれはなかなか非凡すぎるわ。あるいは敵と言う立場ながら長年、人間と接触してきたことも何か、関係あるんやろか…?
ただしリーニエちゃんがそれ以上は喋らないので、掘り下げてたずねるのはやめにした。魔族としての前科を問いただす形になりかねん
それよりよほど、気になることがあったんや。まずそのことを聞きたかった
「昨夜は、その…ほんと良かったわ。その前までとは別人みたいやった。君、いったいどうしたんや?」
まちがいなく、処女だったとはいえ。リーニエちゃんが何がしかの手段―――おそらくは魔力で人間の女の経験なり感性なりを会得しており、最初はそれを出し惜しみしていたのではないか? というのが、ワイの密かな推測やった
145
リーニエちゃんは目を伏せた。「私のこと、嫌いになりましたか? ワイ様。“ふしだらにすぎる”女を、忌む殿方も多いと聞きます…」
「ちゃう! その逆やで。まさかアッチの方まで、ワイの理想形だったとは」
「なら、それでいいのでは? それにそういうのって、たとえ相手が妻であっても女性に深掘りしないのが、人間の男なのでしょ?」
これにはさすがに詰まってしまい、ワイは何か釈然としないものを感じつつも引き下がるしかなかったんや…
さっきも言ったが、どこでどういう人間との接触に触発されたのかを問うことになりかねず、しかもそれが“捕食した相手だった”という可能性を、捨てきれないのが辛い事実やった
ならばそれはまさに知らぬが華、ワイが敢えて知らないでおくべきことなのではないか…? という気がしたんや―――
リーニエちゃんは目を伏せた。「私のこと、嫌いになりましたか? ワイ様。“ふしだらにすぎる”女を、忌む殿方も多いと聞きます…」
「ちゃう! その逆やで。まさかアッチの方まで、ワイの理想形だったとは」
「なら、それでいいのでは? それにそういうのって、たとえ相手が妻であっても女性に深掘りしないのが、人間の男なのでしょ?」
これにはさすがに詰まってしまい、ワイは何か釈然としないものを感じつつも引き下がるしかなかったんや…
さっきも言ったが、どこでどういう人間との接触に触発されたのかを問うことになりかねず、しかもそれが“捕食した相手だった”という可能性を、捨てきれないのが辛い事実やった
ならばそれはまさに知らぬが華、ワイが敢えて知らないでおくべきことなのではないか…? という気がしたんや―――
146
ともあれ、それからのワイとリーニエちゃんの夫婦生活は、自分でもびっくりするくらい円満かつ幸福やった
リーニエちゃんはいつまでも可愛くて、夜の愛の交歓もめちゃくちゃ楽しいし、ワイにとって理想の伴侶や
ただし、子供はできへんかった。リーニエちゃんをものにすると決心したときから、薄々覚悟してはいたことやが…やはり魔族と人間のハーフは、無理やったらしい―――
「まあ仕方ないわ。はじめからダメ元、想定範囲のことが起きたにすぎん。跡継ぎが欲しけりゃ、養子をとればええ」と、ワイは決めた。婚礼を挙げてから四年目のことや
「この町の孤児院には、アウラとの戦いで死んだ兵士の遺児がぎょうさんおるでな。男の子と女の子を、一人ずつ選ぼう」
リーニエちゃん、無表情でこくりと頷く。ワイの決めたことにはおよそ反対せんのや。ただし感情が読めんのは、相変わらずやったが
ともあれ、それからのワイとリーニエちゃんの夫婦生活は、自分でもびっくりするくらい円満かつ幸福やった
リーニエちゃんはいつまでも可愛くて、夜の愛の交歓もめちゃくちゃ楽しいし、ワイにとって理想の伴侶や
ただし、子供はできへんかった。リーニエちゃんをものにすると決心したときから、薄々覚悟してはいたことやが…やはり魔族と人間のハーフは、無理やったらしい―――
「まあ仕方ないわ。はじめからダメ元、想定範囲のことが起きたにすぎん。跡継ぎが欲しけりゃ、養子をとればええ」と、ワイは決めた。婚礼を挙げてから四年目のことや
「この町の孤児院には、アウラとの戦いで死んだ兵士の遺児がぎょうさんおるでな。男の子と女の子を、一人ずつ選ぼう」
リーニエちゃん、無表情でこくりと頷く。ワイの決めたことにはおよそ反対せんのや。ただし感情が読めんのは、相変わらずやったが
147
いっぽう仕事の方は、順風満帆。ワイの戦士としてのパワーが土木作業で百人力となり、町の発展にも寄与できた
三十路半ばに独立して、下請け企業を立ち上げた。リーニエちゃんの内助もあって繁盛し、ついには百人を雇う大きな会社に育った
グラナト伯は、ワイが五十路半ばを過ぎた時分に亡くなった。享年八十六…その頃までに、町の規模は昔の三倍になっていた
なお伯の息子が若くして戦死していたのはご存じの通りやが、伯にはワイと同年齢の娘もいたんや
これが伯の外孫にあたる息子を生んでおり、かれが伯爵領の家督を継いだ
もちろん継承した時点でこの外孫は既婚者であり、新伯爵の嫁こそ誰あろう、ワイの養女になった娘やった
いっぽう仕事の方は、順風満帆。ワイの戦士としてのパワーが土木作業で百人力となり、町の発展にも寄与できた
三十路半ばに独立して、下請け企業を立ち上げた。リーニエちゃんの内助もあって繁盛し、ついには百人を雇う大きな会社に育った
グラナト伯は、ワイが五十路半ばを過ぎた時分に亡くなった。享年八十六…その頃までに、町の規模は昔の三倍になっていた
なお伯の息子が若くして戦死していたのはご存じの通りやが、伯にはワイと同年齢の娘もいたんや
これが伯の外孫にあたる息子を生んでおり、かれが伯爵領の家督を継いだ
もちろん継承した時点でこの外孫は既婚者であり、新伯爵の嫁こそ誰あろう、ワイの養女になった娘やった
148
こうして、押しも押されもせぬ町の名士になったワイは75才になったとき事業のすべてを養子の長男にゆずり、円満引退
85才のある日。いつものようにリーニエちゃんと屋敷の中庭で、初夏の木漏れ日を浴びながら午後のお茶していたときに、倒れたワイはそのまま病床に臥せったんや…
深夜三時。付き添いの看護師も寝静まり、壁のおもり時計だけがチクタク鳴っとる中でただ一人、老いたワイの病床に侍る美少女が居た
ツインテールの髪型、可憐な童顔。逢った時とおなじく月明かりに照らされるリーニエちゃんは当時と寸分たがわぬ、若く美しい姿のまんまや…
こうして、押しも押されもせぬ町の名士になったワイは75才になったとき事業のすべてを養子の長男にゆずり、円満引退
85才のある日。いつものようにリーニエちゃんと屋敷の中庭で、初夏の木漏れ日を浴びながら午後のお茶していたときに、倒れたワイはそのまま病床に臥せったんや…
深夜三時。付き添いの看護師も寝静まり、壁のおもり時計だけがチクタク鳴っとる中でただ一人、老いたワイの病床に侍る美少女が居た
ツインテールの髪型、可憐な童顔。逢った時とおなじく月明かりに照らされるリーニエちゃんは当時と寸分たがわぬ、若く美しい姿のまんまや…
149
「目を覚まされたのですね、ワイ様…」
リーニエちゃんの手が、優しくワイの手を包み込む。「倒れてからまる三日間、昏睡しておられたのです」
「そ、そうやったんか。なんかワイ、ぜんぜん痛くも苦しくもなかったんやけどな、ハハッ」。そういってから、すぐ大事なことに気づく
「ワイの書斎の机の引き出しに、遺言状が入っとる。ワイの資産目録と遺産分与その他、明らかに出来る
弁護士先生の検認も入っとるから先生を呼べば葬儀も相続も、滞りなく手続きしてくれるはずや。リーニエちゃんの手は煩わせんで」
「目を覚まされたのですね、ワイ様…」
リーニエちゃんの手が、優しくワイの手を包み込む。「倒れてからまる三日間、昏睡しておられたのです」
「そ、そうやったんか。なんかワイ、ぜんぜん痛くも苦しくもなかったんやけどな、ハハッ」。そういってから、すぐ大事なことに気づく
「ワイの書斎の机の引き出しに、遺言状が入っとる。ワイの資産目録と遺産分与その他、明らかに出来る
弁護士先生の検認も入っとるから先生を呼べば葬儀も相続も、滞りなく手続きしてくれるはずや。リーニエちゃんの手は煩わせんで」
150
「そんなこと、言わないで」。リーニエちゃんの声、心なしかイライラしとる。「それより水差しをお持ちしましょうか? ワイ様」
「大丈夫やで。あんがとな、リーニエちゃん。君ももう、寝たらええ。君がワイの嫁になってくれて、ワイは幸福そのものやった―――」
照れくさくなりつつそう答えた直後にワイの心臓が脈を打つのを止めて、視界を闇のとばりが包む。ワイは大往生を遂げたんや
「そんなこと、言わないで」。リーニエちゃんの声、心なしかイライラしとる。「それより水差しをお持ちしましょうか? ワイ様」
「大丈夫やで。あんがとな、リーニエちゃん。君ももう、寝たらええ。君がワイの嫁になってくれて、ワイは幸福そのものやった―――」
照れくさくなりつつそう答えた直後にワイの心臓が脈を打つのを止めて、視界を闇のとばりが包む。ワイは大往生を遂げたんや
151
勇者ヒンメルの死から96年後にして、グラナト伯爵領の名士ワイが死んで半年を僅かに過ぎたある日―――
大きなトランクカバンを手に下げたエルフの魔法使いが、グラナト伯爵領に向かう道を歩いていた
「この辺りもすっかり舗装されているね。アウラが死んで、ずいぶんと発展したようだ…」
「しかし85歳の身には、たとえ舗装路でも長旅は堪えますね。いまだに徒歩で旅できるフリーレン様が、羨ましいです」
そう答える声は、馬二頭に前後を支えられた輿の中から発されている。老いたフェルンの声だった
先頭の馬のくつわをとる従卒装束の男はだいぶ白髪が多めながら赤毛の男、60絡みの初老ながら体格も顔立ちも立派な男だったが、そんな声に痛ましげな顔でこう応じた
「母さん、見えてきたよ。グラナト伯爵領の街並みが…」
勇者ヒンメルの死から96年後にして、グラナト伯爵領の名士ワイが死んで半年を僅かに過ぎたある日―――
大きなトランクカバンを手に下げたエルフの魔法使いが、グラナト伯爵領に向かう道を歩いていた
「この辺りもすっかり舗装されているね。アウラが死んで、ずいぶんと発展したようだ…」
「しかし85歳の身には、たとえ舗装路でも長旅は堪えますね。いまだに徒歩で旅できるフリーレン様が、羨ましいです」
そう答える声は、馬二頭に前後を支えられた輿の中から発されている。老いたフェルンの声だった
先頭の馬のくつわをとる従卒装束の男はだいぶ白髪が多めながら赤毛の男、60絡みの初老ながら体格も顔立ちも立派な男だったが、そんな声に痛ましげな顔でこう応じた
「母さん、見えてきたよ。グラナト伯爵領の街並みが…」
152
すっかり拡張されたグラナト伯爵領の街並みに入ったフリーレンは、少なからず感慨深げであった
「舗装路のいたるところに、下水道の地下水路用マンホールがあるね。品質が均整で密閉されているから、悪臭も漏れない
どうやらワイの土木会社は、良い仕事をしている…」
「フリーレン様。市内観光は後にして、はやくワイ家のお屋敷に参りましょう。輿に揺られるのももう、限界です」
「衰えたねフェルン…馬車すら『老いた身に応える』というから、君の息子は大枚をはたいて馬用の屋形輿を用意したのに…」
「いえ、お金の方はご心配なく…」と、初老の従卒。「母はほんらい、亡き養父ハイター様の庵で臨終を迎える予定だったのですが―――」
すっかり拡張されたグラナト伯爵領の街並みに入ったフリーレンは、少なからず感慨深げであった
「舗装路のいたるところに、下水道の地下水路用マンホールがあるね。品質が均整で密閉されているから、悪臭も漏れない
どうやらワイの土木会社は、良い仕事をしている…」
「フリーレン様。市内観光は後にして、はやくワイ家のお屋敷に参りましょう。輿に揺られるのももう、限界です」
「衰えたねフェルン…馬車すら『老いた身に応える』というから、君の息子は大枚をはたいて馬用の屋形輿を用意したのに…」
「いえ、お金の方はご心配なく…」と、初老の従卒。「母はほんらい、亡き養父ハイター様の庵で臨終を迎える予定だったのですが―――」
153
「ワイ様が私より先に逝った以上、墓参りせずしては死ねません…」
輿の窓から漏れ聞こえてくる声は、弱弱しく息切れまじりではあったが決意がみなぎっていた
フェルンを乗せた輿がワイ家の前にたどり着いたのは、町に入ってから十分後のことである
「噂には聞いていたがこれはまた、結構な造りのお屋敷だ」と、フリーレン
従卒がふくろうの意匠をあつらえた真鍮製のドアノッカーをノックすると、ほどなくして十代後半とおぼしきメイドがドアを半ば開けて顔を出す
「どちら様でございますか?」
「『フリーレンたちが、半年前に急逝したダンナの墓参りに来た』と、奥さんに伝えてくれ。すでに手紙では知らせてある」
フリーレンがそう言うなりメイドはうなずき、踵を返した
「ワイ様が私より先に逝った以上、墓参りせずしては死ねません…」
輿の窓から漏れ聞こえてくる声は、弱弱しく息切れまじりではあったが決意がみなぎっていた
フェルンを乗せた輿がワイ家の前にたどり着いたのは、町に入ってから十分後のことである
「噂には聞いていたがこれはまた、結構な造りのお屋敷だ」と、フリーレン
従卒がふくろうの意匠をあつらえた真鍮製のドアノッカーをノックすると、ほどなくして十代後半とおぼしきメイドがドアを半ば開けて顔を出す
「どちら様でございますか?」
「『フリーレンたちが、半年前に急逝したダンナの墓参りに来た』と、奥さんに伝えてくれ。すでに手紙では知らせてある」
フリーレンがそう言うなりメイドはうなずき、踵を返した
154
数分後…屋内に案内されたフリーレンたちは、リーニエ自らの給仕による喫茶を楽しんでいた
「もうかれこれ68年になるのか…魔族だけあって、出会った時とまるで変わらないねリーニエ。十七歳でも、じゅうぶん通じるよ」
屋敷の中庭で初秋の木漏れ日を浴びながら、冷えた香ばしい果汁を一口飲んで、フリーレンは言う
「フリーレンも同じでしょ…」と、リーニエ。反感はないにせよ、その態度は素っ気ない
彼女は既に、黒い喪服に身を包んでいた。とはいえその表情から喜怒哀楽は、まったく見えない
「不愛想なところまで相変わらずか。それでもワイや町の住人相手には、ちょっとは愛想笑いできるようになっていたようなのに」
数分後…屋内に案内されたフリーレンたちは、リーニエ自らの給仕による喫茶を楽しんでいた
「もうかれこれ68年になるのか…魔族だけあって、出会った時とまるで変わらないねリーニエ。十七歳でも、じゅうぶん通じるよ」
屋敷の中庭で初秋の木漏れ日を浴びながら、冷えた香ばしい果汁を一口飲んで、フリーレンは言う
「フリーレンも同じでしょ…」と、リーニエ。反感はないにせよ、その態度は素っ気ない
彼女は既に、黒い喪服に身を包んでいた。とはいえその表情から喜怒哀楽は、まったく見えない
「不愛想なところまで相変わらずか。それでもワイや町の住人相手には、ちょっとは愛想笑いできるようになっていたようなのに」
155
「もう、その必要も無くなりました…」
リーニエはテーブル上のフルーツを盛られた鉢から林檎を手に取り、しゃくしゃく齧りはじめる。「今の私、未亡人ですんで。墓前に顔出すとき以外は、引きこもるだけ」
「でも、まるで元気ねリーニエ。ほんとうに羨ましい。姿も私がワイと別れた時のまま、十代の小娘だ。人間の私はこの旅で、体力を使い切ったみたいなのに―――」
かつての輝く長い黒髪にかわって、短く整えた白髪。皺だらけの顔や手…フェルンはもはや、死ぬ直前のワイ以上の老衰ぶりだった。ティーカップを持つ手も、中身をこぼしかねないほど震えている
クッションを敷きつめ、半ば寝るほど背もたれに傾斜をつけた座席を備え付けた特製輿での、ゆっくりした移動だったにもかかわらず。長旅がフェルンの老いた肉体にもたらした負担は、相当なものだったようだ
静かに座っているだけでも息苦しげな、老いた弟子をそっと横目にしつつ。フリーレンの胸にはいつもの寂寥が浸食している。師匠フランメ、相棒ヒンメルに続き、弟子のフェルンもか…
みんな私よりはるかに年下なのに私を追い越して年を取り、そして此の世を去っていく…
いっぽう「思い出話の仲間外れ組」である初老の従卒だけが、三人の会話に奇妙そうな顔つきである。「あの…母さん、こちらがリーニエさん、ですよね?」
「もう、その必要も無くなりました…」
リーニエはテーブル上のフルーツを盛られた鉢から林檎を手に取り、しゃくしゃく齧りはじめる。「今の私、未亡人ですんで。墓前に顔出すとき以外は、引きこもるだけ」
「でも、まるで元気ねリーニエ。ほんとうに羨ましい。姿も私がワイと別れた時のまま、十代の小娘だ。人間の私はこの旅で、体力を使い切ったみたいなのに―――」
かつての輝く長い黒髪にかわって、短く整えた白髪。皺だらけの顔や手…フェルンはもはや、死ぬ直前のワイ以上の老衰ぶりだった。ティーカップを持つ手も、中身をこぼしかねないほど震えている
クッションを敷きつめ、半ば寝るほど背もたれに傾斜をつけた座席を備え付けた特製輿での、ゆっくりした移動だったにもかかわらず。長旅がフェルンの老いた肉体にもたらした負担は、相当なものだったようだ
静かに座っているだけでも息苦しげな、老いた弟子をそっと横目にしつつ。フリーレンの胸にはいつもの寂寥が浸食している。師匠フランメ、相棒ヒンメルに続き、弟子のフェルンもか…
みんな私よりはるかに年下なのに私を追い越して年を取り、そして此の世を去っていく…
いっぽう「思い出話の仲間外れ組」である初老の従卒だけが、三人の会話に奇妙そうな顔つきである。「あの…母さん、こちらがリーニエさん、ですよね?」
156
彼の眼には、お茶会のホステスを務めるリーニエはなるほど林檎をかじるほど歯が丈夫だが、母フェルンとおなじ80絡みの老嬢にしか見えなかった
「十代の小娘」という形容は、いかに社交辞令でも嫌みであろう。だがフリーレンがはっとして、軽く指先に青白い燐光を光らせる
「気が利かなくて済まない。認識疎外魔法を見透かす魔法を、君にかけておくのを忘れていたよ―――ほら。これでどうだい?」
果たして彼の目にも、リーニエと名乗る喪服姿の痩せた老婆は、たちまち16、7の可憐な少女に…ただし角の生えた魔族の娘に変貌していたのである
「…こりゃ驚いた!」。思わず従卒は、不躾に口笛を吹いていた。「なるほど、角がある。魔族の女だ」
「君は、フェルンの息子だね?」と、リーニエが従卒に尋ねる
「はい、シュタルクと申します。今年67才になります」
彼の眼には、お茶会のホステスを務めるリーニエはなるほど林檎をかじるほど歯が丈夫だが、母フェルンとおなじ80絡みの老嬢にしか見えなかった
「十代の小娘」という形容は、いかに社交辞令でも嫌みであろう。だがフリーレンがはっとして、軽く指先に青白い燐光を光らせる
「気が利かなくて済まない。認識疎外魔法を見透かす魔法を、君にかけておくのを忘れていたよ―――ほら。これでどうだい?」
果たして彼の目にも、リーニエと名乗る喪服姿の痩せた老婆は、たちまち16、7の可憐な少女に…ただし角の生えた魔族の娘に変貌していたのである
「…こりゃ驚いた!」。思わず従卒は、不躾に口笛を吹いていた。「なるほど、角がある。魔族の女だ」
「君は、フェルンの息子だね?」と、リーニエが従卒に尋ねる
「はい、シュタルクと申します。今年67才になります」
157
「シュタルクか…良い名だね。それにお母さんに似て、なかなかの美形だ」
リーニエの言葉は無感情だったが素っ気ない分、まんざら世辞でもないようだった。その証拠に「まあ、人間の年齢相応に肉がついては、いるけれど…」と、欠点の指摘も忘れない
「ははは。実は六つをかしらにもう三人の孫を授かっている身でしてね。名実ともに、じじいですよ」
「ところで、暫くシュタルクは席を外してくれないか? 今日は昔を知るもの同士の、他聞をはばかる話もあってね」
フリーレンがそういうと、シュタルクは頷いて席を立つ。すかさずリーニエが卓上の鈴を鳴らしてメイドを呼び、シュタルクを客間に通すよう命じる
(あの赤髪…そして体つき…ひょっとして?)
そのときリーニエは去っていくシュタルクの背中を見送りながら何事かを察したようだったが、声には出さなかった
「シュタルクか…良い名だね。それにお母さんに似て、なかなかの美形だ」
リーニエの言葉は無感情だったが素っ気ない分、まんざら世辞でもないようだった。その証拠に「まあ、人間の年齢相応に肉がついては、いるけれど…」と、欠点の指摘も忘れない
「ははは。実は六つをかしらにもう三人の孫を授かっている身でしてね。名実ともに、じじいですよ」
「ところで、暫くシュタルクは席を外してくれないか? 今日は昔を知るもの同士の、他聞をはばかる話もあってね」
フリーレンがそういうと、シュタルクは頷いて席を立つ。すかさずリーニエが卓上の鈴を鳴らしてメイドを呼び、シュタルクを客間に通すよう命じる
(あの赤髪…そして体つき…ひょっとして?)
そのときリーニエは去っていくシュタルクの背中を見送りながら何事かを察したようだったが、声には出さなかった
158
「さて、単刀直入に言おう」とフリーレンが、性急に切り出す
「リーニエ。君は何か、これからの余生でしたいことがあるか?」
「特に何も…」と、リーニエ。「ワイ様の遺言は、手紙でお伝えしたとおりです。『自分の死後はフリーレン様を頼り、彼女と共に生きるように』、と…」
「ふむ。やはり天秤によるワイの拘束は、彼の死後も有効か」と、フリーレン。「じゃあ安心だな。この町を離れるんだ、リーニエ。私と一緒に来るがいい」
リーニエはこくりとうなずいたが、その後すぐ小首をかしげた。「今すぐ、というわけではないですよね?」
「さて、単刀直入に言おう」とフリーレンが、性急に切り出す
「リーニエ。君は何か、これからの余生でしたいことがあるか?」
「特に何も…」と、リーニエ。「ワイ様の遺言は、手紙でお伝えしたとおりです。『自分の死後はフリーレン様を頼り、彼女と共に生きるように』、と…」
「ふむ。やはり天秤によるワイの拘束は、彼の死後も有効か」と、フリーレン。「じゃあ安心だな。この町を離れるんだ、リーニエ。私と一緒に来るがいい」
リーニエはこくりとうなずいたが、その後すぐ小首をかしげた。「今すぐ、というわけではないですよね?」
159
「そうだね。でも、そう長くは待たないよ。認識疎外魔法で人間を偽るにしても、人間の寿命はせいぜい百年ちょっとだ」
「じゃあ、怪しまれずに暮らせるのに、まだ20年かそこらはありそうね」。リーニエは、呟くように言う。「私ももうしばらくこの屋敷で、ワイ様の想い出に浸っていたいし」
「でもあいにく20年なんて待ちませんよ。たぶんあと数か月…長くても、一年はかからないはずだわ」。息苦しそうな声で、フェルンが割って入る
リーニエは無表情のまま、フェルンの皺深く老いた顔を見つめた。彼女との再会も、かれこれ70年近くぶりのことになる
思えばかつての強敵も、ずいぶんと衰えたものだ…とはいえリーニエは彼女の態度の端々に、不可解な余裕じみたものも感じていた
「そうだね。でも、そう長くは待たないよ。認識疎外魔法で人間を偽るにしても、人間の寿命はせいぜい百年ちょっとだ」
「じゃあ、怪しまれずに暮らせるのに、まだ20年かそこらはありそうね」。リーニエは、呟くように言う。「私ももうしばらくこの屋敷で、ワイ様の想い出に浸っていたいし」
「でもあいにく20年なんて待ちませんよ。たぶんあと数か月…長くても、一年はかからないはずだわ」。息苦しそうな声で、フェルンが割って入る
リーニエは無表情のまま、フェルンの皺深く老いた顔を見つめた。彼女との再会も、かれこれ70年近くぶりのことになる
思えばかつての強敵も、ずいぶんと衰えたものだ…とはいえリーニエは彼女の態度の端々に、不可解な余裕じみたものも感じていた
160
「リーニエ。あなたのお屋敷を、私の終の棲家にさせてもらいたいの。たぶん私の余命は、あと半年も残っていない。回復魔法の名僧もさじを投げているわ」
「…ワイ様の死んだお屋敷で、あなたも臨終を迎えたい。そういうこと?」
「そうよリーニエ。貴女は私に、借りがある…忘れてはいないわよね」
リーニエは目を逸らしつつ、いくぶん悔しそうにうなずく
「貴女の力ぞえが無ければ、私がワイ様の愛をつなぎ留めることができたかどうか、確信は持てない…それは認めるけど…」
「私がどうして貴女に力添えしたのか、理由は察しているわよね。魔族とはいえ私と同じ、女なのだから―――」
フリーレンが果汁を飲み干す前までに、リーニエはフェルンの申し出を承諾していた
「リーニエ。あなたのお屋敷を、私の終の棲家にさせてもらいたいの。たぶん私の余命は、あと半年も残っていない。回復魔法の名僧もさじを投げているわ」
「…ワイ様の死んだお屋敷で、あなたも臨終を迎えたい。そういうこと?」
「そうよリーニエ。貴女は私に、借りがある…忘れてはいないわよね」
リーニエは目を逸らしつつ、いくぶん悔しそうにうなずく
「貴女の力ぞえが無ければ、私がワイ様の愛をつなぎ留めることができたかどうか、確信は持てない…それは認めるけど…」
「私がどうして貴女に力添えしたのか、理由は察しているわよね。魔族とはいえ私と同じ、女なのだから―――」
フリーレンが果汁を飲み干す前までに、リーニエはフェルンの申し出を承諾していた
161
(そうだ…68年前の借りは、確かにある。返す時が来たんだ)
―――魔族の貴女が人間の男であるワイ様を、夜の営みで満たしてあげることは出来ない…貴女もワイ様も知らないようだけど、子をなすこともありえない。結局あなたとワイ様は、不幸な破局を迎えるしかない…
(あの時そういいながら彼女は、服を脱いで全裸になった。そして私を軽くハグしながら、耳元に囁いたんだ。“自分の体内の魔力を読みとれ”、と)
―――私なら…私なら絶対に、ワイ様を満足させられるわ。自信があるの。だから貴女に、私を“模倣”させてあげる。彼をつなぎ留めたいのなら受け取りなさい、リーニエ…
(そうだ…68年前の借りは、確かにある。返す時が来たんだ)
―――魔族の貴女が人間の男であるワイ様を、夜の営みで満たしてあげることは出来ない…貴女もワイ様も知らないようだけど、子をなすこともありえない。結局あなたとワイ様は、不幸な破局を迎えるしかない…
(あの時そういいながら彼女は、服を脱いで全裸になった。そして私を軽くハグしながら、耳元に囁いたんだ。“自分の体内の魔力を読みとれ”、と)
―――私なら…私なら絶対に、ワイ様を満足させられるわ。自信があるの。だから貴女に、私を“模倣”させてあげる。彼をつなぎ留めたいのなら受け取りなさい、リーニエ…
162
(彼女の魂胆を胡散臭くかつ不快、なにより不可解に思わなかったと言えば嘘になる。でも、私はワイ様のしもべ。その立場を不思議と、続けていきたいと願っていた。だから、拒む理由は無かった…)
果たしてその夜。“私の中のフェルン”を抱いたワイ様の、歓喜と感激。それに伴う私への、いっそう献身的なワイ様の愛情。それは間違いなく、自分が得た「不当な」報酬…
加えて料理のスキルをはじめとする、人間の主婦が持つべきさまざまな知識やスキルも、リーニエはフェルンから受け取ったのだ
なればこそ。今になってフェルンがリーニエに突きつけに来た「請求書」の額面も、安くはないが見合うものには違いないのだった…
―――生前のワイ様は貴女のものよ、リーニエ。だからせめて死後のワイ様に寄り添う役目は、私に務めさせて―――
(彼女の魂胆を胡散臭くかつ不快、なにより不可解に思わなかったと言えば嘘になる。でも、私はワイ様のしもべ。その立場を不思議と、続けていきたいと願っていた。だから、拒む理由は無かった…)
果たしてその夜。“私の中のフェルン”を抱いたワイ様の、歓喜と感激。それに伴う私への、いっそう献身的なワイ様の愛情。それは間違いなく、自分が得た「不当な」報酬…
加えて料理のスキルをはじめとする、人間の主婦が持つべきさまざまな知識やスキルも、リーニエはフェルンから受け取ったのだ
なればこそ。今になってフェルンがリーニエに突きつけに来た「請求書」の額面も、安くはないが見合うものには違いないのだった…
―――生前のワイ様は貴女のものよ、リーニエ。だからせめて死後のワイ様に寄り添う役目は、私に務めさせて―――
184創る名無しに見る名無し
2024/05/31(金) 23:41:45.64ID:3nBnSDm/ 8回目はここまでです。なお、次回で最終回。ハプニングが無ければ、明日も22〜24時くらいに投稿します
163
フェルンが故ワイの屋敷に居候しはじめてから、ちょうど半年に届く七日前…
故人ワイの配偶者にして遺産相続人リーニエ未亡人の訃報が、グラナト伯爵領内を駆け巡った
「故ワイさまの奥方様が、身罷られたそうだ。それもよりによって、ワイ様の一周忌とおなじ日に…!」
さっそくワイの後継者となった養子の息子、伯の妃となった養子の娘が一家総出で、ワイ家に集まる
「ついこの前まで、かくしゃくとしていらっしゃったのに、何故…?」
「先代様を亡くして、奥方様も命数が尽き果てたのかもしれんね。先代様の後を、追われたのでしょう」
フェルンが故ワイの屋敷に居候しはじめてから、ちょうど半年に届く七日前…
故人ワイの配偶者にして遺産相続人リーニエ未亡人の訃報が、グラナト伯爵領内を駆け巡った
「故ワイさまの奥方様が、身罷られたそうだ。それもよりによって、ワイ様の一周忌とおなじ日に…!」
さっそくワイの後継者となった養子の息子、伯の妃となった養子の娘が一家総出で、ワイ家に集まる
「ついこの前まで、かくしゃくとしていらっしゃったのに、何故…?」
「先代様を亡くして、奥方様も命数が尽き果てたのかもしれんね。先代様の後を、追われたのでしょう」
164
故人の遺志により、葬儀はごく近しい親族だけの手による、きわめてしめやかかつ簡潔なものとなった
それでも伯爵領内きっての素封家リーニエ夫人の棺は贅を尽くしたものであり、喪主である養子兄妹の心配りが随所にみられる仕切り具合ではあった
故人の遺志にもとづき、棺は亡夫であるワイの隣に納められた。ただし兄妹は葬儀を終えた後で、妙な表情を浮かべつつ語らいあったのだ
「なあ。俺たちが納棺した遺体、確かに養母(かあ)さんのものだったよな?」
「…兄さんも、おかしいと思った? 気のせいだと思ってたんだけど…体格とか肉付きとかがなんだか、ちょっと大きめだったよね」
「顔立ちは間違いなく養母さんだったし、他の人らは気づいたふうでも無かったが…遺体が水膨れでも、していたのかな?」
故人の遺志により、葬儀はごく近しい親族だけの手による、きわめてしめやかかつ簡潔なものとなった
それでも伯爵領内きっての素封家リーニエ夫人の棺は贅を尽くしたものであり、喪主である養子兄妹の心配りが随所にみられる仕切り具合ではあった
故人の遺志にもとづき、棺は亡夫であるワイの隣に納められた。ただし兄妹は葬儀を終えた後で、妙な表情を浮かべつつ語らいあったのだ
「なあ。俺たちが納棺した遺体、確かに養母(かあ)さんのものだったよな?」
「…兄さんも、おかしいと思った? 気のせいだと思ってたんだけど…体格とか肉付きとかがなんだか、ちょっと大きめだったよね」
「顔立ちは間違いなく養母さんだったし、他の人らは気づいたふうでも無かったが…遺体が水膨れでも、していたのかな?」
165
それに―――養母の遺体が古ぼけた、見るからに安物の赤いネックレスを着けていたことも、些細なことかもしれないが養子兄妹には気になる点だった
わざわざ故人の遺志で着けているほどお気に入りの装身具にしては、生前のリーニエ養母さんがそれを着けた姿を、見た覚えが無いのである
しかし二人はそこで話題を変えてしまい、それ以上に疑惑を追及することはやめた
どのみち葬送は終わったのだ。すでにかれら遺族の関心は財産分与を、つまらぬ亀裂のもとにならぬよう注意深く進めることに傾いていた
それに―――養母の遺体が古ぼけた、見るからに安物の赤いネックレスを着けていたことも、些細なことかもしれないが養子兄妹には気になる点だった
わざわざ故人の遺志で着けているほどお気に入りの装身具にしては、生前のリーニエ養母さんがそれを着けた姿を、見た覚えが無いのである
しかし二人はそこで話題を変えてしまい、それ以上に疑惑を追及することはやめた
どのみち葬送は終わったのだ。すでにかれら遺族の関心は財産分与を、つまらぬ亀裂のもとにならぬよう注意深く進めることに傾いていた
166
「養母さんの屋敷は当面、おれたち兄妹の共同で管理するとして…」と、兄。
「そういえば屋敷に逗留していたフリーレンとかいう客人の一行は、今どこにいるんだ? 葬儀には、参列していたばずだが」
「間が悪くて兄さんには挨拶できずじまいだったけど、納棺に立ち会ったあとすぐ屋敷を出立したわ。兄さんによろしく、と言ってた…」と、妹
「死んだ父さんの旧知で町の恩人だと聞くけれど、それにしてもやけに長逗留だったみたいね」
「ふうん」。兄は腕を組む。「一行の一人でフェルンとかいう老女は、着くなり寝たきりだったと屋敷の使用人が言ってたな。彼女も引き払ったのか?」
「ええ。でも出発の時はひどく元気で、自分の足で歩いていたわ」
「養母さんの屋敷は当面、おれたち兄妹の共同で管理するとして…」と、兄。
「そういえば屋敷に逗留していたフリーレンとかいう客人の一行は、今どこにいるんだ? 葬儀には、参列していたばずだが」
「間が悪くて兄さんには挨拶できずじまいだったけど、納棺に立ち会ったあとすぐ屋敷を出立したわ。兄さんによろしく、と言ってた…」と、妹
「死んだ父さんの旧知で町の恩人だと聞くけれど、それにしてもやけに長逗留だったみたいね」
「ふうん」。兄は腕を組む。「一行の一人でフェルンとかいう老女は、着くなり寝たきりだったと屋敷の使用人が言ってたな。彼女も引き払ったのか?」
「ええ。でも出発の時はひどく元気で、自分の足で歩いていたわ」
167
兄の中で、いっそう違和感が強くなった。それは名状しがたい疑念と不安も含んでいた。だがワイ家新当主の彼には、他にも考えるべき俗事が多すぎた
ゆえに養母リーニエの客人たちに関しても兄は、それ以上考えるのを止めたのである
勇者ヒンメルの死から97年後にして、グラナト伯爵領の名士ワイが死んで一年―――
リーニエ未亡人の葬儀から解放され、すっかり規模の大きくなった伯爵領の都城を背に、フリーレン一行は進んでいく
伯爵領を訪問したときには、寝たきりの老いた半病人を乗せた輿馬を揺らさぬようゆっくりした歩みであったが、今は初老ながら頑健なシュタルクが、荷馬一頭を曳くだけだ
つれのフリーレンともう一人、ツインテールをした女は、ともに見た目が年頃の少女である。女ながら肉体の若さに任せ、しっかりした足取りで歩を進めている
兄の中で、いっそう違和感が強くなった。それは名状しがたい疑念と不安も含んでいた。だがワイ家新当主の彼には、他にも考えるべき俗事が多すぎた
ゆえに養母リーニエの客人たちに関しても兄は、それ以上考えるのを止めたのである
勇者ヒンメルの死から97年後にして、グラナト伯爵領の名士ワイが死んで一年―――
リーニエ未亡人の葬儀から解放され、すっかり規模の大きくなった伯爵領の都城を背に、フリーレン一行は進んでいく
伯爵領を訪問したときには、寝たきりの老いた半病人を乗せた輿馬を揺らさぬようゆっくりした歩みであったが、今は初老ながら頑健なシュタルクが、荷馬一頭を曳くだけだ
つれのフリーレンともう一人、ツインテールをした女は、ともに見た目が年頃の少女である。女ながら肉体の若さに任せ、しっかりした足取りで歩を進めている
168
「シュタルク…」。ふいにツインテールの娘が、連れに声をかける。「母親とはあんな別れ方で、本当に良かったの?」
「本人が望んだことですから」とシュタルク、妙に素っ気ない。「俺の認識阻害魔法でリーニエさんになりすまし、ワイ家の墓に納まるのが亡母の願いでした」
「完璧とまではいかなかったが、バレずに済んでまずは上出来だな。母さんもあの世で得意だろう。それに…」とフリーレン、そこでツインテールの娘の方に視線を向ける
「結果としてお前も怪しまれることなく、グラナト伯爵領から抜け出せたというわけだ、リーニエ。
お前にはフェルンの死後ただちに、老いたフェルンに見えるように認識阻害魔法をかけておいたが、それも解除しておくとしよう…他人には、角が見えないだけにする。これで自由の身というわけだ」
「シュタルク…」。ふいにツインテールの娘が、連れに声をかける。「母親とはあんな別れ方で、本当に良かったの?」
「本人が望んだことですから」とシュタルク、妙に素っ気ない。「俺の認識阻害魔法でリーニエさんになりすまし、ワイ家の墓に納まるのが亡母の願いでした」
「完璧とまではいかなかったが、バレずに済んでまずは上出来だな。母さんもあの世で得意だろう。それに…」とフリーレン、そこでツインテールの娘の方に視線を向ける
「結果としてお前も怪しまれることなく、グラナト伯爵領から抜け出せたというわけだ、リーニエ。
お前にはフェルンの死後ただちに、老いたフェルンに見えるように認識阻害魔法をかけておいたが、それも解除しておくとしよう…他人には、角が見えないだけにする。これで自由の身というわけだ」
169
だが認識疎外魔法を更新されている間にもリーニエは特にフリーレンに注意を向けるでもなく、ひたすらシュタルクを見つめていたのである
もはや町の人間の耳目を案じずともよい無人の林道に在って、ようやく問いたいことが問えるぞと言わんばかりの、じりじりしている風情であった
リーニエの視線に、いやでも気が付くシュタルク。「どうかしましたか? 何か俺に、聞きたいことでも?」
リーニエがついに口を開く
「フェルンが死ぬまでは敢えて遠慮していたが、やはりどうしても聞きたい。フェルンの息子シュタルクよ、あなたの父親は誰? 存命している?」
「さ、さあねぇ…母は俺を身一つで育ててたんで、父親の顔は知りません。俺も母さえいれば、十分だったし…」
そう応じるシュタルクの声は気まずそうというも、どこかぎこちない
「じゃあ、父親の名も知らないんだ」
「手がかりは、あるといえばあるんです」。そういいつつ、シュタルクはふと右手をかざした。その小指に、指輪が鈍く光る
だが認識疎外魔法を更新されている間にもリーニエは特にフリーレンに注意を向けるでもなく、ひたすらシュタルクを見つめていたのである
もはや町の人間の耳目を案じずともよい無人の林道に在って、ようやく問いたいことが問えるぞと言わんばかりの、じりじりしている風情であった
リーニエの視線に、いやでも気が付くシュタルク。「どうかしましたか? 何か俺に、聞きたいことでも?」
リーニエがついに口を開く
「フェルンが死ぬまでは敢えて遠慮していたが、やはりどうしても聞きたい。フェルンの息子シュタルクよ、あなたの父親は誰? 存命している?」
「さ、さあねぇ…母は俺を身一つで育ててたんで、父親の顔は知りません。俺も母さえいれば、十分だったし…」
そう応じるシュタルクの声は気まずそうというも、どこかぎこちない
「じゃあ、父親の名も知らないんだ」
「手がかりは、あるといえばあるんです」。そういいつつ、シュタルクはふと右手をかざした。その小指に、指輪が鈍く光る
170
「これ。もうすっかり古びていますけど、母の魔法が込められた形見でね。俺の父親との想い出が、ぜんぶ封じてあるそうです…
生前の母は『自分の口からお前の父についてあれこれ言いたくないが、黙秘するつもりもない。知りたければ、これを使え』と、言ってました」
「シュタルクは母からひと通り魔法の手ほどきを受けているから、解読呪文を詠唱すれば指輪から記憶情報を得ることができるはずさ」と、フリーレンが割って入る
「でもそれをやったこと、ないんです」と、シュタルク。「父親が、他の女と結婚したってことだけは聞いてるもんでね。その気になれなかった。それに…」
「これ。もうすっかり古びていますけど、母の魔法が込められた形見でね。俺の父親との想い出が、ぜんぶ封じてあるそうです…
生前の母は『自分の口からお前の父についてあれこれ言いたくないが、黙秘するつもりもない。知りたければ、これを使え』と、言ってました」
「シュタルクは母からひと通り魔法の手ほどきを受けているから、解読呪文を詠唱すれば指輪から記憶情報を得ることができるはずさ」と、フリーレンが割って入る
「でもそれをやったこと、ないんです」と、シュタルク。「父親が、他の女と結婚したってことだけは聞いてるもんでね。その気になれなかった。それに…」
171
「それに『今回の旅とフェルンが埋葬された場所を見れば、おのずと答えは一つしかない』…そうだよね?」
「ええ、そうですともリーニエさん。貴女にとっても、決して愉快な話じゃないことは分かっていますけどね。でも―――」
「させない…」
「え?」
シュタルクとフリーレンが驚いてリーニエを見つめる。リーニエの手に、白い魔力の光が宿っていた
「そのピンキーリングは、ワイ様がしていたものとおなじものだ。あの女は…フェルンは…」
リーニエの放った光弾が、シュタルクに向けて飛ぶ。閃光に驚いた荷馬が嘶いて走り去り、衝撃波に驚いた隕鉄鳥のつがいが、木の枝から飛びたっていく
「それに『今回の旅とフェルンが埋葬された場所を見れば、おのずと答えは一つしかない』…そうだよね?」
「ええ、そうですともリーニエさん。貴女にとっても、決して愉快な話じゃないことは分かっていますけどね。でも―――」
「させない…」
「え?」
シュタルクとフリーレンが驚いてリーニエを見つめる。リーニエの手に、白い魔力の光が宿っていた
「そのピンキーリングは、ワイ様がしていたものとおなじものだ。あの女は…フェルンは…」
リーニエの放った光弾が、シュタルクに向けて飛ぶ。閃光に驚いた荷馬が嘶いて走り去り、衝撃波に驚いた隕鉄鳥のつがいが、木の枝から飛びたっていく
172
シュタルクが恐る恐る目を開ける。彼の身には傷一つない。ただ、さっきまで小指にはめていたピンキーリングは跡形も無く消滅していた
「フェルンは、想い出だけをその指輪に込めたのではない…!」
リーニエは自分でも驚くほど激しく、声を荒げていた。「同じ指輪をはめた男の精を、受胎できるように魔力で小細工をしていたんだ!」
その場に居る全員が魔法使いであり、指輪の隠れた機能も、疑いをもって分析すれば察することができるものではあった。果たしてシュタルクはうつむく
「ま、そんなところだろうと察しては、いたんだけどね」と、フリーレン。「でも、シュタルクを殺すというなら私は阻止するよ。それでも殺る気かいリーニエ?」
「できない! 私は…わたしは天秤の呪縛を、ワイ様の命令を、受けている身だから」
シュタルクが恐る恐る目を開ける。彼の身には傷一つない。ただ、さっきまで小指にはめていたピンキーリングは跡形も無く消滅していた
「フェルンは、想い出だけをその指輪に込めたのではない…!」
リーニエは自分でも驚くほど激しく、声を荒げていた。「同じ指輪をはめた男の精を、受胎できるように魔力で小細工をしていたんだ!」
その場に居る全員が魔法使いであり、指輪の隠れた機能も、疑いをもって分析すれば察することができるものではあった。果たしてシュタルクはうつむく
「ま、そんなところだろうと察しては、いたんだけどね」と、フリーレン。「でも、シュタルクを殺すというなら私は阻止するよ。それでも殺る気かいリーニエ?」
「できない! 私は…わたしは天秤の呪縛を、ワイ様の命令を、受けている身だから」
173
フリーレンは、微笑した。「ワイの目に狂いはなかったか。リーニエ、やはりお前は生きるべきだ」
「フリーレン。貴女はシュタルクの父親がワイ様だと、知っていたんだよね?」と、なおも恨みがましいリーニエ
「フェルンの目論見も、知ってて止めなかったのね?」
暗い憎悪がリーニエの全身から尋常ならざる魔力を解放し、白い渦を巻きながらいまや林道一帯を覆っている。シュタルクは覚悟した。ここで下手を打つと命はともかく、骨の二本か三本は折られかねない…
「もしリーニエがワイの子を産めたのなら、止めてたと思うよ」とフリーレンは、肩をすくめる
「それが不可能と分かっていたからね。ならば長い目で見て、お前にも悪い話じゃないだろうと思ってさ」
フリーレンは、微笑した。「ワイの目に狂いはなかったか。リーニエ、やはりお前は生きるべきだ」
「フリーレン。貴女はシュタルクの父親がワイ様だと、知っていたんだよね?」と、なおも恨みがましいリーニエ
「フェルンの目論見も、知ってて止めなかったのね?」
暗い憎悪がリーニエの全身から尋常ならざる魔力を解放し、白い渦を巻きながらいまや林道一帯を覆っている。シュタルクは覚悟した。ここで下手を打つと命はともかく、骨の二本か三本は折られかねない…
「もしリーニエがワイの子を産めたのなら、止めてたと思うよ」とフリーレンは、肩をすくめる
「それが不可能と分かっていたからね。ならば長い目で見て、お前にも悪い話じゃないだろうと思ってさ」
174
「『悪い話じゃない』…どうして?」
「ワイが逝った後も、お前は長く生きねばならない。何百年も、あるいは何千年もだ。それもワイへの服従の呪縛を、抱えたまま」
フリーレンは目を細める。何かを思い出しながら語っているかのように、リーニエには見えた
「それでもお前はワイの血が受け継がれた人々を、これからも見続けていられるんだ。それってある意味で、フェルンの贈り物ともいえるんじゃないかな?」
「贈り物…?」
復唱するリーニエの声音に、妥協の気配はない。「そんなお為ごかしで、誤魔化さないで。ワイ様の許しも無く、彼の子をなしたフェルンの背信は明らかです!」
「『悪い話じゃない』…どうして?」
「ワイが逝った後も、お前は長く生きねばならない。何百年も、あるいは何千年もだ。それもワイへの服従の呪縛を、抱えたまま」
フリーレンは目を細める。何かを思い出しながら語っているかのように、リーニエには見えた
「それでもお前はワイの血が受け継がれた人々を、これからも見続けていられるんだ。それってある意味で、フェルンの贈り物ともいえるんじゃないかな?」
「贈り物…?」
復唱するリーニエの声音に、妥協の気配はない。「そんなお為ごかしで、誤魔化さないで。ワイ様の許しも無く、彼の子をなしたフェルンの背信は明らかです!」
175
「もちろんこれが彼女の“抵抗”でもあるのは、否定しないよ」。フリーレンはリーニエのただならぬ怒りの表情を読み取り、先立った弟子の弁護を諦めた
そのかわり黙ってトランクカバンを地面に置いて中を開き、ある品物を取り出したのである。「…これ、覚えてるよね?」
すでに機能しないほど歪に変形してはいたが、忘れるはずもない。それはまぎれもなくワイとリーニエの絆を取り結んだ“運命”の呪物だった
果たして、リーニエは眉を顰める。「服従の天秤…でも、なんで壊れてるの? たとえ岩の下敷きになっても、傷一つつかないはずなのに」
「壊したのはフェルンだよ。そうとう骨折っていたけどね。一級魔法使いフェルンの生涯でも、最盛期の最大魔力ではじめて可能だった仕事さ」
「もちろんこれが彼女の“抵抗”でもあるのは、否定しないよ」。フリーレンはリーニエのただならぬ怒りの表情を読み取り、先立った弟子の弁護を諦めた
そのかわり黙ってトランクカバンを地面に置いて中を開き、ある品物を取り出したのである。「…これ、覚えてるよね?」
すでに機能しないほど歪に変形してはいたが、忘れるはずもない。それはまぎれもなくワイとリーニエの絆を取り結んだ“運命”の呪物だった
果たして、リーニエは眉を顰める。「服従の天秤…でも、なんで壊れてるの? たとえ岩の下敷きになっても、傷一つつかないはずなのに」
「壊したのはフェルンだよ。そうとう骨折っていたけどね。一級魔法使いフェルンの生涯でも、最盛期の最大魔力ではじめて可能だった仕事さ」
176
「…なぜ、何故そんなことを。もしかして、物に八つ当たり? 確かに、その天秤無くして私とワイ様は結ばれなかっただろうけど―――」
リーニエの問いに、フリーレンは首を振る。「自分が使わないためだよ。正しくは、使いたくなる思いを断ち切るため、というべきかな」
「…?」。リーニエが、怪訝そうに眉をひそめる。だがシュタルクは、何か戸惑うように目を伏せていた
「誰にでも思いつくことさ」と、フリーレン。「ワイがリーニエにしたことと同じことをフェルンがワイにしたとしたら、どうなると思う?」
リーニエが、ハッとした顔をする。フリーレンが畳みかける
「当代最高の魔法使いフェルンが天秤を使ったなら、ワイを服従させていたはずだ。だが彼女は、そうしなかった。理由は二つ。一つは、それが理に背くから―――」
「…なぜ、何故そんなことを。もしかして、物に八つ当たり? 確かに、その天秤無くして私とワイ様は結ばれなかっただろうけど―――」
リーニエの問いに、フリーレンは首を振る。「自分が使わないためだよ。正しくは、使いたくなる思いを断ち切るため、というべきかな」
「…?」。リーニエが、怪訝そうに眉をひそめる。だがシュタルクは、何か戸惑うように目を伏せていた
「誰にでも思いつくことさ」と、フリーレン。「ワイがリーニエにしたことと同じことをフェルンがワイにしたとしたら、どうなると思う?」
リーニエが、ハッとした顔をする。フリーレンが畳みかける
「当代最高の魔法使いフェルンが天秤を使ったなら、ワイを服従させていたはずだ。だが彼女は、そうしなかった。理由は二つ。一つは、それが理に背くから―――」
177
「でも。でもワイ様は、かれは私に天秤を使ったわ。“ワイは理に背いた”と、フリーレンは言うの?」と、詰問調になるリーニエ。然るにフリーレンは首を振る
「ワイがお前に天秤を使った時点で、お前は誰の部下で誰と敵対していたんだ?」
「そ、それは―――」。そのときリーニエの記憶が、鮮やかによみがえっていた。「もちろん私はリュグナーの部下で、ワイ様を斃そうとしてた」
「そう。お前は魔族で、ワイとは互いに互いを討滅すべき天敵同士。いっぽうフェルンとワイは同じ人間で、ましてパーティの“戦友”…立場と言うか、関係性の違いだよ。ワイは、フェルンが天秤を使ってよい相手ではないんだ
だけどもちろん、それだけが理由ではない。もっと大事な理由がある。それは―――」
「母が、“負け”を認めた。そういうことですよね?」。まだ微かに息を弾ませつつも、シュタルクが口を挟んだ
「ワイさんがリーニエさんを選んだのは、明白だった。なのに 魔族の道具を使ってワイさんを自分に従わせるなんてまねは、俺の母にできることじゃない」
「でも。でもワイ様は、かれは私に天秤を使ったわ。“ワイは理に背いた”と、フリーレンは言うの?」と、詰問調になるリーニエ。然るにフリーレンは首を振る
「ワイがお前に天秤を使った時点で、お前は誰の部下で誰と敵対していたんだ?」
「そ、それは―――」。そのときリーニエの記憶が、鮮やかによみがえっていた。「もちろん私はリュグナーの部下で、ワイ様を斃そうとしてた」
「そう。お前は魔族で、ワイとは互いに互いを討滅すべき天敵同士。いっぽうフェルンとワイは同じ人間で、ましてパーティの“戦友”…立場と言うか、関係性の違いだよ。ワイは、フェルンが天秤を使ってよい相手ではないんだ
だけどもちろん、それだけが理由ではない。もっと大事な理由がある。それは―――」
「母が、“負け”を認めた。そういうことですよね?」。まだ微かに息を弾ませつつも、シュタルクが口を挟んだ
「ワイさんがリーニエさんを選んだのは、明白だった。なのに 魔族の道具を使ってワイさんを自分に従わせるなんてまねは、俺の母にできることじゃない」
178
フリーレンはうなずき、リーニエを正視する
「フェルンにはフェルンの無念があった。ワイと過ごしたかった時間の全てを、お前に奪われてしまったんだ
そしてワイの心の中には、お前しか居なかった。敗者フェルンのはかない抵抗に、お前は寛大であっていいはずだ」
リーニエの握りしめた拳が、徐々に力を失っていく。彼女の進退から湧き上がる魔力の渦が、場末の季節風が衰えるかのように急激に弱まっていく
ワイ様のぬくもりを、自分の肌は今でも鮮やかに思い出せる。それはフェルンが渇望しつつ、遂に得られなかったものではなかったか…?
フリーレンはうなずき、リーニエを正視する
「フェルンにはフェルンの無念があった。ワイと過ごしたかった時間の全てを、お前に奪われてしまったんだ
そしてワイの心の中には、お前しか居なかった。敗者フェルンのはかない抵抗に、お前は寛大であっていいはずだ」
リーニエの握りしめた拳が、徐々に力を失っていく。彼女の進退から湧き上がる魔力の渦が、場末の季節風が衰えるかのように急激に弱まっていく
ワイ様のぬくもりを、自分の肌は今でも鮮やかに思い出せる。それはフェルンが渇望しつつ、遂に得られなかったものではなかったか…?
179
「フリーレン…」
「それならそれで『騙して子ども作るのは、どうなんだ?』って顔だねリーニエ。でも人間の情ってのは、一筋縄ではいかないものだよ―――
ま、あの世でフェルンと再会して真相を知らされたワイがどんな顔をしているかと想うと、ちょっと気の毒な気もするけどね」
暫しの沈黙があった。リーニエは、もはや何も言わなかった。だがその可憐な双眸からは、すでに怒気が去っている
シュタルクはなおも緊張を解ききれない面持ちではあったが、リーニエのぼんやりした表情に安堵してもいた
彼は口笛を吹いた。いったんは逃げた馬が、引き返してくる。シュタルクは手慣れた動作で、再びくつわを手に取る
「空模様が怪しい。一雨来るかもしれませんな。早く次の町に、向かいましょう」
「フリーレン…」
「それならそれで『騙して子ども作るのは、どうなんだ?』って顔だねリーニエ。でも人間の情ってのは、一筋縄ではいかないものだよ―――
ま、あの世でフェルンと再会して真相を知らされたワイがどんな顔をしているかと想うと、ちょっと気の毒な気もするけどね」
暫しの沈黙があった。リーニエは、もはや何も言わなかった。だがその可憐な双眸からは、すでに怒気が去っている
シュタルクはなおも緊張を解ききれない面持ちではあったが、リーニエのぼんやりした表情に安堵してもいた
彼は口笛を吹いた。いったんは逃げた馬が、引き返してくる。シュタルクは手慣れた動作で、再びくつわを手に取る
「空模様が怪しい。一雨来るかもしれませんな。早く次の町に、向かいましょう」
180
フリーレンもうなずき、手早くカバンに壊れた天秤をしまいこむと先ほどよりやや速い歩みで、進み始めた。リーニエは黙ってその背中に、ついてゆく
「こんな必然もあるんだね…」。シュタルクの白みがかった赤毛の後頭部を凝視しながら、リーニエは小声でそうつぶやいていた
彼女の脳裡に、斧をふるうアイゼンの姿がよみがえる。ワイの放った閃天撃の衝撃が、天秤に魂を乗せ勝ったときの彼の歓喜の表情が、若き日のフェルンの思いつめた面持ちが―――
「ワイ様と戦った時に、思った通りだ。つくづく運命は面白い…」。その先は、声には出なかった。それでも心の中で独り言ちる
(だけどひどく、やるせ無い…)
ぽつぽつと、小雨の粒がリーニエの顔に当たりはじめる。どうやら、濡れずに今宵の宿までたどり着くのは無理そうだ―――
「奥様は美少女まぞく」 完
フリーレンもうなずき、手早くカバンに壊れた天秤をしまいこむと先ほどよりやや速い歩みで、進み始めた。リーニエは黙ってその背中に、ついてゆく
「こんな必然もあるんだね…」。シュタルクの白みがかった赤毛の後頭部を凝視しながら、リーニエは小声でそうつぶやいていた
彼女の脳裡に、斧をふるうアイゼンの姿がよみがえる。ワイの放った閃天撃の衝撃が、天秤に魂を乗せ勝ったときの彼の歓喜の表情が、若き日のフェルンの思いつめた面持ちが―――
「ワイ様と戦った時に、思った通りだ。つくづく運命は面白い…」。その先は、声には出なかった。それでも心の中で独り言ちる
(だけどひどく、やるせ無い…)
ぽつぽつと、小雨の粒がリーニエの顔に当たりはじめる。どうやら、濡れずに今宵の宿までたどり着くのは無理そうだ―――
「奥様は美少女まぞく」 完
以上で「奥様は美少女まぞく」は完結です。9日間にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました
リーシュタは尊い。リーニエ(cv・石見舞菜香)は可愛い。「葬送のフリーレン」でいちばん推せるキャラ、それがリーニエ
シュタルクも、もう少し余裕があったら「あ、この娘かわいいやん。殺すの勿体ない」と、考えたのではあるまいか…?
たしかに出会いの形は最悪だった。最初から対決の構図だったし実質チーム戦だから、シュタルクvsリーニエも二人の都合だけではやめにくい
リーシュタは尊い。リーニエ(cv・石見舞菜香)は可愛い。「葬送のフリーレン」でいちばん推せるキャラ、それがリーニエ
シュタルクも、もう少し余裕があったら「あ、この娘かわいいやん。殺すの勿体ない」と、考えたのではあるまいか…?
たしかに出会いの形は最悪だった。最初から対決の構図だったし実質チーム戦だから、シュタルクvsリーニエも二人の都合だけではやめにくい
だとしてもシュタルク、ちょっと朴念仁すぎる感じだった
(よく考えてみると、あの魔族って鹿目まどか似で、かわいかったよなあ…)と、惜しむ描写くらいは欲しかった
リーニエの可憐さに少しも靡くことなく、あっさり討ち取ったあげくフリーレンに手柄を褒められてドヤ顔になっているシュタルク…
リーニエファンの目にはなんとも無粋で、つまらない男に見えてしまう><
かくなるうえはワイが「葬送のフリーレン」二次創作を、やるしかない(使命感)
そう思うと矢も楯もたまらず、本作を書き上げてしまいました。
原作の世界観をなるべく継承したいという思いもあり、フェルンとリーニエでワイを半分こする展開になったのはご愛敬…
それでは、お粗末様でした(@^^)/~~~
―――終わり―――
(よく考えてみると、あの魔族って鹿目まどか似で、かわいかったよなあ…)と、惜しむ描写くらいは欲しかった
リーニエの可憐さに少しも靡くことなく、あっさり討ち取ったあげくフリーレンに手柄を褒められてドヤ顔になっているシュタルク…
リーニエファンの目にはなんとも無粋で、つまらない男に見えてしまう><
かくなるうえはワイが「葬送のフリーレン」二次創作を、やるしかない(使命感)
そう思うと矢も楯もたまらず、本作を書き上げてしまいました。
原作の世界観をなるべく継承したいという思いもあり、フェルンとリーニエでワイを半分こする展開になったのはご愛敬…
それでは、お粗末様でした(@^^)/~~~
―――終わり―――
206◆SNuCULWjUI
2024/06/08(土) 20:29:09.34ID:nfyFP/k1 筆のすさびで、こんなのも書いてしまいました。ご笑覧あれ…
フリーレン「アウラ、じ…」 アウラ「じ、じっ、自慰ですかっ? 公開オナニーですねっ?」
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1717832568/
フリーレン「アウラ、じ…」 アウラ「じ、じっ、自慰ですかっ? 公開オナニーですねっ?」
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1717832568/
207あぼーん
NGNGあぼーん
208創る名無しに見る名無し
2024/06/11(火) 20:09:02.69ID:AC38q/xW >>207
まだやってたんだもう現金にしたよ
まだやってたんだもう現金にしたよ
209創る名無しに見る名無し
2024/06/15(土) 13:43:35.26ID:IX2SHhHF210◆SNuCULWjUI
2024/07/12(金) 21:17:54.29ID:IGR3rc30 >>209
ありがとう
ついでに即興で作ったGの二次SSも、置いときます。後悔はしていない…
ガルマ「『イセリナと結婚するのでジオン捨てます』、と…」φ(・ω・`)
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1720678551/l50
ありがとう
ついでに即興で作ったGの二次SSも、置いときます。後悔はしていない…
ガルマ「『イセリナと結婚するのでジオン捨てます』、と…」φ(・ω・`)
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1720678551/l50
211創る名無しに見る名無し
2024/07/16(火) 16:07:52.18ID:zEX2mnmT ロンド・ベルの南極降下作戦、開始――!!
トロール族の真実を知らされ自分自身を見失うハッケヨイは、ネオ・ジオンの軍服に身を包み強化型チヨノフ・ガンダムで出撃する。
連邦、ネオ・ジオン、ルオ商会……様々な思惑が交差する南極で、再び戦端が開かれる……!
トロール族の真実を知らされ自分自身を見失うハッケヨイは、ネオ・ジオンの軍服に身を包み強化型チヨノフ・ガンダムで出撃する。
連邦、ネオ・ジオン、ルオ商会……様々な思惑が交差する南極で、再び戦端が開かれる……!
212創る名無しに見る名無し
2024/07/24(水) 22:43:36.99ID:cRwTTM0F 操作、で、錚々
さうさう
さうさう
213創る名無しに見る名無し
2024/07/25(木) 17:36:37.27ID:zsPTjMJM で、ハッケヨイとガンダムが朝マックを食べに行くと。
214創る名無しに見る名無し
2024/07/26(金) 15:34:40.09ID:MXW7Uvzu おう
215創る名無しに見る名無し
2024/07/28(日) 23:49:13.01ID:Abtpk8XF ガンダムはマック食べない
216創る名無しに見る名無し
2024/07/29(月) 13:44:32.17ID:XvlSUFsM ガンダム「ビッグマック美味えな、おい」
217創る名無しに見る名無し
2024/07/29(月) 23:28:52.69ID:gtMnZ8kk ガンダム「一定水準のレベルの美味さだ」
218創る名無しに見る名無し
2024/07/31(水) 03:36:39.75ID:e5y0cB1U ガンダム「店主よ、このビッグマックのレシピを教えてはもらえないだろうか?」
219創る名無しに見る名無し
2024/08/12(月) 06:26:53.99ID:qHFqAZwI 店主「ああ、こう作るんだ。よく見とけよ」
バンババンババババン
店主「どうや、簡単やろ?」
ガンダム「肉をパンで挟むんですね」
店主「せや、肉は何の肉でもかまわん。これでお前は支店長や。頑張れよ」
ガンダムは地元にハンバーガ屋を開店した。
わ
バンババンババババン
店主「どうや、簡単やろ?」
ガンダム「肉をパンで挟むんですね」
店主「せや、肉は何の肉でもかまわん。これでお前は支店長や。頑張れよ」
ガンダムは地元にハンバーガ屋を開店した。
わ
220創る名無しに見る名無し
2024/09/04(水) 20:35:34.88ID:h1Qdyn0U 早々のフリーター
221創る名無しに見る名無し
2024/12/16(月) 01:02:28.98ID:xr81mQEy 【リレー小説】ふみえさんはいつも突然に 33
https://egg.5ch.net/test/read.cgi/owarai/1732352885/
https://egg.5ch.net/test/read.cgi/owarai/1732352885/
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