男から目を離し、携帯を見ている間にどこかにいってしまったのか、男の声は聞こえなくなった。


電車到着の放送が流れ、ホームに向き直すと、耳元で


「知りませんかあ?」


男の顔が俺の顔のすぐ横にあった。俺は腰を抜かしそうになった。


パァーッと警報が響き、直後に電車がホームに入ってきた。よろめいた俺は白線の外に出てしまっていたようだ。一瞬のことだった。


しかし消えてしまったかのように男はいなくなっていた。男の吐息が耳元に残っている。絶対に気のせいではない。


回りの視線がちょっと気になったので、電車は一本見合せた。


ホームをよく見て回ったが、男の姿はなかった。以来その男は見ていない。