【記者部門】編集局幹部講演 会社説明会報告から一部抜粋
(全文は http://www.nikkei.co.jp/saiyo/06saiyou/02/kisha_kouen_f.html )
日本経済新聞社東京本社編集局総務 小孫茂(7月26日)

このところ日本経済新聞は、多くのメディアで報道される立場に立っておりまして、知名度が、いい意味でも悪い意味でも非常に上がってしまいました。
そのうちの一つが、昨日、広告局の社員が逮捕されたインサイダー取引の容疑です。
もう一つは昭和天皇の発言に関する元宮内庁長官メモの報道です。
こういう時期ですのでこの二つの日経を巡るできごとに則して、日経の求める人材と編集方針という話をさせていただきます。

(略)
ブランド価値
 2つ目の話題は、元宮内庁長官の日記と手帳に関する報道の件です。
昭和天皇が太平洋戦争のA級戦犯の靖国神社合祀について不快感を示していたという報道をしました。
これは1面トップで取り上げ、国際的なスクープになりました。
 日経がなぜ報道したかというのは、新聞としての原点で考えたということです。

いろいろな検証の結果、正しいと判断した事実があります。
これを1カ月か1カ月半後のなんらかの政治的なイベントに影響を与えかねないから押さえ、1年後に公表したとします。これこそまさしく政治的利用と言えるのではないでしょうか。
 正しいと検証された歴史的な事実は読者に早く伝える、それが政治的にどういう影響を与えようと、読者にまず知らせるという行動をとる。
これは新聞に限らずメディアの非常に重要な基本であり、日経は日経としての編集方針を忠実に守って掲載しました。
 問題は、なぜ日経にこの情報がもたらされたかということです。ここをじっくり考えていただきたい。
日経というのは、偏らないで、中立で、妙なメッセージを押し付けないという定評をもっています。
これが実は記者にも徹底しており、担当記者にもそういう意識は相当十分に浸透しています。
そういう記者への信頼、日経という組織への信頼がそろったからこそこの歴史的資料を日経にもたらすという事実を生んだものと考えています。
 客観的にきたものを正しいと判断すれば、勇気をもって読者に提供するという、これまで伝統的に培ってきた基本姿勢が今回の大きなネタを日経に呼び込んだと思っています。
 この中立性というのは、一言で言うと無味乾燥のように見えますが、実はこれを維持するのは非常にむずかしいのです。
それを維持する努力が日経のブランド価値になっていますし、それが日経の最大の編集方針です。
そういう姿勢をもっていることが今回のような、政治的あるいは社会的な報道へも幅を広げてスクープを呼び込むという日経の幅のさらに一層の広がりをもたらしたものと、私どもは自負しています。