なぜ翻訳でステレオタイプな「女ことば」が多用される? 言語学者・中村桃子さんインタビュー
(聞き手・構成/鈴木みのり)
http://wezz-y.com/archives/56597

中村:女ことばの発祥のもとは明治の女学生ではなくて東京の山の手の中流女性、奥様の言葉づかいだという研究発表がもてはやされた時代があったんですが、私はそれを『女ことばと日本語』で否定的に実証したんですね。
当時、研究者がろくにデータも集めず検証せずにそういうことを言ったものだから、エンブレムになったんですよね。

――事実に反するのに、研究者が言ったからお墨付きを得た、ということですね。

中村:また、自分の属する状況やコミュニティに応じて、仲間うちのエンブレム、「メンバーであること」を表現する材料として、女ことばを使っているかもしれませんね。
子供のころと大人になった自分はちがうし、学生と話してる私と友達と話してる私もちがう。所属するコミュニティによって言葉づかいって変わるんですよ。言葉づかい概念にくっついている価値に基づいて私たちは判断し、使い分けている。
普段は粗雑な話し方をする女性が就活の面接ではそれでは試験を通りにくいと判断して女らしい言葉づかいをする、男尊女卑な親の前では女らしい言葉づかいする、など判断してきた、みたいに、いろんな要因を考慮して使い分けていると、私は考えています。

――テレビドラマや映画などのフィクションで、子どものキャラクターに女ことばがまぶされていると、特に違和感があります。
また、以前わたしは、ある白人女性俳優のインタビューをした際、「です、ます」調の丁寧語で書きました。
まじめに演技論を話していて、知的な方だったから、傍若無人なタメ口にしたり女ことばにするのはちがうかな、と判断しました。
しかし、別の女性向け雑誌では、同じような内容の答えなのに「だわ、かしら」と典型的な女ことばで、その落差に驚きました。