2017/5/1付
(緊迫する世界)北朝鮮 現体制は安定 シンガポール元外務次官 ビラハリ・カウシカン氏
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO15933540R00C17A5FF8000/
 ――核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮を止める方法はありますか。
 「戦争でも起こさない限り、北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることはできないだろう。だが、日本や韓国は現在の
北朝鮮の能力でも射程に入っており、戦争のリスクは大きすぎる。追加の経済制裁も効果がないだろう」

 ――米中による圧力も効果がありませんか。
 「米国によるシリア攻撃は北朝鮮への警告にもなったが、北朝鮮の政策を転換させるまでには至っていない。
中国も北朝鮮を止めることはできない。共産党体制の保持が最も重要な中国にとって、似たような体制を取る北朝鮮を
不安定にするのは自国民の不安をかき立てることになるからだ。遅かれ早かれ、北朝鮮は米国を射程範囲とする弾道ミサイル
や核兵器を持つようになる」

 ――では、どう対応していくべきでしょう。
 「2つの選択肢がある。1つは金正恩体制を保証する代わりに、核・ミサイル開発を凍結させる非核化だ。
ただ、北朝鮮が合意可能な内容を日米韓が受け入れるのは政治的に難しいだろう」
 「もう1つは核による抑止力だ。北朝鮮は金正恩体制の崩壊を恐れており、核の抑止力は機能しうる。
しかし、北朝鮮が米国西海岸を射程範囲とする核ミサイルを持つようになった場合、米国が自国民を犠牲にするリスクを払ってまで
日本を救うかという問題が出てくる。その場合、日本は自ら核兵器を保持することを真剣に検討しなければならなくなる」

 ――日本も核兵器を持つかどうかの決断を迫られる時がいずれ来ると。
 「脅威は北朝鮮だけではない。中国が核・ミサイル能力をさらに増強すれば、日本はいつまで米国の『核の傘』に
いられるのかという問題になる」

 ――核保有への世論の抵抗は依然強いです。
 「歴代政権は決断をできる限り避けてきたが、東アジアの地政学は劇的に変化している。日本は既に核兵器を作る能力
を十分持っていると思う。あとは政治的な決断だ」

 ――その前に金正恩体制が自壊する可能性は。
 「北朝鮮が自壊するといった予測はこれまで何度も聞いてきたが、私の印象では北朝鮮の体制はある意味機能的で、
不安定とはいえない。希望的観測は避けた方がよい」

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