>>329
 ――言葉を発するのが怖くなったり、やめたいと思ったりしたことはありませんか。

 「震災後の2、3年は、何もしゃべれないと思ったことがありました。それこそ『上から目線』に受け取られるんじゃないかとか、『内陸の人間なのに何がわかるんだ』といった言葉が来るのでは、というおびえもありました。全方位に気を使いすぎているのかもしれませんが、SNSの反応がものすごく気になりました」

 ――どう乗り越えましたか。

 「うそはつきたくないんです。仮面をかぶろうとしても、自分がしゃべりたい言葉が、おのずと出てきました。そこで自分との対話が成立していき、だんだん自分の考えがまとまっていきました」

 ――自分に正直になるのは、簡単なことではないですよね。

 「自分が思っていることを明確にわかっていれば、本当のことを言えるんだと思います。たとえばアスリートって、『納得できる演技ができたらいい』『練習で頑張ってきたことが出せたらいい』みたいなことを、よく言うんです。でも、本当にそう思っているかと言われたらそんなことはなく、心の仮面をかぶった状態でしゃべっている時もある。僕は、自分の芯が何かわかっているので、戸惑うことなく話せるのだと思います」
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 ――その芯は、どのようにして作ればいいのでしょう。

 「ある意味では、それが僕の場合、言葉なんです。言葉にすることで、だんだん自分の芯がまとまってくる。人間って、シチュエーションごとにいろいろな顔や心が存在するじゃないですか。でも、その奥の方にある本心みたいな根っこのところって、そんなに変わらない。その根っこは、自分ではあまりわからないですよね。僕は言葉にすることによって、自分の根っこがだんだんわかってきた。根っこから小さい細い根が生えて、いろいろな言葉がまとまって、太いものになってきました」

 「言葉を発する機会が少ない人もいるでしょう。でも、誰かとメールでやり取りしたり、ボイスメモで声を残したり、SNSに載せたり。そういうところに自分の言葉をパッと載っけていくだけでも、だんだん芯はしっかりしていくんじゃないかと思うんです」