チリ〜ン
お店の木製のドアに付けられた客の来店を知られる鈴の音が静かに鳴った。

ここは「スノボスナック GOGO」
季節によって賑わうスス板通りから横路に入った所にある。決して広い店では無いが、それでも毎日数人のお客が来てはスノボ談義を愉しむ。そんなのんびりとした店だった。

「あら、英寅さん、いらっしゃい!」

来店したお客に声を掛けたのは、この店のチーママ「tu」(通称 tuちゃん または tuーママ)スノボの経験も豊富で説得力のある話と人当たりの良さが人気のチーママであった。

「へへ、今日も来たよ?今日も俺のスノボの話を聞かしてやるからな。へへ」

片手を上げて、そう返事をしたのは最近、店に来始めた「英寅(通称 Aトラ または 寅さん)」スノボの技術的な事には詳しいが、理屈っぽい話と粘着質なのが難点。また以前、板の摩擦熱の話で、この店のママと一悶着あったとの事。

「・・・・・・」

黙っているのはこの店のオーナー「GOママ」
この世界に入りキャリア的には長いが現場主義の叩き上げなので、理屈っぽい寅さんとは話が合わない様だ。

英寅「何だよ?今日もGOママはダンマリかい?本当愛想がねえなぁ!まぁ技術的な事を知らなくて口を出せないんだろうから、そこで黙って俺の話を聞いていれば少しは勉強にもなるぜ?へへ」

tuーママ「寅さん!わざわざママを刺激する様な事を言わなくていいの!飲み物はビールでいい?」

英寅「おう!ンギュっと冷えたやつを出してくれ!へへ」

tuーママは英寅をボックス席に案内した。

そうして少しばかりの時間が過ぎた頃。
店の奥でカウンター越しにGOママと他の客が話をしていた所へ英寅が口を挟んだ。

英寅「あーあー!そんなGOママに話をしても無駄無駄。どうせ何も説明出来ねーんだからよ。何ならライセンスを持っている俺が教えてあげてもいいんだぜ?へへ」

tuーママ「やめなさいよ寅さん、寅さんの話も分かるけど、他のお客さんと話をしているんだから、さぁこっちで飲みましょう!」

GOママ「・・・・」

また少し時間が経ち、英寅の口数も増えていた。

英寅「…でな!沈み込み荷重の沈み込み動作、立ち上がり抜重の立ち上がり動作はそれぞれどういう目的の動きなのか説明できる?他に説明出来る客は居るのか?あぁ?できないでしょ?それを出来るのがA級の俺なんだよな〜!へへ」

英寅は座っていたボックス席から立ち上がると手を前に突き出し、他の客一人一人を指差す様にして店内を見渡し大声をあげた。
英寅の隣でビールを注いでいたホステスも眉をひそめている。

「ちょっと寅さん!飲み過ぎじゃない?今日はそろそろ…」

カウンターの中からtuーママが声を掛けるが、その声を遮る様に英寅は話を続けた。

「なんだなんだ〜?ここは劣等感の塊の集まる店か?そんなんだから試験に受からないんだよ!ちゃんと何が求められているか、理由を考えろってんだ!へへ!」