今夜の知世は少し夜更かしだ。
『当日1番にお祝いするから、ぜったいぜったい起きててね!』と宣言した親友から、日付をまたいですぐに連絡をもらうことになっている。
今日の日はまだ少し残っていて、後数分で一つ歳を重ねるのかと思うとなんとなく名残惜しい。
ぼんやりと物思いにふけっていると、ふと小狼からもらったフルーツケーキのことが思い出された。
明日以降が食べ頃だ、という言葉を受けて、机の上に置いたままにしていた。
せっかくだから、さくらちゃんと一緒にいただいてもいいかもしれない。
そう思った知世は、まだ時間があるのを確認してベッドから抜け出した。フルーツケーキは、綺麗な紫色の薄紙に折り目正しく包まれている。
(李君らしい几帳面さですわ)
丁寧にその包装を外すと、セロファンに包まれて、焼き目の綺麗な、これまた折り目正しく焼かれたフルーツケーキが出てきた。
と、一枚のカードが滑り出てきた。

『誕生日おめでとう 
        李 小狼』

知世はあ、と思った。
  『―――そんなことありませんわ。大きさも揃っていますし、人前に出しても恥ずかしくないと思います』
  『―――そうか?』
  『―――ええ』
  『―――それなら良かった』
  『―――……?』
  『―――いや、なんでもない!!』
昼間彼が言った『それなら良かった』という言葉はきっとこの事を指していたのだろう。
自分の誕生日を覚えていてくれただけでなく、きっと心を込めて丁寧に書いてくれたのだろう。苦手なひらがなまで全部。
(日本語の「おめでとう」は、漢字では書けませんものね)
英語でもなく、中国語でもなく、日本語という自分の母語を尊重して書いてくれたこと。
それはまさしく、日本に生まれ、日本人として生きる自分の誕生を心から祝ってくれている小狼の気持ちそのもののように知世には感じられた。