逆の立場だったらと考えると。
ミュラー加勢後に新たな計算を元に戦い純粋な戦闘を主導し続けたヤンならばそれに応じた方策を採ったと思うが。
ラインハルトは一旦主導権をとられてからは、ヤンの計算の範囲で対応し続けただけで新たに計算をし直すという事を全くしていない。
事前に作戦を立てることに於いては正統的な天才を発揮するが、実際の現場において反射的な策を講じる事はラインハルトは得意ではないのだろう。
戦略は正しから勝つのだが戦術はそうではないと小説中にも書かれている。
つまりラインハルトの天才はあくまでの徹底した正当さを極めたところにあるのであって、大胆な発想の転換も理に適うことを従来の枠に拘ることなくできるが故である。
これはラインハルトのある種の生来の生真面目さからきているように思う。
そういった意味からラインハルトは本質的には戦略家であって戦術家ではない。

傍にいた人間については。
キルヒアイスがそう進言すればとは書かれているが、キルヒアイスならばそう進言したとは書かれていない。
キルヒアイスの洞察力はヤンには及んでいないことはアスターテに於いて示されている。
但しキルヒアイスはヤンを高く評価し、自らがそれに及ばない事を受け入れる度量を持っているので、ラインハルトの策が完全にヤンに見抜かれているのではないかという進言はした可能性はあるだろう。
その上でその場合の方策を考えるのがラインハルトの役目。
キルヒアイスの方策を講じる才はラインハルトには及ばないのだから(なぜなら枠の捉え方がラインハルト程自由ではないから)。
それまでのあり様を考えるとそう考えられるだろう。
そうした場合は迎撃法の大幅な変更をしなかった可能性が高いが、それでもヤンは方策を他にも用意していた可能性が高いと思う。
アルテミスの首飾りの時のようにね。
とどのつまりラインハルトの本営を突くという目的はハッキリしているのだから、その間の障壁を如何に躱す・排除するかである。
従来の迎撃法を放棄しないという見極めが出来れば、本営との間に本来何もないという状況は変わらないのだから、その上での本営を突く方策を出してくるのがヤンである。
状況さえきちんと絞り込めればそれに対応する策を出してこれるのがヤンだから。
ユリアンの言葉はその事を早く見抜く契機にはなっただろうが、そもそもユリアンの洞察力はヤンを思考法の延長線上にあるのでヤンがその事を見抜くのは時間の問題だっただろう。
(他の場面でユリアンが僕でさえという言葉があるように、その可能性は既に脳内にあったかもしれない。)

純粋な戦術指揮官としても、読み合いにおいてもヤンが勝っていると考える理由である。