>>298
 それが、鬼界カルデラの噴火で九州を追われて、6千年前に海面上昇で森が劇的に縮小し、生きる場を失った。

 ただ、最初に移り住んできた縄文人たちというのは、トトロたちとは仲良くやっていました。
 彼らも農業はやってたんですけども、あくまでも小規模な農業だったからです。

 しかし、その後に渡ってきた弥生人たちの農業というのは、大規模なもので、
太古の森をみるみる伐採して、燃料を作ったり、畑や田んぼに改造したりしたんです。

 その結果、日本に元々あった太古の森は、人間にとって便利な“里山”になってしまったんです。
古代のクヌギとかブナとかの樹木がどんどん失くなって、利用しやすい雑木林に作り変えられました。

 現代の僕らが目にするような自然というのは、本当の意味での自然ではないんです。
 キャンプなんかに行って、山を見たりすると「ああ、自然だなあ」なんて思うじゃないですか。
だけど、あれは本当の意味での自然ではなく、大規模農業によって一度改造された後の自然なんです。
現在残っている森の内99%は、もう原生林ではなく、農業が作った雑木林に取って代わられています。

 トトロたちの先祖である古代の神々は、そんな雑木林では生きられないんですよ。
彼らは原始の森から生まれたような存在ですから。
だから、乙事主が言うように「身体が小さく、言葉も喋れなくなった」んです。

 そして、乙事主にそう言わせる存在こそが、『となりのトトロ』に出てくるトトロなんですね。
 体長がわずか2mしかなく、人間の言葉も喋れない、かつての神様。

 『もののけ姫』の中で、散々「我々はもう終わりだ」とか「これからは身体がどんどん小さくなって、
言葉を話す知性もなくなっていくだろう」なんて言われた、その成れの果ての子孫がトトロなんですよ。
・・・
 だけど、その代わり、トトロは人間と共存することを覚えるようになったんです。
 ドングリを食べるようになって、里山の近くの鎮守の森でひっそり生きて、
縄文人たちから土器を作ることを習い、江戸時代の子供からコマを作ることを習う。
 そんなふうに“ひっそりと生きる”方法を覚えたんですね。

 おそらく、600年くらい前に起きた“もののけ姫大戦”とでも呼ぶような戦いに破れた神々の子孫たちが、
今も、日本中のいろんなところでひっそり暮らしているんでしょう。

 つまり、トトロというのは、西洋人に絶滅させられかけた“アメリカン・インディアン”みたいなものなんですよ。
 そういう先住民族みたいなものなので、稲作をする弥生人……つまり“僕ら”に見つからないように、ひっそり生きているというわけですね。