>>429
 『日本漫画協会』というのがあるんですけども、そこから電話があって
「今年の漫画賞は宮崎さんの『風の谷のナウシカ』で行こうと思ってる」という話があったと。
 これは鈴木さんが電話を受けたそうなんですね。

 それで、後から漫画協会の委員長から手塚治虫先生の方へ連絡して、了解を得るだけだという状態になっていたと。
 「日本漫画協会の今年の大賞は、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』だ」って事で、“内示” っていうのかな。
 まぁまぁ、一応、内輪話というか、内諾を得るような話があって。

 「後はもう、手塚治虫先生の了解を得るだけだ」って事になったんですけども、
ところが夜中に電話があって、それが引っくり返された。
 「手塚先生 一人が、反対をしている」と。
 「ナウシカは素晴らしいと思う。 しかし、まだ完結していない」
 「完結していないものに賞を与えるのは、どうしたものかな」って言ってるんですけども。
 実は、その日本漫画協会の大賞というのは、過去に連載中の作品にも、いくらでも与えてるんですね(笑)。

 手塚治虫も、その他の賞とかも、連載中の作品でなんぼでも取ってるわけですから、
実はここで “与えない理由” がどこにも無いんですよ。
 そこを鈴木敏夫は指摘したんですけども、結局、手塚治虫の反対を覆せなかったと。

 それで宮崎駿が「なに言ってんだ! バヤカロウ!」って怒ったのかっていうと、宮崎駿は何か凄く納得したと。
 「やっと手塚治虫に認めてもらった」と。
 「俺の描いたものが、手塚治虫を嫉妬させた」と。

 手塚治虫が凄く嫉妬深いのは有名で、大友克洋が出てきた時にも、新人の大友克洋に面と向かって
「君みたいな絵は、僕だって描こうと思ったら描ける」と言ったという話があるんですけども(笑)。

 吾妻 ひでお に対してもムキになる。
 いしかわじゅん に対してもムキになる。
 誰に関しても、どんな漫画家にもムキになって、対抗意識を燃やすのを忘れない。

 もちろん、それぞれの人に「手塚先生、ファンです!」って言われたら凄い喜ぶんですけども、
でもだからといって自分の中の “嫉妬の炎” というのは、ぜんぜん治まらないんですね。

 で、そういう手塚治虫に嫉妬をさせたという事で、宮崎駿は、初めて手塚治虫に認められた感じがして、すごく納得していた。
 嬉しそうとは言わないんですけども。
 「ナウシカが賞を取れなかった」というのを鈴木さんに言われたときに、
宮崎さんは凄く冷静に受け止めていたって言ってるんですよね。
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