>>361
 この映画版『狂気の山脈にて』の製作プロジェクトは、とにかくすごかったんですよ。
 まず、プロデューサーがジェームズ・キャメロン。主演がトム・クルーズ。これらが、
もう、全部決まってたんですよね。
 その上、主演トム・クルーズでプロデューサーがキャメロンだから、もう金もちゃんと集まってたんですよ。
本当に制作に入る直前まで行ったんですけども。

 しかし、ここで問題が起こります。
 まず、「デル・トロ監督がやりたいイメージを、そのまんまの形で実現するとなると、間違いなくR指定になる」
というふうに言われました。つまり、18歳以下は見れないような映画になってしまう。
 おまけに、制作費が1億5千万ドルも掛かる。1億5千万ドルを掛けたR指定の映画なんてありえないわけですよ(笑)。

 それで、ユニバーサルスタジオと散々揉めに揉めて、数ヶ月間、「本当に作るか、延期するか、辞めるか?」
という話し合いが続いて、デル・トロ監督はとことん疲れていました。

 結果、「スケジュールだけを決めよう。いついつまでにどうするか決まらなかったら、もうやらない」というふうに言ったんです。
 まあ、デル・トロ監督としては、実は「それでもやるんじゃないか?」と心の中で思ってたそうです。
なので、「とりあえずスケジュールだけ決めてくれ」と言ったんですね。

 ところが、運命の日。2011年3月4日の金曜日だそうです。
 これ、なんでわざわざ金曜日と言ったのかというと、
そこからの週末のデル・トロ監督の心の動きがなかなか切ないからなんです。

 2011年の3月4日金曜日に、ついにユニバーサルスタジオから
「じゃあ、もう『狂気の山脈にて』はやらない」という決定が届いたんですよね。

 金曜日というのは、「これから週末、何しようか?」って、アメリカに住んでいる人は考えるんですよ。
それと同じく、週末が楽しみだったデル・トロ監督は、その報を聞いてメチャクチャ落ち込みます。

 「この週末、もう本当にメチャクチャ落ち込んで、マジで自殺を考えた」と言っています。
なぜって、何年も準備して、人生の全てを掛けて、このものすごく変な
“人類が発生する何億年も前の怪物同士が戦う話”を映画にしようとしていたのに、それがダメになったんですから。
 それが3月4日の出来事です。
・・・
 ところが、その翌日の3月5日の土曜日。デル・トロ監督がまだ落ち込んでいるところに、
レジェンダリーフィルムの重役たちがやってきて、こんなことを言ったんです。

 「デル・トロさん、手が空いたそうですね。『パシフィック・リム』の監督をやりませんか?」と(笑)。
 それを聞いたデル・トロ監督は、「いい加減にしろ!」と。

「俺は人生で最大級に落ち込んでいるというのに、なんで、このロボットと大怪獣が戦う映画の話を持ってくるんだ!
確かに、俺もプロデューサーをやると言ったけども!」って追い返したんですけど。