2018年05月22日07:00
『パシフィック・リム』解説2 「デル・トロが監督を引き受けるまで」
http://blog.livedoor.jp/okada_toshio/archives/51547777.html

 だからといって、デル・トロ監督は、ゴッホのようにただ模写をしたというわけではないんですよ。
『パシフィック・リム』というのは「俺なら怪獣や巨大ロボットこう作るよ!」という、
主張のあるアレンジがかなり強い作品なんです。

 というのも、ギレルモ・デル・トロ監督という人は、『パシフィック・リム』に関しては、
もともと監督の予定ではなかったんですね。
 もちろん、製作元のレジェンダリーフィルムとしては「いや、デル・トロが作ってくれたら一番いいんだけどな」と思って
、企画書を渡したりしてたんですけど。それに対して、デル・トロ監督は当初は
「メッチャ魅力的だけど、俺、時間がないわ」と答えていたそうです。

 なぜかというと、当時のデル・トロ監督は、『狂気の山脈にて』という、ものすごく作りたかった作品の準備をしていたから、
時間がなかったんですね。なので、「プロデューサーだったらやってもいいよ。シナリオには口出しをさせて」って
、軽くプロデューサーをする予定だったんですね。

 デル・トロ監督というのは、そのずっと前から『狂気の山脈にて』を映画化するために、
もう睡眠時間も割いて、というか、1日3,4時間しか寝ずに準備をしていたそうなんですよ。
・・・
 この『狂気の山脈にて』という作品は、ハワード・ラヴクラフトという第2次大戦前に活躍した
アメリカの幻想作家の代表作と言われている長編ホラー小説です。

(パネルを見せる。ラヴクラフトの肖像) http://livedoor.blogimg.jp/okada_toshio/imgs/6/a/6a5a379f.png

 ラヴクラフトというのは、この写真ではちょっとわかりにくいんですけど、
ものすごい変人の作家で、とにかく書いた小説が少ないんです。

 だからといって、「書くのが遅い」んじゃないんですよ。彼は、友達からの手紙とか、
あとはファンレターが届いたら、それらに全て返事を書いてたそうなんですよ。
なので、「生涯に書いた小説の量より、友達に書いた手紙とか、
ファンレターに書いた返事の方が何倍も多い」と言われてるような人なんです。

 おまけに、小説の校正を頼まれることが多かったんですね。アマチュア同然の人とか、いろんな人の書いた小説を読んで、
その中にスペルのミスがあったら直したりとか、そういった校正の仕事をやってたんですよ。

 ところが、その校正の仕事でも、だんだんと気分が乗ってくると、全部書き変えてしまったりして、
「これ、もう、ラヴクラフトのオリジナル小説じゃん!」ということもあったそうなんですけど(笑)。
にもかかわらず、校正料としては、わずかなお金しか受け取らなかった。

 なぜかというと、生まれがお坊ちゃんだったからなんですね。お坊ちゃんなもんだから“貴族趣味”というのか、
「貴族というのは生活のために働いたりしない」という信念があったんですよ。

 そのおかげで、どんどん貧乏になって、もう本当に人生の半ばくらいからは、
奥さんが働いて生活費を稼ぐという「どこが貴族なんだ?」みたいな状態になってくるんですけども。