教育をデータで斬る(2) 学歴に意味はない
エール大学助教授 成田悠輔
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO55722220X10C20A2SHE000/
 ・・・そんな実験はいくらエビデンス好きの政府でもできません。
 その代わりによく用いられるのが、架空の実験に似た状況を現実世界で見つけ出すという方法です。
意図せず自然に起きた実験という意味で「自然実験」と呼ばれ、データから因果関係を見つけ出す「因果推論」で
よく使われます。
 自然実験を使った教育効果の測定は教育学や心理学で20世紀半ばに始まり、1990年代以降、経済学などにも
浸透しました。では学校による違いはあったのしょうか。米マサチューセッツ工科大のヨシュア・アングリスト教授らと
筆者の共同研究を紹介します。
 舞台はシカゴです。この街には入学が難しい有名公立高校が10校ほどあります。これらの学校にギリギリで合格
した生徒と、ほんのわずかに点が足りず不合格となった生徒のその後を比べます。ギリギリで受かるか落ちるかは
偶然に近いと考える自然実験です。
 両者の米国版センター試験の成績を比べたところ、有名校に入っても普通の高校に入っても違いがないことが
わかりました。有名校の生徒はその学校のおかげで成績優秀なのではなく、そもそも成績優秀な生徒が有名校に
入っているだけ、という残念な結論です。
 ニューヨークやボストンの有名公立高、ハーバード大やエール大のような有名私大でも、成績や収入を伸ばす
効果は普通の高校・大学と大差ないという研究があります。有名校に入っても学生の未来が明るくなるとは限らない
のです。
 日本にはこうした分析はありません。データがない、というのが理由(言い訳?)のようです。「わが校の教育には
効果あり」と信じてやまない関係者の方はぜひご一報ください。