>>222
続き

■来訪
 一人で住み始めて一ヶ月ほどたった頃。私は階段を上ってすぐ左手にある2階の6畳間で眠っていた。眠っていたはずなのだが、キーーンという強烈な耳鳴りがした。その耳鳴りで私は顔をしかめながら目を開けた。
 目に映る光景に私はハッとした。開け放していた6畳間の出入口にある引き戸の暗がりに、細身の女性の脚と白いワンピースの裾が見えた。気が付けば身体が動かない。眼だけは動かせる。見直してもそこに女性が立っている。
 しかしなぜか怖さを感じない。
(誰だ?なんだか知っている気がする)
 私は記憶を辿り、思いを巡らせた。
(妹ちゃん?)
 なんの根拠も無いのだがなぜかそう思った。普段は義実家を訪れても意識することすらない妻の妹。彼女は幼くして亡くなっていて、かろうじて白黒の遺影を見たことがあるだけだ。